Snow13 解放された夜
その日は、星がよく見える日だった。
街灯やネオンの光が少しあって、それが少し残念だったけどね。
早く悠太が来ないかな、早く一緒にこの星を見たいな、と思っていた時だった。
「ゆかさ、僕だよ」
「悠太、今日も来てくれたんだね。嬉しい」
「今日は星が綺麗だね」
「うん。
……ねぇ、ゆかさ」
「なあに?」
「ここよりも綺麗に星が見える場所があるんだけど……ここから、動ける?」
「えっ」
「もし動けるなら……一緒に見に行かない?もちろん、無理にとは言わないけどね」
「……」
試してみなければ、分からなかったの。だって、鎖は普段、実体化していないから。
意を決して、屋上の出口に向かって歩き出した。
だって、悠太と綺麗な星を見に行きたかったもの。
出口に向かって歩いている間、すごく怖かった。いつ鎖に足を引っ張られるだろうか、って思いながら、歩いたの。
一歩、出口の扉の向こう側に踏み込んだ時、足首に冷たいものを感じたの。
——やっぱりきたか、って思った。
無理やり引っ張ってみたけど、鎖は動かない。
でもやっぱり悠太と星を見に行きたかったから、そのことだけを考えて、もう一回、無理やり引っ張ってみた。
外に出たい。
悠太と一緒に星を見たい。
ふいに、パリン!って音がした。
まるで、何かが割れるような音だった。
カラカラカラッ!って何かのかけらが落ちるような音も聞こえたの。
足が、軽かった。
驚いて足元を見ると、鎖が割れて、落ちていたの。
そして、鎖は消えてしまった。
ふっ、と煙みたいに。
跡形もなく。
「——悠太、行こう!」
思わず、叫んでいた。
「私、ここから出られるよ!一緒に星を見に行ける!」
久々に私は道を走った。
最近のコンクリートは私が生きていた頃のものとは少し違うみたいで、走っていると途中で足の裏の感触が変わるのが分かった。ごつごつしたものから比較的すべすべしたものになったり、またごつごつしたものになったりと、場所によってまばらだったような気もするけど、あまりよく覚えていない。
あの時は悠太が私の手を引いてくれていたっけ。
あの手のぬくもりは、どうしても忘れられない。——ううん、忘れたくない。忘れない。
あったかくて、優しいぬくもりだった。
しばらく走って、着いた。
そこは、小さな公園の裏にある原っぱだった。
街灯の灯りはほとんど見えなくて家も少し遠いところにあったから、ビルの上ほど気にならなかったよ。
ビルの上で見たのでさえ綺麗だった星はますます輝いて、光を放っていた。
ここにいるよ。
小さいけれど、たしかにここにいるんだよ。
そう言うかのように。
「——綺麗だね」
「——本当に、綺麗だ」
私が言うと、溜息をつくかのように悠太も言った。
悠太と見たその星空、今でもよく覚えてる。




