表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/30

Snow1 出会い

 あの日の僕は、疲れ果てていた。

 肉体が、じゃない。

 心が、だ。

 つまり、精神的にやられていたのだ。


 何をやっても上手くいかない僕は、多くの人から冷ややかな目で見られた。


 早くしろ、なんでそんなにもたもたしてるんだ。

 そんなこともできないのか、頭悪いな。


 いつだって、周りの人は目でそう言っていた。


 僕は焦って、早くやらなきゃ、なんとかしなきゃ、と思うけど、焦れば焦るほど上手くいかなくて、いつも罵倒された。

 時には嫌がらせもされた。

 しかも、すごく悪質な嫌がらせだ。

 救いの手を差し伸べてくれる人など、勿論いない。

 もう何もかも、嫌だったし、正直言って、辛かった。


「僕なんかには、存在意義なんてない」


 本当に、そう思っていたんだ。


「だから、もう死のう」


 いつしか、そう考えるようになっていて、あの日、それを実行しようとしたわけだよ。


 あの日――僕が高校2年生だったから、2年前の2月2日のことだった。

 え?よく日付まで覚えてるなって?

 当たり前だろう。

 僕にとって、あの日は運命の分かれ道みたいなものだったんだよ?


 まあ、それはともかく、僕はあの日、自殺をしようと思って、古ぼけたビルに行った。ほら、今は建て替えられたけど、昔はよく幽霊が出るとか言われてた……そうそう、今のカントリービルのあるところだよ。

 古かった頃はさ、あのビルは防犯もなってなかったし、あんな古ぼけてて利用者なんているわけもなかったし、滅多に人が通らない路地裏に面しているし、自殺にはうってつけの場所だったわけ。

 だからあの日の夜、僕はビルの屋上に行ったんだ。

 それで、人が通らない路地裏の方をさがし、飛び降り自殺をしようと思ったら……


「そこで、何をしているの?」

 って、綺麗な声が聞こえたんだ。

 滅多に来ないはずのビルの管理人でも来たのかと思って、焦ったよ。

 だけど、そうじゃなかった。


 そこにいたのは、長いストレートの黒髪を持っていて、真っ白くて素朴なワンピースをきて、何故か裸足の女の人だった。

「大丈夫よ、私はこのビルの管理人でも何でもないから」

 そう女の人は言って、寂しそうに笑った。

 その寂しそうに笑う笑顔には、見覚えがあったんだ。

 だって……ぼくがいつもしていた笑い方だったからね。


 この人と僕は仲間だな、と思った。

 同じ孤独を味わった人の笑い方や、話し方や、目つきだって思った。

 自分のことは自嘲して、他人は誰のことも受け入れない。

 それが彼女の第一印象……だったかな。


 だからかな。

 出会ってすぐに、僕が彼女に気を惹かれたのは。

「君は、誰?」

 気付いた時には口から言葉が出てきていた。

「まずは自分から名乗れば?」

 ついさっきと変わらない声の調子で言われて、僕はあっさり名乗っていたよ。彼女と同じような口調でね。

「そうか、そうだね。うっかりしてたよ。

 僕は、森元悠太」

「……ふーん、悠太くんか。

 私はゆかさ。雪本ゆかさよ」

「よろしく、ゆかささん。僕のことは、悠太って呼んで」

「なら私のことも、ゆかさって呼んでよね」

「分かったよ」

 こんな口調で会話する2人組なんて、なかなかいないだろうね。


「で?何でここにきたの?」

「最初は、自殺するために。

 ……だけど、その気が何故か失せた」

 途中で僕の声の調子が変わったことぐらい、自分でも分かった。

「へぇ。何で?」

「だって……君に出会ったから」

 その瞬間、その辺りの漂う空気が凍りついたね。


 そのあと、ゆかさは溜息をついた。

 まるで、ああ、またかよって言うかのように。諦めの混ざった溜息だった。

 その溜息も、僕が昔、よく吐いていた溜息と同じだった。

「そうよね、みんなそうやって私に同情するのよね……いつもそう。

 同情して——同じ人だと思い込んで」

 だんだんと口調が荒くなる。

「でも、私のことを本当に理解してくれる人なんて、誰もいないのよ。そのぐらい分かっているの!

 だからもう、私に希望を抱かせないで!分かってくれるかな、なんて思わせないでほしいのよ!」


 ——気持ちは、痛いほどわかる。

 本当は分かってないくせに「分かってるよ」なんて言われたくないものだ。

 それが分かっているから——分かっていると思うから、僕は言った。

「——同情しようとは思わないよ。だから、僕に対して希望を抱かなくたっていい。

 ただ僕は、君のことが知りたいだけなんだ」

 ゆかさは、僕を睨みつける。

 目には涙が滲んでいる。

「――こんな私でもいいの?

 私の秘密を知っても、そう言えるの?」

 彼女の足元が、少し白い。

「もしよければ、聞かせてくれないかな?

 君の秘密を」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ