Snow18 ひとさら
確かその日は、センタープレテストがあった日だった気がするな。その日はね……。
——え?テストの結果?
あのな、それは訊いちゃだめなことだよ、うん。
……まあそれはともかく。
その日も家に帰ると、机の上に300円が乗っていた。
それを掴んで外に出る。晩ご飯を買うためにね。でもその前にゆかさに会いに行きたいと思っていたんだ。
……なんて言うのかな、ゆかさのことが頭から離れなかったんだ。その頃から、ずっと。会いたいって気持ちがずっとあった。
——え?恋でもしてたんじゃないかって?
普通そんなこと訊くかよ?
……まあ、そうなのかもしれないけどね。
「ゆかさ、僕だよ」
「あ、悠太。今日も来てくれたんだね。嬉しい……」
ゆかさは嬉しそうに笑う。
その笑顔に少しどきりとした。
だって大人っぽくて、そのくせしていたずらっ子みたいにも見える、そんな女の人が嬉しそうに笑うんだよ?大人っぽく、素敵な笑顔で。
——完全に恋に落ちてるじゃないか、だって?
……まあ、実際そうだったんだろうね。
まあ、あれを恋と呼んでいいのか分からないけれど。
「晩ご飯は食べたの?」
ゆかさがそう聞いてきたところで、『グウ』とタイミングよくお腹が鳴った。
「ふふ、まだみたいだね。これから買いに行くの?」
「うん」
そういうと、少しゆかさは考えて、
「……なら、私も一緒に行かせて」
びっくりしたね。
だってゆかさがそんなことを言ってくることって、今までなかったんだから。
「……いいよ」
「ありがと、悠太。じゃ、行こっか」
「うん」
僕がそう答えると、ゆかさは思わぬ言葉を継いだ。
「——悠太の家にね」
その数分後、僕たちとゆかさたちは僕の家にいた。
家に向かいながら「どうして急に僕の家に」と聞いたら「私、こう見えて多少の料理はできるの。家にあるもので何か作った方が安いでしょ?」だって。
「それに、お金が置いてあるからってコンビニで絶対に買わなきゃいけないわけでもないし。
もっと言うなら、今日も親御さんはいないんでしょ?私が家に来たなんてバレるわけないじゃない」
ゆかさは冷蔵庫の中を漁った。
「えっと、人参に玉ねぎ、あとウインナーもあるね。卵も。あとは……冷凍庫に冷凍ご飯がある!
ちょうどいいや、これで一品作りますか」
僕は机の上に300円を戻して、心の中で呟いた。
お母さん、この300円は晩ご飯の材料費、ガス代、電気代、水道代に回してくださいって。
その数分後、できあがったのはチャーハンだった。
それも、すごく美味しそうなチャーハンだよ?
「さ、召し上がれ」
「いただきます」
それを口にして、びっくりしちゃった。
「——おいしい!」
「本当⁉︎そう言ってもらえて嬉しいな」
ゆかさはそう言って笑ってみせた。
一皿のチャーハンを食べきった時には、お腹いっぱいで、体も温まったけど……。
不思議だね。
その時、心も温まった気がしたの、覚えてる。




