Snow15 支え合うこと
あの夜は本当にびっくりした。
悠太の顔がいつもと違うように見えたの。
あんなに悲しそうな目をしてて……なのに無理して笑ってたのよ。だから私、悠太に怒っちゃった。
無理はしないで、何かあるなら聞くから言って、溜め込まないで、って。
そしたら、悠太がぽろぽろ泣き出しちゃって。本人はそのことに気づいてなさそうだったけど。
だからあの夜は、ただただ私は悠太の話を聞いていたの。少しでも寂しさが消えますように、笑顔が戻りますように、って心の中で祈りながら。
その時悠太は心の中に溜まっていたものを吐き出すだけで十分だったみたいね、全て話し終えると「ありがとう」って言って帰っていったけど……。
人って支え合わないと生きていけないんだな、ってその時思ったのよ。
——ここでそんな話?なんて言わないでよね、それは承知の上で話してるんだから。
人は支え合わないと生きていけない。
社会的にも、精神的にも。
社会的に、っていうのは……つまりは、誰かが人参を食べたいと思ったら売る人がいないと買えないし、育てる人がいないと売れない。逆に誰かが人参を売りたいと思ったら買ってくれるお店の人たちがいないと出来ないし、お店の人が人参を売りたいと思ったらお客さんがいないと売れない、みたいな。誰かが欠けると生活に支障が出るような、そういうことかな。
精神的に、っていうのは……頼れる人がいること、信頼できる人がいること、頼ってくれる人がいること、信頼してくれる人がいること、そういうことじゃないのかな。
——悠太にはね、精神的に支え合える人があまりいなかったの。
1番身近にいるはずの頼れる人はね……1人はもうすでに、こちらに来ている人だったの。もう1人は毎日働いていて、悠太のことが大好きでも、構ってあげることがなかなかできなかった。
ましてや悠太はようやく嫌がらせが終わり始めた頃、友達もあまりいなくて、親友と呼べる人もいなかった……。
ねえ。
あの時の私は……悠太にとって「頼れる人」になれていたのかな。そうだったからきっと溜め込んでいた心の歌を言ってくれたんだとは、思うけどね。
もしそうだったのなら嬉しいし、自殺して雪女になったことも、まあ悪くはないのかも、と思えたりするのよね。
だって、大切な人に出会えて、その人の役に立てたことになるんだもの。




