Snow12 暖かい雪女
確か2月下旬だったかな。
その日は、珍しく雪が降った。
いつもはここより北にある隣の市までしか雪は降らない。だから、雪予報でも、大概は雨。だけど、今日はこの街まで雪はやって来た。ここより南側の隣の市も、雪が降っているらしいって情報がTwitterで流れてたらしい。僕はやってなかったから、なんとも言えないけど。
「えー静かに!
今日は雪の為、部活を禁止とする。今日の課外活動は一切無しだ。もっとひどくなる前にさっさと帰れよ!」
そんな担任の先生の言葉をぼんやりと聞く。部活のグループラインでも『今日は部活動は禁止です!自主練もなしで!雪に強い赤心線でさえ遅延してるらしいので、帰りはみんな気をつけて!』と部長が言っていた。
「——よし」
帰る前に、いきたい場所があった。
「ゆかさ、僕だよ」
ゆっくりと、ゆかさは振り返る。
「あ、悠太」
にこ、とゆかさは笑った。
「今日も来てくれたんだね。嬉しい……」
「今日は雪が降ってるね。こっちだと珍しいのにね」
「そうだね……寒くないの?」
「うん、平気。ゆかさは?」
「私も大丈夫」
ゆかさはそう言ったけど、少し寒そうに見えた。だってさ、ワンピースしか着てなかったんだよ?しかも、裸足で。
僕はつけていたマフラーを脱いで、ゆかさに渡した。外してすぐは少し寒かったけど、すぐに慣れた。
「……いいの?」
「うん。僕は上着も着てるし、平気」
「ありがとう」
ゆかさはそっとマフラーを巻いた。
「……あったかい」
ゆかさはそっと、呟いた。
「あのね、悠太。私……少し前までは、暖かさも寒さも、忘れていたの」
突然話し始めたゆかさに少し驚いた。
でもね、とゆかさは続けた。
「私は暖かさを思い出した。今なら、出そうと思えば、あったかい息も出せるんだよ?
雪女なのにね」
ほおっとゆかさは、いつのまにか手にしていた枝に向かって、息を吐く。
すると、息が白くなった。
こんなに寒いのに冷たい息で息が白くなるとは思えない。雪女なら可能かもしれないけど、でも——
——枝は、凍りつかなかった。
これが、あったかい息を出せる証拠だった。
ふふ、とゆかさは笑う。
「暖かさを思い出せば、寒さも当然、思い出す。だって、あったかくない時は、寒いじゃない?」
「……確かに」
僕は何となく納得した。
「……ねえ、気付いてた?
私に暖かさを思い出させてくれたのは……悠太だったの。悠太のおかげで、私は思い出すことができた。
——ありがとう、悠太」
「僕……何もしてないよ?」
「うん。そうかもしれないけど……」
「悠太が毎日ここに来てくれて、それで『ゆかさ、僕だよ』って毎日声をかけてくれて。いつも優しく接してくれたから……私は暖かさを思い出せたの」
ゆかさは僕に笑いかけて、言った。
「本当に、ありがとね」
僕は恥ずかしくなって、首を振って、
「いいや、僕もゆかさに助けられたんだ。
本当に、ありがとう」
でも、ゆかさの方を向いて、笑った。
その時、寒かったはずなのに、あったかかったこと、すごく覚えてる。




