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釣りガール、貿易する

 レイカ=シア=ステラ王女殿下がカレーを食べる。

 スプーンを口に運び、その蕾のような小さく薄い唇を開く。

 ゆっくりとスプーンを口に入れるとにっこりして首を小さく傾ける。

 襲っても仕方ないレベルで可愛い。女神様が普通にしていると大変なことになるのが分かる。


「はあ……」

「カイリちゃん、よだれ!」

「レイカちゃん、今日はこの子、シズク=カワヒラ子爵との貿易を提案しにきたのよ。主な産物は塩、オリーブ、柑橘類、魚介類とそれらの加工品ね」

「まあ! それは素敵なご提案ですわ!」

「この中に女神様が入ってるの……?」

「絶対別人よね……」


 カイリちゃんは前回の女神様のご降臨の際に立ち会っている。カイリちゃんと女神様は前世で従姉妹だったらしい。「前世からお淑やかに見せかけて凶暴だった」そうだ。

 なんどか取っ組み合いの喧嘩をしたとか。カイリちゃんらしいな。


「何よシズク。何か言いたいの?」

「カイリちゃん婚約する?」

「しないわよっ! このタラシ!」


 どうやら人たらしの称号は有効なようだ。真っ赤なカイリちゃん可愛い。


 それはそれで、王女様とマンサ様の交渉はすっきりまとまったようだ。

 一頻り料理を売ってから夕方、屋台を片付けるとレイカ様を連れてカワヒラ領にテレポートする。

 普通は誘拐にも見える行為だが、はっきり言って彼女は無敵らしく、誰にも心配されなくて寂しいとか言っていた。


 ……女神様自分に力を与えすぎでは……。と、思ったが、私がこんなに力を与えられたらたぶん役割から全力で逃げるな。

 本人も王女になんて生まれたくなかったと言ってるし、かなり厳しく教育もされているそうだ。


「まあ……。潮風が素敵な風情を作っていますわね……」

「……私もこんな女成分が欲しい」

「シズクには無理よ」

「え~……」


 まあ無理ですけどね。

 レイカ様はふわふわした銀髪で左が紫と右が金のオッドアイ、うっすら頬に紅が浮かぶ雪のように真っ白な肌に華奢で小さな身体。

 さらに彼女は私より一つ下とは思えない完成された所作で振る舞う。

 ああ~、カイリちゃんじゃないけど結婚したい。


「レイカ様って逆に結婚出来なそうよね」

「横に並んで釣り合う存在が想像出来ないね」

「二人とも言い過ぎです! 私にも想い人の一人くらいいるんですからね!」

「ええ~」


 レイカ様に想われるとかどれだけ幸運なんだろう。

 それにしても最近普通に恋バナしているな。女成分もようやく転生したか?

 そもそも前世の女成分の存在が疑わしいって? うるさい。


「女神様も仰ってますが今回のシズクさんの容姿はかなり可愛く作られていますよ?」

「女神様の声が常に聞けるのってそれはそれで大変そうね」

「なんか見られてると思ったら緊張するよね、トイレとかお風呂とか」

『げへへ、シズクちゃんはつやっつやな褐色の肌やで』

「へ、変態だ~!?」


 私たちの会話に女神様も混ざりたかったらしい。しかし発言内容はおっさんだった。


「女神様の中身はおっさんですからね」

「それレイカ様も中身おっさんってことよね」

「おっさんですわ。今の立ち居振る舞いは今世で教育されましたの」

「嘘だ……」


 この美少女が中身おっさんなら私の中身は薄汚れたチンピラの浮浪者だろう。なんかやっぱりずるい。


 ちなみにレイカ様の名前は今世で女神様がつけた物で、前世は星夜と言う名前だったらしい。

 レイカよりセイヤの方が良かったんじゃ……。なんかレイカって公爵令嬢に似合いそうな名前だよね。

 凄く今更だがこの世界にはステータスが存在するし、それは教会で確認できる。

 赤子の名前は稀に生まれつき女神様に決められていて、そう言う子は町を挙げて祝福されるんだとか。まあ普通に人生を送るために特別扱いはされないらしいけど。

 転生者の名前も変えたかったら変えられるし、ナミエ曰わくTS転生なるものも普通にあるらしい。

 私には意味が分からないけども。


 そんなアホな話をしているうちに私たちとレイカ様はすっかり仲良くなった。

 貿易についてはステラにも商人スキルを持つ人がいるのでその人と協議するらしい。

 私とカイリちゃん、レイカ様は今後もたまに会ってお茶会することになった。

 正直これが一番大きな収穫だと思う。





 その後、カイリちゃんとノット君のレストランで良く王女様と出会(でくわ)すようになった。

 ノット君は終始緊張しているのかと思ったがマンサ様から毎日のように言い寄られていてそれどころでは無さそうだ。マンサ様自重しろ。


 ノット君の方は満更でも無さそうで関係ないがちょっとムカつく。マンサ様は美人だからね……。

 最近オシモさんたちもこちらのレストランに来ているのでウシオさんとタマリさんの宿も忙しさが一段落しているらしい。

 今後は町の規模が大きくなり、旅行者や冒険者もさらに増えるのでまた忙しくなるはずだが。


 すでにステラとの貿易も始まっていて、大型の船団がシーサーペントの海を越えて入ってくるようにもなった。

 今までと違い元カソレ村の資源は他国にも認められるようになったのだ。

 今まで私はほぼ釣りだけしかしてこなかったが、村は大きくなった。

 私の人生の目的も、半分は果たされたと言って良いだろう。


 さて、釣りに行こうか。





 カワヒラ領が貿易港になったことで、加速度的に財政は良くなり税収も莫大になってきた。

 これによりグラル女王国内に於ける私の地位がさらに高まってきた。

 ルミニエ公爵、メラヒお母様(こう呼べと言われた)には、私の見込んだ通りだと喜ばれているがイソーリズ侯爵様には今後の国内貴族との関係や動向に気を配るように念を押されている。

 なんか釣りする時間削られそうだな。今更ではあるが。


 そんなわけでのんびり海で浮き釣りすることにした。

 カイリちゃんとキャイキャイ言いながらアジを釣る。


 ふと殺気を感じたので振り返ると、ナミエがゆらゆらと青い顔で歩いてきた。


「お姉さま、仕事が増え過ぎですわ……」

「……なんかマジごめんなさい」


 ナミエのこと忘れてたよ。今後さらに忙しくなりそうだしナミエの補佐が出来る人をマンサ様かメラヒお母様に頼んでおこう。


「ナミエも大変ねえ」

「恨めしい……毎日のようにお姉さまと遊べるとか……」

「私はただの料理人だしね?」

「ぐぎぎ……」


 またナミエともゆっくり遊びたい、と言ったらナミエは「私もチョロインですわ」とか言いながらニコニコと帰って行った。


 何だったんだ?

 とにかくカイル君にも会いに行かないと。私も会いたいしね。

 しかし釣りもしたい。釣り場テレポートでエルフ大陸でも釣りが出来るようになったし。

 カイリちゃんには「こんな濃厚な人生なのに釣りはするのね」と、笑われた。

 釣りガールですから!






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