Snow9 それぞれの過去
「学校でね、また嫌なことがあった」
悠太は、ぽつぽつと話し出した。
「動きが遅くて、また責められた。早くしろって言われて、焦って失敗した」
——簡単にその様子が想像できた。
だって、昔、私の身近にあった光景だったから。
「思い出すだけで……震えが止まらなくなる」
悠太は、泣き続けている。
大粒の涙が、とどまることなく流れていく。
雨音だけが、空間を満たしているような、そんな気がした。
「悠太……あのね」
「……なあに?」
「辛いのはすごく分かるよ」
「……うん」
「でもね、そんな人のことなんて、気にしなくていいのよ」
「そうなの?」
「うん。その人たちだって、きっとやればできるって分かってるよ。ただ、その表現の仕方がよくないだけで。だから落ち着いて、深呼吸してやればいいの」
「本当に……?」
「うん」
大嫌いな、自分の過去と向き合いながら。
言っていた。
「私は、悠太とは逆の人だった」
「えっ?」
「私は……いじめだとは思っていなかった」
そして、話したの。
動きが遅い人や物事が上手く出来ない人に、きつく言うことが多々あったこと。時には手をあげたこともあったこと。自分はきっとやればできると思っていたからやっていたこと。でもそれがいじめだと言われるようになり、きつく当たられるようになったこと。自分がやってきたことを、やり返されるようになったこと……。
「そして、私は自殺した。自業自得というか……なんていうのかね」
苦笑いした。悠太はなんとも言えなさそうな顔をしてた。
「だから、大丈夫。とやかく言ってくる人のことは気にしないで、落ち着いてやってごらんよ」
「うん……ありがとう」
その時、降り続いていた雨が、止んだ。
虹が少しだけ、見えた気がした。
その翌日。
「ゆかさ、僕だよ」
「あ、悠太。今日も来てくれたんだね。嬉しい」
悠太は、今まで見たことがない笑顔を見せた。
「ゆかさの言う通りだったよ」
「もう……大丈夫なの?」
「うん。ありがとう、ゆかさ」
その笑顔は、太陽よりも眩しく見えた。
「傷は簡単には治らないだろうし、跡はずっと残ると思う。だけど、今までよりもきっと、この先の人生は楽しくなると思う。僕はそう信じてるよ」
「うん、そうだね」
私がこんな未来を迎えることはないだろうし、私には未来なんてないな、って思ったけど、今悠太が幸せならいいなって思ったこと、今でも覚えてる。




