Snow16 一足遅くても
投稿が遅れました!すみません……。
その日は、3月4日だった。
ひな祭りの翌日で、母さんが休みの日だったよ。
僕は母さんに「ちょっと出かけてくる」とだけ言って家を出た。ゆかさに会いに。
「ゆかさ、僕だよ……って、何してるの?」
「ああ、悠太。嬉しい、今日も来てくれて。
みて、これ。昨日の夜、悠太が帰った後に作ったの」
日付感覚がないから昨日だって気付かなくて……と言いながら見せてきたのは、氷でできた雛人形だったんだ!
「上手くできてるでしょ?桃の花がないのが寂しいけどね」
そう言いながらも嬉しそうに、あれがお内裏様で、あれお内裏様ってこっちだっけ?と言って僕の手を引いた。
——たしかに綺麗だけど、全てが透明で、彩りに欠けてた。雛菓子や桃の花があればまた変わるんだろうけど……。
「ねえ、ゆかさ。桃の花、買ってこようか?」
「えっ、いいの?」
「うん。近くに安く売ってるところがあるんだ」
「ありがとう、悠太!」
ゆかさはますます嬉しそうにした。
できるなら雛菓子もほしいなぁと思いながら、僕はポケットの中を見る。
お小遣いが500円、入っていた。
まず結論から言うと、僕は雛菓子も桃の花も持って帰ってきた。
桃の花は、たまたま会った近所の人に「桃の花を買いに行くんです」と言ったら「ならこれ持って行きなさい」って貰えたんだ。本当にラッキーだよね!
僕はそのままお店に行って、少しだけ雛菓子を買ってゆかさのところに戻ったんだ。
桃の花はゆかさが出した花瓶(?)にさして飾った。中に入れるのは水じゃなくて氷。
「溶けやすい氷にしたからすぐ溶け出すと思うな」
そう言ってゆかさは笑った。
雛菓子は僕が飾った。ゆかさに「そこじゃなくて、もう少し横!」とか言われながらね。
「写真撮っておこうか」
「うん!
……あ、でもカメラは?撮れるの?」
「うん。明日には印刷して持ってくるよ」
明日には印刷して持ってくるなんて無理でしょ!と言い張るゆかさを宥めつつ、僕はスマホを取り出して写真を撮ろうとした。
「え?なにそれ!薄っぺらい!
それで写真が撮れるの?」
「うん、そうだよ」
言いながら思い出していた。
ゆかさが生きていたのは、何年か前のことだということを。もしかしたら、携帯電話だってまだガラケーが主流だったのかも。
「これ、今の携帯電話……みたいなものかな」
「えっ、嘘!ボタンもこれだけ?」
「うん。写真はこうやって撮るんだ」
僕はカメラをロックを解除せずに呼び出し、写真を撮る。そして、撮れた写真を見せた。
「画面に触れただけで動くの?わぁ、写真ちゃんと撮れてる!すごいね、これ!」
ゆかさはさっきから驚きっぱなしだ。
「家で印刷できるから、明日持ってくるよ」
「家で印刷⁉︎」
「うん」
「まって、凄すぎない?
私がずっとここで時間を過ごしている間に、いろんなものが変わっちゃったんだね……」
「……そう、だね」
ゆかさの声が、少し寂しそうな声だった。
「……でも、変わらないものもあるよ」
「そう?」
「うん。
例えば、3月3日には雛人形を飾る風習とかね」
「……そっか。そうだね。
何もかもが変わるわけじゃないんだ!」
ゆかさはそう言って、笑った。
これから先、もっといろんなことが変わっていくとしても、昔からの風習は——雛人形を飾ることとか、そういうこと——は変わって欲しくないな、と思った僕だった。




