1-11 番外編[自分に合った武器]
第九話と十話の間の舞台設定です。
とある日、瑞樹とビリーは剣の手入れを依頼するべく武具屋に来ていた。日々ちょっとしたの手入れ程度ならば自身でやっているが、先だっての豚人の一件により素人に毛が生えた程度の手入れではどうにもならない域に達しているようである。
「おうジジイ、これの手入れ頼む」
「何だビリー、ついこの前研いでやったばっかだろ。もう駄目にしたのか」
「仕方ねぇだろ忙しいんだから。とっとと仕事しろ仕事」
「ったく人使いの荒いガキだ。……もしかしてそっちのに格好良いとこ見せたいからってかぁ?」
「んな訳あるか色ボケジジイ、良いからさっさとやれっての」
漫談のような会話を終えたビリーが「あのジジイいつまで経っても口が減らねぇ」と舌打ち交じりに瑞樹に近付くと、瑞樹は「何と言うか、強烈な人だな」と苦笑した。
「で、お前は何やってんだ武器なんか見て。新調でもするつもりか?」
「ん~まぁそんなとこ。あの短剣が悪いって訳じゃ無いんだけど……やっぱり俺の魔法と戦闘方法が合ってないような気がしてさ」
瑞樹自身圧倒的に経験不足なのも大きいだろうが、歌いながら接近戦を仕掛けるのはやはりどうにも厳しいらしく、ならばいっそ変な癖が付く前他の武器に変えた方が良いのではという考えの結果のようである。
「まぁ確かにお前の魔法はどう見ても支援向きだしな。思い切ってそういう系統で選んだ方がありかもしれん」
「たださぁ……これだけ色々あると俺も混乱してきちゃって。ちょっと一緒に考えてくれない?」
「あぁ良いぞ。どうせジジイが終わるまで暇だし」
それから瑞樹はビリーと共に新しい武器の選定を始める。まず最初に候補に挙がったのが長物の槍。これなら現状の短剣よりは遥かにリーチも伸び、何より安価だとビリーが進める。
「確かにそうだけど結局は接近戦になっちゃうからちょっと、ね」
「ん……そうだな。じゃあ他のにするか」
次にビリーが目を付けたのは狩猟でも頻繁に使用されるごく一般的な弓矢。得物自体のリーチで考えるのではなく、いっそ飛び道具を使用すれば良いと発想を変えたビリーお勧めの一品である。
「これなら遠くに居ても攻撃出来る。矢の補充でちぃとばかし出費が嵩むかもしれねぇけど、まぁ気にするもんでもないだろ」
「とっても良い考えなんだけど……俺弓矢って触った事もないんだよなぁ」
「そのうち慣れるから良いだろ。というか他は無いぞ?」
瑞樹が「だよなぁ……」と呟きながら弓矢があった棚を覗いてみると、乱雑に置かれた他の弓に埋もれている何かを見つけたらしく、ゴソゴソと引っ張り出した。
「これって……」
「おぉクロスボウじゃん。弓矢と比べて取り回しは良いんだが、その分射程と威力が微妙ってんであんまり使う奴いねぇんだ」
瑞樹の知るクロスボウはかなり現代的だが、今手に持っている物はそういった片鱗すら見えない原始的な作りとなっている。その上持ち運ぶ以上攻城兵器のように大型にする訳にもいかず、最低限人の手で引き絞れるようにと試行錯誤した結果、何とも中途半端な出来になってしまった感は否めない。
「これ買ってみようかな」
「まぁあんまりお勧め出来る代物じゃねぇと思うが、お前が気に入ったんなら良いんじゃねぇか」
ビリーのお墨付き、と言うよりも瑞樹は一度こうと決めたら変えようとしない頑固な部分が見え隠れしている為、早々に折れたとする方が正しいだろうか。ともかく瑞樹は武器を新調し、使い心地を試そうと機会を探っていたのだが、残念ながら次に機会が訪れたのは死霊との戦い。痛みを感じない死霊にとってクロスボウなど何の役にも立たないと、初陣はまだお預けとなっている。