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釣りガール、旅に出る

 海賊殲滅戦が終わった後、明確にグラル女王国はニウルーク帝国に対し敵対、貴族様方がエサイルに派遣される運びとなった。

 ここでなぜかシオ女王陛下は私に異大陸と貿易交渉をするように命を下した。

 さすがに戦費が尽きてきたのだろうか? マンサ様一人で国の経済を支えている部分はあるからな。

 さらにマンサ様からは「あそこには良い子がいるから一度会ってきなさい」と言われ、断り難くなってしまった。まあ道中は海なので釣りし放題、異国の魚釣り放題と言われたのはちょっぴりしか影響していないが、行くことにした。

 主目的にしてはいない。断じて。たくさん釣りたいとは思っている。


 ナミエはカワヒラ領が軌道に乗り始めたので動けない。代わりにカイリちゃん、シラサさん、なぜか当のマンサ様が私と異大陸、エルフ大陸へと向かうことになった。


「大陸にエルフの名前が付いてるんですね。エルフって言うとシ○ノのリールを思い出します」

「釣り人のネタは分からないわ。昔は妖精が主に暮らしていた大陸らしいわよ」


 私の釣り人ボケは華麗にスルーしてマンサ様が説明してくれる。エルフ安くて良いんだが。


 私たちはエサイルからマーリン大陸を東に向け出航。大陸沿いを水陸両用車で緩やかに航海しながらエルフ大陸を目指す。

 ちなみにマーリン大陸からエルフ大陸にまっすぐ大海を横断すれば一週間程度で着くが、大陸沿いでなければ釣り場が無くて釣り場テレポートが使えないので、浅くて魚の多い大陸沿いを進む。決して他意はない。タイは釣れる。

 まあテレポートがあるので結局は日帰りの繰り返し、ただの釣り旅行になっている。

 私もご機嫌だが堂々とサボれているマンサ様もご機嫌だ。

 エサイルとニウルークの間の戦火はますます激しくなっているのだが……。

 あ、だからか。マンサ様が戦場に出たら滅茶苦茶やりそうだから女王陛下も戦場からマンサ様を遠ざけているのかも。主に味方の士気を保つ目的で。


「これが私たちに与えられた役目なのよ……仕方ないわ」

「マンサ様って戦争肯定派じゃなかったですか?」

「私の儲けと安眠の方が大切に決まってるわ!」

「……この人駄目な貴族だ……」


 遠くからナミエの「今更ですわ」と言う声が聞こえた気がした。

 そう言えばこの旅の間はカイル君に会いに行けないな。

 ナミエが血涙を流しながら仕事をしているのが見える気がする。


 さて、ニウルーク沖を大きく迂回し、ニウルーク北の大陸棚で釣りを始める。

 沖合での船釣りのターゲットと言えば深海魚だ。

 有名かも知れないが一部の深海魚は釣り上げると急激な気圧低下により浮き袋を吐き出して目が飛び出し、パンパンに膨れた風船みたいになる。(人間が宇宙に放り出されたらたぶん同じようになる)


 ゲボとか良くテレビでも取り上げられているね。浮き袋を吐いた顔が「ゲボッ」って感じだからゲボらしい。

 深海魚の多くが同じ顔になるのだけどね。


 しかし金目鯛など肉質が特に柔らかく美味しい魚が多い深海魚釣りは楽しみだ。

 餌は海老か魚餌だろう。いろいろ試してみようか。


「釣りって楽しいわね~!」

「本当ね~」


 カイリちゃんとマンサ様はなぜか仲良くなった。まあ私と一緒にいることが多いしね。

 マンサ様仕事しろ。いや、旅をしてる間もテレポートで商売しまくってるらしいけど。

 マンサ様はグラル女王国の胃袋と財布を握っているから仕方がない。


 シラサさんものんびり釣りをしている。普段は狩人をしているのだが釣りも嫌いじゃないらしい。

 あまり接点が無いのに馬が合う人だ。なんだか神様に苦労させられていそうな雰囲気とか。


 聞いてみたら「女神様は三人いるからね~」とか、意味深なことを言っていた。

 そう言えば太陽の女神様と月の女神様はこの星の管理を星の女神様に移譲されたと聞いたことがある。でも関わりが無くなったと考えるのは早計か。


 なんとなく手を出して来そうなのは月の女神様かな?

 そう呟いたらシラサさんが一瞬苦虫を噛み潰したような顔をしたように見えたが、きっと気のせいだろう。


「女神様に振り回されるのは嫌ですね」

「嫌でも話を聞かないと拗ねるしね」

「ああ、しかも長く引きずりそう」


 二人で、はあっ、と、ため息を吐いた。


 さて、釣りを続けよう。深海魚は毒を持つバラムツのような魚から調理が難しいアンコウのような魚まで、とても癖が強い。

 リュウグウノツカイとかの珍しい形の魚やダイオウイカのような巨大なものまで、実に幅広い生態をしていて、研究欲を刺激される。

 美味しい魚ばかりでもあるまい。


 深海と言えばマッコウクジラは深海まで潜ることで有名だ。そう言えばクジラは釣ったことないな。釣らないが。


 水陸両用車を海上、北に向けて走らせていると車に併走するようにシャチの群れが泳ぐ。


 シャチは最も速く泳ぐ海の生物の一つであり、水中で時速八十キロを記録する。

 水上のスピードを知っている私たちなら、え、遅くない? と思うのが普通かも知れないが、海のギャングホオジロザメは三十キロでしか泳げない。明らかにスピードが違うのがお分かりだろうか。水中はとてつもなく泳ぎづらいのだ。


 ちなみにシャチは魚雷すら躱すそうだ。

 魚類最速はバショウカジキの百十キロ。水の抵抗を考えるならこれは科学的にも凄まじい速度である。

 世界最速の潜水艦の全力航行でようやくシャチに追い付けるらしい。速すぎる。


 それはさておき、オニイトマキエイとかが空を飛ぶのも見てみたいが、シャチが大群で船の脇を泳ぐ光景に皆は大興奮。


 シャチは一般的には人間を襲わないと聞くが(実際には襲われたケースもある)、獰猛で恐ろしい肉食の哺乳類だ。


 アザラシやペンギンを食べるが、普通に魚も食べている。うっかり釣らないようにしないとね。

 シャチの群れはしばらく船の周りを泳いでいたが、満足したのか海中に消えていった。


 シャチがいると魚が釣れないんだよね~。シャチは賢いのでわざとやってるのかも知れないね。





 マーリン大陸を北端まで移動したが、なぜか寒くない。

 この世界の気候は精霊により安定しているらしい。おお、ファンタジー。

 ちなみにこの北の海ではクエの魔物魚が釣れた。カイリちゃんが刺身や鍋など美味しい料理にしてくれて海上でマンサ様が宴会を始めた。

 マンサ様ばかりスローライフしてる気がする。早くお酒飲めるようになりたいな。法的には飲めるんだけど。

 しかしカイリちゃんがいてくれて実に助かる。料理美味しいし私も仕事が減るしね。


「ん~、カイリちゃんのお刺身なんか私が作るよりずっと甘くて美味しい~!」

「ま、まあ包丁が違うしね。シズクも魚を捌くのは上手いわよね」

「一応居酒屋で魚担当だったしね」

「それは凄い」


 カイリちゃんたちは実家が食堂をやっていて、将来は店を継ぐ予定だったとか。

 女神様が寵愛をくれるのは若くして死んだ人が多い。たぶん皆に幸せに生きて欲しいのだろう。

 皆で幸せになれたら良いな。

 そう言ったら、カイリちゃんもマンサ様もシラサさんも凄い満面の笑顔になった。可愛い。


 そんな感じで旅をして、エルフ大陸を統一する国、ステラに辿り着いた。






 スピニングはやはりシ○ノですよね。……釣りガールのお話なのに釣り人ネタで申し訳なく思ってしまう不思議。

 良く考えたらシズクも一種のオタクなんですね。

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