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始まりの高校生

頭の中で声がする。

何故こんなところに入るのかと。

俺は答える。

人を守るためと。


頭の中で声がする。

こいつらはお前を

守ってくれなかったじゃないかと。

俺は答える。

だけどお前と出会えた。

それに守ってくれないのなら、

俺が守る側になると。


頭の中で声がする。

ここに入るといってから、

ずっとバカにされてきたのに、

拾った命を落とすかもしれないのに、

お前はアホかと。

俺は答える。

そうかもしれない。

けどそれでもいいと。


頭の中で声がする。

良くはない。

だからこそ俺がお前を殺させないと。

俺は答える。

ありがとうと。


頭の中と俺の口から声がする。

さあ、『俺たち1人と1匹』の反撃の時間だと。


私はいつまで、こんなことをしているのだろう。

洋風の内装の部屋を跳ねまわりながら、

城崎結衣は銃のトリガーを引き、思う。

弾がようやく急所に命中したらしい。

牙をむき出しにした犬の頭に弾痕が刻まれた。

3mはあろうかという巨大な頭を支え、

同時についさっきまで結衣を捕らえようとせわしなく

動き回っていた触手が

へにゃりと脱力し、

轟音でその重量を主張しながら

床に倒れる様を見送った後、

結衣はクルリと後ろを振り向く。

後ろには大量の涙を瞳に湛えた7歳ほどの男の子。

「怖かったね、もう大丈夫だからね。」

結衣はゆっくりとその幼子の側に歩み寄り、

おおよそマニュアル通りに、

笑顔でその子の黒髪を優しく撫でたーーー


『イーター』・・・10年前の2025年。

突如として人の夢の中に

出現するようになった怪物。

最初、人々はやれ悪夢のことを大袈裟にいうな、

やれ集団幻覚だと、大して取り合おうとしなかった。

だから、同時に起きた

変死事件とも、全く関係の無いもの

だと皆思っていた。

あるものは腕が無くなり、

またあるものは内臓を引きずり出されたその事件は、

世界中で起こった。

事件には2つの共通点があった。

1つは遺体発見現場が殆どの場合

ベットや布団の中であること。

もう一つは、被害者の最期の行動が、

例外なく『就寝』であったことだった。


ある時、1人の科学者が、

『他人の夢の中を映像で写す』機械を開発した。

彼は実験と戯れから自身の娘の

寝顔を撮影しながら、夢を覗いてみた。

そこで科学者が目にしたのは、

娘が怪物に襲われている夢だった。

異形の怪物に食らい付かれているその娘は、

右腕から血を流していた。

実際娘がうなされていたのをみた科学者は、

起こしてやろうと体を掴み、揺すった。

その行動から、彼は娘の右腕が出血しているのに、

すぐに気がつくことができた。

唖然とした彼は、再度夢を覗いた。

怪物は娘の頭を

その巨大な牙で木っ端微塵にしていた。

そして、彼の顔に温かいものが触れる。

科学者がそれが砕かれて飛び散った

愛娘の脳髄だと気づくのに、

そう時間はかからなかった。


『夢の中で人を殺す化け物がいる。』

科学者のこの発表は、世界中を駆け巡った。

科学者の機械は世界中に貸し出され、

事実確認が行われた。

結果は、化け物に襲われる夢を見ていた人が

殆どで、

あるものは頭をかじられ、

あるものは脳を吸われ、

あるものは心臓をえぐり取られ、

その全員が朝になるまでに

『夢の中と同じ方法で食い殺された。』

そして、科学者の話は真実だとわかった。

夢の中で人を食い殺す化け物がいる事実は、

世界中を恐怖のどん底に叩き落とした。

何しろ、絶対にしなければいけないことに、

死の危険が伴うのだ。

数ヶ月の間、パニック状態が続いた。


そんな中、科学者は、

復讐の怒りからか研究に没頭し、

『他人の夢の中に精神体として入り込む技術』と、

『夢の中にモノを持ち込む技術』を開発した。

その話が、高瀬 宗一という日本人の耳に届いた。

彼は、この技術を応用して、

イーターと戦う事を思いついた。

そして、夢内脅威排除機関

『ドリーム•セキュリティ』は設立された。

『ゴーストゲート』という

ヘルメットで他人の夢の中に入り、

データで持ち込んだ武器を使って

『イーター』と名付けられた化け物を狩る方法は、

世界に希望を与えた。

たちまち技術は世界中に広まり、

人類はイーターの脅威に

立ち向かえるようになった・・・。


「・・・はい。これがドリーム•セキュリティの、

大まかな歴史です。」

研修生たちに説明を終えた結衣は、

ざっと彼らを見る。

長椅子に座った制服姿の彼らの目は、

人類最大の脅威を

根絶せんと正義に燃えて・・・いない。

殆どが眠そうな目をしている。

(こいつら、本当にやる気あんのかな・・・)

結衣は慣れない制服の上の短髪茶髪に

呆れた表情で手をやり、ため息を一つ。

背が低く、若干童顔の自分なら、

舐められるのも当たり前かも知れない。

彼らは『ドリーム•セキュリティ』

入社志望の学生だ。


『ドリーム・セキュリティ』の戦闘員は、

チップで登録した装備を身につけ、

『ゴーストゲート』というヘルメットを使って

他人の夢の中に潜って、イーターと戦う仕事だ。

といっても、

16歳以上なら

誰でも入れるし、

死の危険はある程度成長するまで

先輩がつくのでほぼないし、

精神体になれば身体能力が上昇するので、

身体能力の高さなどは一切求められないし、

学歴も関係ないし、給料も高い。

おまけに、

『イーター』の侵入を阻害する

『ガードベット』で眠ることができる。

それに何より、人々の生活を守るという、

ヒーローの様な認識があるのだろう。

そのため、

若者には人気が高い。


「何か質問はありますか?」

結衣が聞くが、

手を挙げるものはいない。

それどころか、

「つかさ、早く実技試験してくんない?

いや、それもめんどくせえ。

俺受かるの確定だし。」

後方から野次が飛んだ。

野次を飛ばした長髪の学生は、西川光。

難関私立高校では成績は最高クラス、

親が金持ちなこともあり、

一部の社員から特別扱いを受けている。

筆記試験も余裕の上位である。

ただ、態度は呆れるほど粗暴であるが、

親が権力者ゆえ、注意するものは殆どいない。


「・・・わかりました。

それでは・・・。」

結衣が質問タイムを終えようとした時、

「あの・・・」と、

おずおずと前の方から手が上がった。

手を挙げたのは、

黒髪の少年だった。

結衣は資料を確認する。

少年の名は高瀬司。

学校は平均レベルの公立校で、

筆記試験もギリギリだし、

特に目立った経歴もなかった。

「はい、どうぞ。」

結衣が声をかけると、

高瀬少年はやはり弱々しい声で質問する。

「チ、チップは自分の物を

使っても良いんでしょうか?」

チップとは、夢の中に持ち込む武器や装備の

データが入ったチップのことだ。

親がこの仕事についていたりして、

装備を持参する物も少なくない。

なので、別に構わないと資料に書いていた筈だか。

「構わないと資料に記載していた筈ですが・・・」

高瀬は、驚いた様な顔をして、

「え!? す、すいません。

ちゃんと読んでなかっただけなんですね・・・。」

やはりぎこちなく椅子に戻ろうとする司の頭に、

ペットボトルがヒットした。

中身もしっかり入っていたのだろう。

司は頭を抑えてうずくまる。

後方から怒鳴り声がする。

「つまんない質問で時間潰すなコラァ!!」

投げたのは光の様だ。

「すいません・・・。」

司は謝るが、光の取り巻きが同調する。

「公立のくせに一丁前に・・・。」

「どうせ落ちるんだから質問するだけ無駄だろう。」

これには堪らず結衣も制止する。

「言い争いは外でして下さい。

それでは皆さん、実技試験会場へ移動して下さい。」

その言葉に、受験生たちはゾロゾロと

試験会場に移動する。

司は、まだ痛そうに頭を押さえていた。

結衣は声を掛ける。

「大丈夫?痛そうだけど。」

司はニッコリと笑い、

「大丈夫です。

慣れてますんで。

ありがとうございます、

俺もあなたの部下になれるよう、頑張ります。」

と、笑顔でいい、試験会場に向かっていった。

結構いい感じの少年だ。

是非この少年に受かってほしい。

結衣はそう思った。


実技試験は、『ゴーストゲート』をつけ、

精神空間でイーターを模した人形と戦い、

その討伐数で得点をつけるというものだ。

結衣が1片5000メートルほどの

立方体の精神空間に入ると、

もう全ての学生は武器を持って待機していた。

学生達の装備は、全員長さ85cmほどの片手剣。

チップは、プラス@で武器を持ち込むことができる。

全員が所定の位置についたのを確認して、

結衣は電子ベルを構える。


「試験時間は10分です。

では、よーい、始め!」

その瞬間、大量の動く犬型ロボットが出現する。

このロボットの討伐数で、得点を競うのだ。

受験生達は、ロボットに向かって突撃していく。

1番は、やはり光とその取り巻きだった。

流石は腐っても秀才。

軽快な動きで、次々とロボットを屠っていく。

光の出身校の他の生徒も殆どは、

試験開始3分ほどでもう合格ノルマの

半分ほどに到達していた。

「オラオラ、ドンドンこいや、犬コロども!」

やはり進学校は一味違う。


一方、他の人たちはパッとしない。

特に、司はひどい。

戦うどころか、2匹のロボットに追い回されている。

あ、こけた。

やはり今年の『アタリ』は、光なのだろうか。

(私、あの粗暴野郎より、司くんが

よかったんだけどな。)

と、結衣は思う。

そうこうしているうちに、

試験終了の時間が来た。

仕方ない。

ベルを鳴らした。

「終了です!」

ロボットが撤収し、

受験生達の喜怒哀楽表現が始まる。

歓声を上げるもの、涙を流すもの。

二百人ほどいる受験者の声で、会場は静けさを

まだ取り戻していない。

1分ほど待った後、

結衣はメガホンで呼びかける。

「お待たせしました。

合否の結果が出ました。

右手を見てください。

合格なら赤、不合格なら青に発光します。」

そして、会場が赤青の光に包まれる。

そしてまた、歓声と悲観の悲鳴。

合格者リストが送られてくる。

結衣はそれに目を通す。

合格者には光が、

不合格者に司が、それぞれいた。

赤と青の2色のゲートが現れる。

「合格者は赤のゲート、

不合格者は青のゲートから、

それぞれ出てください。」

受験生達の群れが動き始める。

その時、司が側に寄って来た。

下品に笑いながら

赤のゲートに向かう光の方をチラッと見てから、

「ありがとうございました。

来年は絶対受かります。」と意気込む。

結衣は

「楽しみにしてる。」

と微笑んだ。

仕方ない、受かってほしい人が受からないなんて、

よくあることなのだから。

今年の受験は何となく

引っかかったまま終わった・・・

はずだった。


そこで受験生達がざわついているのに気づく。

「もたつかないで、早く移動してください。」

と移動を促すと、女子の受験生から、

意外な言葉が返って来た。

「ゲートが、ゲートが開かないんです!」

「・・・え?」

結衣は赤いゲートに行って、開けようとしてみる。

しかし、押そうが引こうが開かない。

青も同様。

「バグかな・・・?

しょうがない、司令部に連絡するから、

ちょっと待っててください。」

司令部にダイヤルしていると、

また別のざわつき。

今度は奥の方からだ。

そっちに目線をやると、

なぜか撤収したはずの

犬型イーターロボットが一体たたずんでいた。

ロボットなら危害を加えることはない。

電話に意識を戻そうとすると、ロボットは、

ざわつく受験生を尻目に、

全く動かず、次の瞬間、信じられない言葉を発した。

『とりあえず、殺れるだけ殺っとくか』

そして、バキバキと音を立てて姿が変わっていき、

上半身は人、下半身は馬、腕は90cm程の刀、

そして、犬の頭を持つ異様な怪物へと変身した。

体格は4メートルはありそうだ。

そして、変身した後、

『刀で、近くにいた受験生を切りつけた。』

その場にいた他の受験生達は、

最初、何が起きたのか、理解できなかった。

そして、化け物か人を殺した事実が彼らを襲った。

次の瞬間、

「うわあああああああ!」

「きゃああああああああああ!」

そこは、阿鼻叫喚の地獄と化した。

半狂乱になって出口に殺到するもの。

呆然とその場にへたり込むもの。

『イーター』は、それをウザがるように、

次の肉塊を形成しようと

受験生達の群れに突っ込もうとする。

そこに、銃声が轟いた。


結衣がイーターを二丁拳銃で狙撃したのだ。

ただ、撃ち抜いたのは腕なので、

大したダメージには

なっていない。

だか、イーターの興味はそれた。

「お、お前『セキュリティ』か。

まずはお前からだな。」

そう行ってこちらに突進してくる。

結衣は突進を跳躍してかわし、

4発の銃弾を打ち込んでから、

声を張り上げる。

「 全員、

その場から動かないで!

落ち着いて、管制室からの指示を待ちなさい!」

しかし、内心無理だろうと思った。

なにせ受験生の殆どは

突然のイーターの出現、

そして、ついさっきまで行動を共にしていた

仲間が切られた場面を目の当たりにし、

人喰いの化け物が

今自分たちを襲わんとしている状況で、

冷静に指示を聞けるものが何人いるか。


結衣の考えは、悲しくも当たった。

殆どの受験生は結衣の言葉を無視して、

奇声を上げながら扉に突進する。

皮肉にも、指示を聞かなかったのは

進学校の生徒達が殆どで、

その中には光もいた。

流石進学校、危険察知能力にも優れている。

「おっと、そいつは良くない。」

イーターは再び受験生達に体を向けるが、

結衣はその無防備な背中に、鉛の弾を埋め込む。

「行かせませんよ!?」

「チッ!」

イーターは刀のような両手を振り回し、弾を弾く。

そして、斬撃の雨を結衣に振らせる。

かろうじて避け、頰に赤い血の線が走る。

受験達は、もう扉をやぶり、我先にと脱出していた。

もう少しだ。

「うわああああああああああ!」

結衣は弾丸を乱射する。

本当は自分だって逃げたい。

結衣の2丁拳銃は、

あまり近接の単体戦闘には向いていない。

それに実戦経験もあまり無い18歳で、

正式戦闘員にもつい最近昇格したばかりなのだ。

そんな自分がパニック状態の

数十人を守らなければならない。

誰が考えても最悪の状況だ。

受験生達の避難が完了すれば、

すぐに自分も脱出し、応援を呼ぼう。

そう考えた時だった。

足に激痛が走る。

その原因は、足を切られたことによるものだと

言うことに気づくのに、少し時間がかかった。

動けない。

「やれやれ、やっぱり遊んでるとろくなことねえな。

せめてこいつだけでも殺そっと。」


そう言うと、結衣をつき転がし、上に乗る。

「うああああああああああ!」

結衣は悲鳴をあげる。

「よし、首落とすか。」

犬の頭がそう喋る。

精神体の状態では、並大抵のダメージなら

大したこと無いが、

生身の体でどう考えても致命傷、

例えば首を落とされたりすれば、死に至る。

このままでは、確実に死ぬ。

だけど、逃げられない。

嫌だ嫌だ死にたく無い。

しかし、状況は無慈悲だった。

「あばよっと。」

犬の口がそう喋ると、右手の刀を振り下ろす。

結衣は覚悟して目をつむった。

ーーー首を刎ねられるってどんな音がなるんだろ。

鈍くて嫌な音だろうな・・・

ギィンと、金属音が響く。

・・・金属音?

結衣は目を開ける。

目に入ってきたのは、

刀状の手を振り下ろさんとする

化け物、そして、

身の丈ほどの黒い大剣でそれを防ぐ、

制服姿の艶のある黒髪の少年だった。

「た・・・高瀬司くん・・・?」

少年は、高瀬司はやはりニコリと笑い、

「これで少しは点数稼げますか?

試験官殿。」

驚いたのは、結衣だけでは無いようだ。

「テ、テメエ何もんだ!?」

そして、またあの斬撃の雨を繰り出す。

結衣は思わず頭を伏せる。が、

司は、

「大丈夫ですよ。」

と一言いい、

『斬撃を一瞬で全て防いだ。』

イーターは、

確信したように激昂する。

「テメエ、やっぱり

『裏切り者』の相方か!?

こんの、死に損ないが!」

と、また両手を振り上げる。

だが、それより早く、

「「うるせえよ、テメエちょっと黙れ。」」

『2人ぶんの声』と同時に、イーターが2つに裂けた。


それを確認してから、

「ふう、とりあえず、行きましょうか。」

と、司は結衣に手を差し伸べる。

「あなた、何者なの・・・?」

呆然と尋ねる結衣に、司は少し考えてから、答えた。

「さあ。一緒にいれば、

そのうちわかるんじゃないですか?

『俺たち』のことは。」





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