2-12 終・新しい日常
今回は若干短いですがご了承ください。
あと最後の方で少しだけ性についての展開があります。R指定の内容ではありませんが、奴隷とご主人様という関係である以上こういった話題がでるのは仕方ない部分があるので、温かく見てもらえれば幸いです。
瑞樹達は服屋の店員さんに教えてもらった靴屋に向かう、とは言っても歩いてすぐの場所に目的地はあった。
「いらっしゃい」
さっきの店員と違って若干無愛想な感じのする店員というには随分と貫禄があるので恐らく店主だろう。ともかく二人は展示されている靴を物色し、一通り店内を見た後瑞樹がこれが一番ティンと来た物を選ぶ。それは革の靴に鮮やかな赤い染色が施された花柄の刺繍が施された物と、普段使いに丁度良いシンプルな作りの二つを買うことにする。
「毎度あり」
瑞樹達は買い物を終えて店を後にする。
「どう?新しい靴の履き心地は」
「はい!さっきまで履いていた物とは比べ物にならない程素晴らしいです!」
新しい服と靴に身を包んだノルンはとても上機嫌で今にも鼻歌を歌いそうな程受かれていた。ようやく子供らしくなったかなと瑞樹は内心ほっとしていた。
「じゃあ後は、その髪を切りに行こうね」
ノルンと手を繋ぎ、最後の目的地の散髪屋へと向かう。ここもギルドマスターから教えてもらった場所で、流石はオススメされるだけあり、店内は結構盛況で少し待つ事となる。ノルンは髪自体バッサリと切れる程長くは無いが、適当に切っていたらしくボサボサなので髪を揃える事に重点を置いてもらう。待つ事三十分程、ノルンの髪は肩から少し上くらいの長さで切り揃えられており実に可憐で、髪型一つでここまで印象が変わるものかと瑞樹は感嘆の声を上げる。
「どうでしょう、瑞樹姉さん」
「あぁとても良くなったよ、可愛くなった」
「えへへ、嬉しいです」
面映ゆそうにノルンが笑う姿を見て、瑞樹は思わずぎゅっと抱き締めたくなるがここはグッと堪えて宿で思い切りかわいがる事に決める。それはともかくこれからどうしようかと、瑞樹は顎を撫でながら思案に耽るが良い案がいまいち浮かばないので、取り敢えずノルンにも聞いてみる事にした。
「さて、用事は終わったけどノルンはどこか行きたい場所はある?」
「いえ、私は特に。というよりこの街に余り詳しくないので…」
「それもそうか、ごめんね?変な事聞いて。じゃあ先にお昼ご飯にしようか、それから色んな場所を回ってみようね」
「はい、お供しますね」
しゅんとするノルンを宥めながら瑞樹達は適当な店で昼食をとり、その後街を散策する事にした。様々な出店、湖、色んな場所を見回っていると時間が過ぎるのは早いもので、気付いたら日が傾き始めていた。もうそろそろ帰ろうかなと瑞樹が思い始めたそんな時、いたっと小さな声でノルンが呻く。
「どうかしたの?ノルン大丈夫?」
「いえ、大丈夫です。行きましょう、いたた…」
どう見ても大丈夫では無かった。ノルンは痛みに顔を歪めながら脂汗を流していた。その姿を見て瑞樹は少しだけ語気を強めて問いかける。
「ほら、どこか痛いんでしょ?遠慮なんてしないで良いから言って?」
「あぅぅ…実は、足が…」
瑞樹がノルンの靴を脱がし足を見てみると、痛々しく赤くした靴擦れが起きていた。買ったばかりの靴でそこら中連れ回したからと、瑞樹がノルン以上にはしゃいでいた事に漸く気付き、大いに反省する。
「ごめんね気づかなくて、手当てしないと…とりあえずほら、背中に乗って?おんぶしてあげる」
「だ、大丈夫です。自分で歩けますから」
「無理しなくて良いから、ほら。それともお姫様抱っこにしようか?」
「ふぇっ!?あぅぅ…じゃあおんぶでお願いします…」
本日何度目だろうか、顔を赤くしたノルンをおんぶする瑞樹。初めて出会った時、酷くやせ細った姿を見ていたのでかなり軽いだろうとは思っていたがまさかここまでとは、瑞樹はやるせない気持ちを抱えたまま、大通りから少し外れた脇道の方へと向かう。
「さて、ここなら良いかな。ノルン、すこし降りてもらって良い?治してあげるね」
「は、はい」
何故か変に緊張しているノルンをよそに、人気も無いので大丈夫だろうと判断し瑞樹は癒しの歌を歌う。歌声にのせたその魔法は、みるみるうちにノルンの傷を癒していく。当人はというと痛みは完全にそっちのけで聴き入っていた。
「さぁこれで大丈夫かな。どう?ノルンまだ痛む?」
「はい、もうバッチリです。それよりも瑞樹姉さんは凄いです!歌が魔法になっているのですか?」
瑞樹はノルンを見つめながら傷の具合を尋ねると、足が痛かったのを今思い出したのか、その効能に目を丸くしながらきゃいきゃいとはしゃいでいる。
「うんそうだよ、それよりもあんまりこの事は人には言わないでね?ビリーは知ってるから良いけど。姉さんとの約束だよ?」
「はい、分かりました。約束です」
目を合わせながら二人は唇に人差し指をあてる、二人だけの秘密というあたりがノルンの琴線に触れたのか帰路の道中ずっとエヘヘと笑みを浮かべていた。
二人が宿に戻る頃には既にビリーが酒を呑んでいた。一緒の卓にいるのは今日同行した冒険者らしく、ささやかな祝勝会を開いていたようで、無事で良かったと瑞樹はほっとする。適当に挨拶を交わした後、邪魔をしないように早々に部屋へと戻り一息つく。
その夜、昨日と同じように瑞樹とノルンは一緒のベッドにいた。
「ところで瑞樹姉さんはその、私を犯さないのですか?」
瑞樹は目を丸くした後、じとっとした視線をノルンに送りつけながら頭にチョップをお見舞いする。ノルンはひゃんっと可愛らしい悲鳴をあげて涙目になっているが、こればかりは叱らないといけないと思い、瑞樹は心を鬼にして女声で叱責する。
「ノルン、冗談でもそんな事言ったら駄目だよ?貴方は女の子なんだから。私だから良かったけど真に受けていたら本当に襲われていたんだからね?」
「はい…ごめんなさい」
「…ノルンは男の人と経験があるの?」
「いえ、奴隷を買うお客様の中には初物が良いと仰る人もいますので…ただその、他の事は―」
「あ~言わなくて良いから!もう大丈夫だから、ね?」
聞いた自分が馬鹿だったと瑞樹は心の底から後悔するが時既に遅し、ノルンは自身の過去を思い出し、顔を青くしながらカタカタと震えている。慌てて瑞樹はノルンを抱き寄せ、何とか落ち着いてもらおうと努める。
「良い?ノルン、私は絶対にそんな事しないから。貴方の大切なそれは、貴方が捧げたいと思った人にあげなさい」
「それなら、私は瑞樹姉さんにもらって欲しいです…」
ノルンの突飛な回答に、瑞樹はえ゛っと素っ頓狂な声を上げながらノルンの顔を見ると、さっきまで青かった顔は頭から湯気が出そうになるほど、真っ赤になっていた。ただその想いに報いる事は出来ないと、瑞樹は断じる。
「気持ちは嬉しいけどノルンのその気持ちは多分好きとかそういうものじゃないと思う」
それは多分、拾われたから少しでも恩返しがしたいとかきっとそんな感じで、ノルンもいずれ男性に恋をして愛を育むだろう。そうであって欲しい。そうして自分から巣立っていくのを見届ける、それが瑞樹がノルンに望む唯一の事だった。ただ、今のノルンにはそれを理解するのはまだ難しく、いずれ捨てられるのではないか?という不安の方が大きかったようで、目には涙を浮かべている。
「じゃあ姉さんは私がいなくなって欲しいのですか?」
「そうじゃないよ、ノルン。貴方にも人を愛する気持ちを知って欲しいだけ。そして子を成し、その子にも愛情を注げる、そんな正しい家族を作って欲しいだけなの」
「…私にも出来るでしょうか?」
「大丈夫、貴方にもきっと素敵な人が現れるよ。もし、それでも駄目だったら私が責任を持ってあげるからね」
「そ、その時はよろしくお願いしましゅ…」
その時を妄想したのだろう、ノルンは目ゴシゴシと擦った後またもや顔を赤くする。何やらとんでもない約束をしたような気はするが致し方ない、それもまた瑞樹なりのけじめのつけ方だろう。色々な、悶々とした思いを抱えたまま互いの小指を絡ませ、二人は顔を火照らせながら眠りに着いた。