神を超えた存在
この物語はフィクションであり、実在の人物や地域、その他団体とは一切関係ありません。
「そういえばさっき、みわこ様を直接呼び出せるのは近江ちゃんだけだって…」
厳かな雰囲気に似合わず、フレンドリーで優しそうな神様であった。
接しやすく、何も言わずにこっそり出てきても不思議ではない。
「いやいや!別に私だけしか呼べないわけじゃないよ?呼んでいい許可をもらってるだけ。」
先ほどまで神聖な雰囲気を纏っていた近江だが、今はすっかりいつもの雰囲気に戻っている。
しかし、そんなことよりも土岐には気になってしまうことがあった。
近江の濡れた衣装は身体にしっとりはりつき、その豊満な体を浮き上がらせていた。
同じクラスメイトとは思えない成長の差に、嫉妬もあるが何よりも目を奪われる。
しかし、いきなりセクハラをするわけにもいかないのでしっかり見るだけにとどめておく。
近江は制服からすでに着替えており、白装束のような衣装をまとっている。
残念ながら透けていなくて残念だが、太郎がいるのでむしろよかっただろう。
しかし、近江は中2女子とも思えないバストサイズである。
これはDカップか?私のAAとは比較にもならない。
そう私は流線型の美しさに見惚れているのだ。
決して邪な気持ちがあるわけではなく、ただ大きいのが羨ましいと言う嫉妬心で
「あの、女の子同士でもそんなにみられると恥ずかしい…。」
あの明るい近江からは考えられないくらいか細い声だった。
みるみる顔を赤くして、視線もそらされてしまった。
「ご、ごめんなさい。」
と謝りながらも、土岐の視線は流線型の頂点にご執心であった。
近江は「わ、私着替えてくるから!」とどこかへ行ってしまった。
「まぁまぁ~思春期の女の子には色々ありますよねー。
それでさっきのお話しなんですが…私がこの姿でいる間は、私の加護が滋賀県にいきわたらなくなっちゃうんですよー。
だから、むやみやたらと呼び出されると、加護か偏っちゃって困るですよ。」
そう語る神様の表情は困るのーと言いながら頑張って困っている表情を作っている。
「嬉しそうに見えます。」
「いや!だって!近江ちゃん!数か月に1回とかしか読んでくれないんですよ!
週1で1日間呼び出しても加護的には問題ないのに!困ったときしか!…ね?」
と、いつの間にか着替えて戻ってきていた近江に視線をやりながら抗議を上げる。
一体どこで着替えたのかと思ったら近くの茂みで着替えたようだ。
そういえば太郎君の姿が見えないが、どうでもいいので忘れよう。
「いやいや、県庁から任命されているのにそんな簡単に呼び出すわけにはいかないって!」
「え!?県庁!!」
イキナリとんでもないところに話が飛んだ。
県庁が神様を信じてるっていいのだろうか。
「その県庁に近江ちゃんを任命するように言ったのはワ・タ・シ!なんですよ。だからいいんです。
実際前の代の人は加護が草津の辺りに偏るくらい呼び出されちゃいましたし!そのせいで今は大津よりも発展してしまって…むしろ大津から加護奪って成長したせいで今の県庁がある場所は…」
「あああぁ、今日はそんなこと話している場合じゃないんです!」
もはや駄々っ子になってしまっているみわこの話を無理やり打ち切る。
土岐としては、加護があるとどうなるのか知りたかったが後にするしかなかった。
「遂に、"キョウト"が動き出しました。」
「知っていますよ~。ほーんとに、何時までたっても懲りない人たちですねぇ。」
みわこは今度こそ本当に困ったという表情を作っていた。
"キョウト"
土岐の知る知識では、東京や大阪に次いで知名度が高い場所。
昔ながらの風景が残る町並みは、日本人が忘却しつつある侘び寂びを感じさせる。
今となっては、時代とのギャップを活かした観光名所として、特に外国で最も人気だとか。
そうした取り組みによって、昔は全国ぶっちぎりで人の心を失った県民性が今では
海外向け観光名所として名に恥じない、すべての人に分け隔てなく接する優しさの街…と。
「まぁ、間違ってはいないのですよ~。」
土岐は心の中で考えていたことに返事をされたような気がしてみわこの方を見る。
「まぁ神様ですからこれくらいはできるのです。」
とにっこり笑いかけてくる。
先ほど近江の体に対して煩悩を向けていた気がしたが、一心不乱に見ていたので大丈夫だと言い聞かせる。
「そっちは大丈夫ではないですよ?まぁ、それはいいとして。
"キョウト"はその昔、都として栄えていた街。プライドだけは一人前でその癖外面だけはよかったので観光名所として問題なかったかのように思えていたのですよ。
…しかし、明らかにおかしかった。
彼らのプライドの高さは尋常ではありません。少し前までは、自国民に対して商いをやっていたときですら、よそ者には分からない嫌味を言い、それを身内で笑うという風習がありました。下手をすると同じ"キョウト"の人間相手にすら自分が上であるとマウントを取る…そんな県民性が一切なくなったのですよ。」
先ほどまで優しそうであったみわこの雰囲気が打って変わり、親の仇でも語る用な憎しみを言葉から感じる。
「そして不思議に思っているときに事件が起きたのです。"大津いじめ事件"これは"キョウト"によってもたらされた災厄だったのです。」
"大津いじめ事件"それは土岐もニュースで聞いたことのあるものだった。
「人とは思えない悪魔の所業で、同じクラスメイトを死に追いやったあの、事件です、か?周りの教師、果ては教育委員会すら…加害者側を守る側に回ったとされている。」
土岐は今朝の自分が最も不安視していた話題だけに、ところどころ言葉が詰まる。
「そうです。あれは"キョウト"による呪術によって、"キョウト"の負の感情を全て周りの地域に押し付けているのですよ。」
突拍子のない話に一瞬何を言われたかが分からなかった。
「じゅ…呪術?」
「そう、呪術です。神様がいるくらいですからね。おかしくないのですよ。
実際、"キョウト"にも心優しき神様がいたのですが、陰陽師たちの力の根源とするため封印されています。
本当は"キョウト"の人たちも皆いい人たちなのですが、陰陽師達の強欲で貪欲な業を押し付けられて汚染されてしまったのですよ。そして次に狙われたのが私達…とまわりの地域です。」
みわこのあまりの話にどう返せばいいのか分からない。
「で、でもそんな証拠…」
「んーーーーー。そうですよねぇ。んんっ…では奈良に行くといいのです。」
精一杯唸ってから出た結論がまさかの余所へ行けであった。
「ど、どうして奈良…?」
「私よりももっと信頼における方が教えてくれます。私とその方の話を聞けば、あなたも納得するでしょう。」
みわこは、この場で証明することができないのが悔しいのか、少し悔しそうであった。
「みわこさんより信頼できる方…?」
「全ての奈良民を見渡し救済する、そのままの意味で見渡して救済する神を超えた存在。
―――――――大仏様です。」