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金の指環  作者: 右折の暇人
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当選

別に私は宗教家でも何かの信者でも何でもありません。ただの現代人です。

 今日はとても晴れ晴れとした気分で帰路についている。そろそろ何も悩む必要が無くなるからだ。早く明日が来ないものか。そんな何とも言えない充実感に満たされていた。


 仕事はどうしようもないくらい苦痛だった。

 職場に着いても挨拶は返されない。

 避けられる。

 そのくせ雑用は全て押し付けられる。

 手伝ってくれる味方も居ないので残業続き。

 残業が続けば、無駄な金を払わせる気かと怒号とコブシが飛んで来る。

 迷惑料として上司から毎週数千円カツアゲされる。

 今月は残業何十時間したのか。何百時間かもしれない。


 まぁ、しばらくしたら考えなくても良くなるので良しとするか。明日は久しぶりの休みだ。必要な道具を買ってこよう。


 子供の頃、親に買ってもらったクリスマスプレゼントを開ける時のワクワク感。そんな様な、久しく味わっていなかった気持ちを抱きながら自宅に着いたのだ。


 玄関を開けると、なにやら違和感があった。

 靴、こんなにも綺麗に揃えていただろうか?泥棒か。

 

 衣服やら紙やらなんやらが散らかっている見慣れた部屋の中へ、のそのそと部屋へ入ろうとすると、部屋へ通じる扉の向こうから何やら人の気配がする。家主が帰って来たというのに、泥棒は少しも慌てた様子はない。

 呑気なやつだ。

 こちらも泥棒の調子に合わせるかのように、何気ない速度で扉を開く。

 散らかった部屋の中には、見知らぬ女性が正座していた。スターウォーズで見たようなローブを着込んで、ピシリと背をまっすぐにして、石のようにその姿勢を保ったまま、座っていた。

 ゲームに出てくる魔法使いが着てそうなローブは、薄い褐色の肌を包み込むように長く、彼女の体型をそのまま見せるかのように、ピッタリとフィットしており、頭巾から見えた顔面は、思わずのどを鳴らし息を止めて見惚れてしまうほどに美しかった。

 あまりにも微動だにしないので、はじめは人形かと思った。しかし、彼女は間違いなく生物だった。

 閉まった扉の音に反応して、こちらのほうに向いたからだ。

 見知らぬ褐色の美女は帰ってきた家主を見つけるとこう言った。


 「おめでとうございます。抽選の結果、全国の自殺予定者の中であなたが見事ご当選されました。あなたが自殺されるまでの15日間、あなたのお願いを一つだけ叶えられる事ができます」


 そんな突拍子も無いセリフを言い放つと、さらさらと流れるような滑らかさで動く服に合わせて頭がふわりと下がった。面食らう家主に向かって。


 よくわかってはいない。全く理解していない。

 いや、彼女が言っていることはなんとなくは理解している。

 しかし、何がどうなって、このような状況になっているのか見当もつかない。

 そもそも、何かしらの懸賞に応募した記憶がまずない。

 もしかすると何か応募したのかもしれない。いや、してない。

 危ない商売か何かだろうか。

 いや、警戒する必要はないか。

 これ以上何か異常事態が起きても何も問題はない。

 当たったのだから喜んでおこう。


 どういう意味なのか説明してもらおうかと、散らばっている衣類を蹴飛ばし、座る場所を確保し、机を挟んで彼女と相対する。

 「はぁ、まぁ、そのぉ…ありがとうございます?」

 「ええ、本当に喜ばしい事ですよ。毎年何万といる中でたった1人しか選ばれませんから」

 喜ばしいなんて事を言っている割には、嬉しそうだとかそんな雰囲気は微塵も感じ取れない。彼女は常に無表情だ。

 しかし、それで良い気がする。無表情の彼女は、それで既に完成された状態であるような気がする。


 みとれている場合ではない。

 聞きたい事を口に出してみる。

 「あの僕は何も応募したとかそんなつもりは無いんですけど、アレなんかありましたっけ?えっと、自殺志願者がどうとかちょっとアレ、意味がわからないというか…ちょっと…」

 言いたい事が上手くまとまらずに中途半端に口に出す。

 随分前からこんな感じだ。うまく言葉が出ずに他人に伝わらない。

 働く前はこんなこと無かったのに。


 要領を得ない頭の悪い質問でも彼女は理解できたのか、求めていた回答が返ってきた。


 「あなたは応募も何もしておりません。こちらで対象者を選別し、その中から無作為に抽選させていただいております。また、自殺志願者ではなく。自殺予定者です。既に自殺するとほぼ確定している方の中からあなたが選ばれたという事でございます」

 透き通る音とはこの声のことだろうか。彼女の声の澄んだ声は混乱した頭にすっと流れ込んで理解を促す。


 「あーあー、んとー、つまり僕が死ぬのを知ったから来た……あー感じですか?」

 彼女に会う寸前まで考えていた事を思い出し、聞いてみる。

 「"死ぬ"と言うよりは、"自殺"と言った方が正しいですね。突発的に外的要因から起こる死ではなく、自発的で自身が予想可能な死ですから。自殺、なさるおつもりですよね?」

 ほんの少し、彼女が顔を寄せてきた。その動作に従って、ふわりと彼女の香りが漂ってきた。とても素敵な甘い香りがする。一瞬香っただけだが、とても落ち着く。


 彼女と何とか話を続けたい一心で、無い知恵を振り絞って回答をする。

 「でも、まだどう死のうかアレ…迷ってるんです。買うものなんてまだ決めてないし、なんで分かったんです?」

 「自殺方法については、あなたがお考えください。あなたが自殺予定者と判明した事についてですが、我々は特別な調査などはしておりません。そもそも我々は、いわゆる死神というものなのでそういった情報は自然と集まってきますので」

 少しだけずれた居住まいを正すと、彼女はそう言ったのだ。


 死神?

 あまりにも現実離れしている回答にまた面食らってしまいそうになる。

 しかし、声や香り、見た目など彼女のすべてが、彼女の発言が真実であると証明しているように思え、納得してしまった。

 「あ、死神。死神って鎌もって魂とかをなんかアレ、こうアレするアレですか。そんなの居たんですね本当に」


 「ええ。鎌の方はあいにくと持ち合わせてはおりませんが、死へ向かっている方をまっすぐ死へ導く。我々はそのような仕事をしております」

 どうやら、本当に死神らしい。彼女がそう言ってるんだ。そうに決まっている。

 そうすると、お迎えが来たという事か。そこら辺の一般人の為に、ご苦労様だ。素直に感心する。


 「15日も先なんですね、僕が自殺するの」

 「ええ。どのように行動をされても15日後にあなたは自殺されます。ほぼ確実に」

 「長いですね、もっと早いかと思ってました」

 帰路にいた時点では、明日にでも道具さえ揃えたらすぐに一発逝ってやろうと意気込んでいたが、それほど先になるとは思ってもみなかった。

 考えている以上に小心者だったことを知り、落胆した。


 先のことに対して感傷に浸っても仕方がないので、もう一つの疑問を目の前の美女に投げかける。

 「で、選ばれた僕は、何か好きなことをお願いして良いっていうんですよね?ほんとになんでも良いです?」

 「ええ。なんでも。ただ、あなたが自殺されるまでの15日間のみ有効となるものなのでその点を踏まえてお願い致します」

 お願いごと。何にしようか。当たったのだ。何か悔いが残らない物がいい。死んでから後悔しても遅い。


 長々うんうん悩んでいると、対面の女性は何かが面白かったのか、こちらを見ながらふふふと含み笑いをした。


 今の今まで無表情を貫いていた彼女が見せる一瞬の微笑み。

 腕を組んであーだこーだ頭を上げ下げしている輩に向かって出た笑顔。

 褐色の笑顔が美しさをさらに引き立てる。

 そのふわりとした一瞬の笑顔に出会えた事が、短い人生の中で最高の幸福に思えた。

 この笑顔を見るためだけに今の今まで生きていた。そう思えるほど、彼女の笑みは美しかった。

 彼女の笑顔をみて、何も思い浮かばなかった願い事がようやく決まった。


 そうだ。そうしようか。


 彼女に頼めるのはもうこれしかない。これしか思いつかない。

 なんでも良いそうだし、15日間だけ有効なものだし。問題はないはずだ。仮に了承してくれたら、それこそ死ぬほど嬉しい。却下されたら即座に舌を噛み切って死のう。


 とても恥ずかしいお願いだが、勇気を振り絞って口に出す。

 「そうしたら、あの、僕の嫁になってもらえますか?あなたが。アレ、あー、無理なら、あー家政婦さんでいいので、一緒にいてもらえますか?」

 しっかり決めないといけない場面でも要領の悪い答えを出してしまう。

 あまりにも間抜けなお願いだったのか、彼女は少し驚いた顔を見せた。

 しかし、またすぐ元の無表情に戻る。


 「わかりました。それではあなたが自殺される15日間、私はあなたの妻とさせていただきます。短い間ですが、よろしくお願い致します」


 すぐに答えが返って来た。しかも良い返事だ。

 こんな迷惑なものでも良いのか。やったぞ。

 でも、すぐに返答が来たという事は、よくあるお願いで、慣れているものなのか。市腰だけショックを受けた。死にたい。自殺するのだが。


 それにしても、人生初のプロポーズが、初対面の女性相手で、しかも懸賞の景品というのも馬鹿らしい話だ。


 本当に馬鹿らしい生涯だった。

 学生時代、人として幸福な人生とは何か。そう考えたことがありました。大富豪になる、親友が多い、けがも病気もない、趣味にひたすら走る。それらしい答えは出ても、これが回答だなんてものは出てきませんでした。

 ふとした時に、母親にその疑問を聞いてみると、「ああ、いい人生だったなあって思いながら死ぬことじゃない?」と言われました。その時私は、なるほど、いい得て妙だと思いました。私が思い浮かべた幸福は、その一言全てで必要十分条件を満たすことができるからです。

 私は、母の言葉を聞いて以来、その言葉が言えるような人生を送りたいとたまに思い出しながら過ごしています。

 皆さんはどうでしょうか?いい人生にできるでしょうか?

 私は正直言うと現在、そんな言葉を吐いて死ねるような生活を送れていません。まだまだ不満足です。

 私の妄想をすべて現実に吐露するまでは死んでも死に切れません。その第一歩として、生まれて初めて小説を書きました。まだまだこれからです。

 なにぶん、処女作品になるものなので、つたない文章となっているかもしれません。私自身、書いていて、既視感のある設定や幼稚な表現が多いことに悩んではいましたが、とりあえず出してみるかと、えいやっ!といった気分で投稿しました。

 こういった表現をすると良いなど、なにかあればご教示をお願い致します。

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