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Snow14 後悔先に立たず

 その日は学校がいつもより早く終わったんだ。だってほら……学年末だったからさ。結果は割と散々で……えへん、そんなことはさておき。

 その日も家に帰ると、机の上に300円がぽつりと置いてあった。

 晩ご飯はこれで済ませなきゃな、と思って、それをつまみあげてポッケに入れ、ソファーに倒れこんだ。

 正直、疲れていた。

 そして、寂しかった。

 他にも色んな負の感情が込み上げてきて、動けない気がしたんだ。


 僕の家の事情を説明すると——内緒だよ?

 実はね……僕のお父さんは、数年前に事故死したんだ。だから僕の家には、お母さんしかいない。

 お母さんは毎日働いているんだ。流石にどこに勤めてるとかは言えないけど……接客業だよ。いつも帰りは僕よりも遅い。お弁当はいつも作ってくれるし、できる限りは晩ご飯も作ろうとしてくれているけど……やっぱりそれが厳しいことの方が多くて、晩ご飯は渡されたお金を使ってコンビニで買ってきて食べることが多い。日によって500円だったり、300円だったりする。僕もなるべく、安く済ませようとはしてるんだ。生活が苦しいのは、分かってるもん。


 だけど、でも。

 自分の感情は、自分の心が決めるものであって、自分で完全にコントロールできるものでは、ない気がするんだ。多少抑えたり我慢したりはできても、限界がある。そういうものだと僕は思う。

 だってあの日も、寂しいだなんて思ったらだめだって、仕方のないことなんだって、いくら我慢しようとしたって、出来なかったんだから。

 目を閉じれば、どこまでも沈んでいくような気がしたよ。どこまでも深い、闇の中にね。


 その時だったな。

『寂しかったら、いつでもここにおいでよ』

 不意に、ゆかさの声が聞こえた気がしたのは。

『私はいつでも、ここにいるから』

 ゆかさに会いに行こうって思った。

 すると、少し前に見た星みたいに明るい光がひとつ、見えた気がして、僕はなんとかソファーから起き上がることが出来た。


「ゆかさ、僕だよ」

「あ、悠太。嬉しい、今日も来てくれるなんて」

 ゆかさはにっこり笑って、でも、そのあと心配そうな顔になったんだ。

「——大丈夫?疲れてるみたいだけど」

「——あ、うん」

 嘘をつくと、ゆかさは真剣な目で僕を見て一言、

「絶対嘘でしょ」

「え」

「何かあったんだったら言ってくれればちゃんと聞くよ?もし何か辛いことがあるんだったら誰かに頼っていいんだし、誰かに話したっていいんだし。

 とにかく、溜め込むのだけはだめ。自分の中に溜め込んでたら、いつか自分が壊れるよ?」

「……でも」

「『でも』じゃないの。悠太もそれは分かってるでしょ。溜め込んでたら私みたいになるよ」

 そう言って、ゆかさはため息をついた。


「……今更後悔してるのよ、いろんなことを。

 辛かったこともたくさんあったけど、もし誰かに相談できてたら少しは楽になったかも、とか、もしあんなに辛くあたってなかったらそもそもいじめられなかったかも、とか、もし自殺していなかったら大学に進学してて、そこではいじめなんて無かったかも、今頃私は楽しい人生送ってたのかも、とか色々。

 後悔しても何も変わんないけど……でも、しちゃうの。どうしても。

 ……だからせめて」

「……せめて?」

「……こんなこと言うの恥ずかしいけど、せめて、悠太には同じようになってほしくないの。

 学校に居場所が出来たからって、辛いことがなくなるわけじゃないし、辛いことを溜め込みすぎれば幸せが感じられなくなってくる。幸せが感じられなくなると何が起こるって……それは分かるでしょ?」

「……うん」

「そんな風には、なってほしくないの。

 だって悠太は私にとって……大切な人だから」

 言葉が、出てこない。

「……ゆかさ……」

「ああもう、恥ずかしいじゃない!こんなこと言うなんて、もう!」


 ——嬉しかった。

「ありがとう。

 あのね、聞いてくれる?」

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