釣りガール、大物を釣る
かなりな大物が掛かったようだ。ドラグがギリギリと音を立てる。このままではラインが全部出てしまって海に引き込まれる事になるかラインブレイクだ。
竿を起こしドラグは少し締めてラインの放出を抑えた。ラインに掛かる負担が強くなるが魔力を注いで、ラインを更に強化する。
「これ何ーっ?!」
何とか魚を手前に向けさせる。魚は大抵は後方には泳げないのでこれでラインの放出は抑えられるのだ。横に走る魚を手前に向けさせ、また横に走られる、を繰り返す。
「つれないねっ」
まるでナンパのような言い回しだがナンパは陸釣りと言うから強ち間違ってないだろう。
また三十分も戦っていると周りにギャラリーが集まり始めた。
「おおっ、シズクちゃん大物だね!」
「頑張れシズクちゃ~ん」
「おっちゃんが代わってやろうか?」
小さな村なので村民のほとんどは村長の孫娘の私を知っている。……ちょっと恥ずかしい。
「お姉さま気をつけて~!」
「シズク頑張れ~!」
「シズクちゃん~」
子供たちも集まって来たようだ。本当に狭い村である。
「ふぬうううっ」
全力で釣っているのだが近寄ってきてる気がしない。スキルの滑り止めが効いているから心配は無いのだが、水の中に落ちないように子供たちが支えてくれる。その中にはナミエもいるが、ナミエ、変な所触ったらゴカイだぞ、と視線で語ると顔を青くして頷いた。そんなにゴカイはトラウマだったのか。
やがて巨大な魚がエラ洗いし、水飛沫が上がる。本当に大きい。竿をしっかりコントロールして針を外させないように調節する。
辺りが暗くなってきたので周りの大人たちが光の魔石で照らしてくれる。
ようやく諦めたように魚は岸に寄ってきた。釣具召喚で取り出したタモアミを近くの漁師さん、アゴニーさんに預ける。
「お、こりゃワニヅラだ。魔物だぞ」
「魔物?」
「よっしゃ、入った!」
アゴニーさんがタモを持ち上げると歓声が巻き起こる。八十センチ近い大物だった。どんな味がするか楽しみだな。
鑑定すると名前はワニヅラスズキとなっていた。とんだ所で前世の復讐を果たしてしまったな。
皆にお礼を言ってから迎えに来ていたお母さんと帰った。レベルは一気に三つ上がっている。
名前 シズク
年齢 6
状態 普通
レベル 3→6
生命力 12/12→23
体力 4/14→30
魔力 8/18→34
瞬発力 12→22
持久力 12→24
総戦闘力 20→68
・スキル(釣り人)
C基礎
→生活魔法 常時身体強化 釣具召喚 道具回復(new!) 釣り経験値獲得
C鑑定・調査
→魚鑑定 海藻鑑定(new!)
C竿
→竿強化
C糸・リール
→糸絡み防止 糸強化
C魔法餌
→ウェイト操作 練り餌 虫餌 エビ餌
C釣り補助
→滑り止め 雨除け(new!)
Cクーラー
→クーラー召喚 容量60(up!)
水筒
C船
→船酔い防止
・加護
星女神加護 漁神加護
・称号
村長の孫娘 釣り好き 料理好き 前世記憶保持者 女神に愛されし者
・女神から一言
お疲れ様。
本当に疲れたよ……。イカ釣れなかったし。
◇
持ち帰ったワニヅラを捌いていく。お爺ちゃんに絞める所は任せた。三枚に捌くと半身はマリネと焼きにして半身は煮込んでみる事にした。さて、煮込むのは良いんだけど調味料が無いんだよね。いつもの料理酒と少量の魚醤、はちみつ、塩と胡椒で味を整えて煮込んでみようかな。生姜も入れてみるか……。ちなみにはちみつはこの村では高級品だが伯爵領内に特産としている町があるので手に入る。
出汁が出てるか試してみよう。スプーンで一杯、口に含むと唾液がこぼれそうになるくらい良い香り。やはりこの世界の魔物は美味しいようだ。
煮付けが十分に煮込めたところで配膳する。
お爺ちゃんは待ってました、と膝を叩いてお酒を陶器のコップに注いだ。お母さんもニコニコしている。かなり良い香りだしね。
出汁が出ているのと果実酒の甘味が強いのでこれで十分美味しく出来た。明日はもっと小魚を釣りに行こうかと思う。
お魚をつつきながらゆっくりお酒を飲んでいるお爺ちゃんがずっとご機嫌な夜はゆっくりと更けていった。
◇
さて、今日はアジ系の小魚を釣ろうと港に来た。昨日の私の釣りを見た住人たちが何人か小舟を浮かべたり竿を出している。学校とかは無いし皆基本的に気ままに暮らしているので小さい話題があれば皆そこに集まってしまう。
なんと言うかのんびりした気風のカソレ村民たちは少し好ましい。
小さな針にエビ餌スキルでオキアミを付けてアジング(アジのルアー釣り)のように釣る。アミカゴを使ったサビキ釣りなら大量に釣れるのだが何故かサビキ仕掛けは召喚出来なかったのだ。
多分のんびりやれって事だろう、と思う事にした。アジはたくさん釣れてくるが何故かこの異世界のアジは角が生えていて危ない。
と、のんびり釣っていたところ宿屋の女将さんのタマリさんが私の方に走り寄ってきた。タマリさんはまだ二十代前半の色っぽい女将さんである。胸が大きい。いったいこんな村で何を食べているからこんなに成長したのか。くそう。
はあはあと息を整えているタマリさんの胸は汗で輝いていて実にエロい。タマリさんが落ち着いたところで視線を戻す。別に疚しいことはない。女同士だ。
「シズクちゃん、今うちの宿に行商の人が来ててね、刺身と焼き魚、むにえる?を出したんだけど」
「受けが悪かった?」
そう聞くと凄く微妙な顔をするタマリさん。そんな顔も美しい。いや、私はレズじゃないからどうでも良いんだが。
「凄いニコニコ食べてたんだけど、いきなりこのメニューの考案者を呼べ、って叫びだして」
「それで探しに来たんだ?」
ごめんね、と首を傾げるタマリさんが可愛いかったので行く事にした。
狭い村なのですぐに宿に着く。宿の外では宿屋の料理人にしてタマリさんの旦那さんのウシオさんがそわそわした様子で待っていた。
私はその横を駆け抜けて宿に入る。足もずいぶん速くなった。
「あなたが行商人さんですか」
「おお、嬢ちゃん、まさか嬢ちゃんがこの料理を考案したのか?」
何か問題が有ったのか要領を得ない。訝しく思いながらも小さく頷く。
「もう一品何か作ってくれたらこの村に店を持っても良いと思う! 是非頼む!」
「良いですけど」
まさかこんなに速くチャンスが来るとは思わなかった。私くらいの料理でこんなに反応が良いとは、嬉しくなってくる。ともあれ、料理か。
アイテムボックスに大量に入ってるアレで二品作ってあげよう。
私は厨房に入り、今ある野菜や果物を確認した。
レシピは一応全部試していますが、魔物魚は使った事が無いです。残念ながら。