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閑話・邪教の暗躍

 意外な配役ですがあんまり意味は有りません(笑

 くくく、我は女神に反旗を翻し者。世は我らを邪教と呼ぶが何を言うか。我らこそ正義よ。

 女神の寵愛を受けし者を滅ぼし、かの女神に煮え湯を飲ませるために我らは日陰に埋もれ、苦難に耐えながらも日々を暮らしている。

 今も我はグラル女王国を裏から転覆させ、この地の多くの女神の寵愛を受けし者共を闇に放り込まんとしておる。

 仲間達はニウルーク帝国に潜伏し、数年の時をかけかの国をエサイル、グラルに侵攻させる為の準備を進めている。


 現在ニウルークでは海賊たちに私掠免許を与える話が出ている。背後の軍も弱くはないがそれでも敵が女神の寵愛ともなると心許なくなる。

 以前マンサの戦いぶりを見たことがあるが、それは背筋が凍る思いをしたものだ。

 奴は敵陣の上空、数百メートルにテレポートし、溶岩の雨を降らし敵砦をものの一分で潰した。

 落としたのではなく、潰したのだ。

 さすがにその力を自由に振るわれることになると国内にも貴族への不信や恐怖を撒き散らすことになる。

 そのため女王自ら女神の寵愛を受けし者とは親密に触れ合うようになった。むしろそうせざるを得なくなったのだ。


 忌々しい奴は権力に取り入ることに成功し、好きに商売を行っては国を運営出来るほどの大金を手にした。

 その金もルミニエ公爵が吸い上げる形で自由にはさせていないが奴とて無能ではない。いずれ国を転覆させるきっかけに出来るやも知れん。

 直接接触する訳には行かないが、搦め手からジワジワと追い詰めることは出来るかも知れん。

 そのためにもあの単純なハゲを動かし、マンサの怒りや絶望を引き出さねばなるまい。この国に叛意を持っているとなれば奴を殺せるか、国を滅ぼせるかも分からん。

 くくく……。所詮女神の寵愛を受けし者も人間。必ずや追い詰めてくれよう……。

 それよりも忌々しい、あのシズクと言う小娘。見た目は十四、五と言ったところか。

 女神の寵愛を受けし者であるだけで爵位を受けた平民の娘が、マンサがルミニエ公爵に取り入った結果、子爵位を受爵出来るかも知れんと言う。

 忌々しい、平民が!

 ハゲもあの平民には何故か甘い。全く忌々しいことだ。

 どうにか奴は私自ら貶め、苦しめねば気が済まぬ。

 しかし今のところ、ハゲが脅そうが賺そうが全く動じた様子も見せず、ルミニエ公爵が戦場に送るようなことを言えばすんなり受ける。よほど自分に自信があるのか……。

 そのまま戦場に出てもマンサのように名を上げるだけかも分からんな。これは教祖様にも報告しておかねばなるまい。

 最悪エサイルだけを攻め、勇者カイルを倒すに留めるか……。それでも女神に煮え湯を飲ませることにはなろう。

 異世界の神でも現れてかの邪神を打ち倒せればいいものを、この世界の力や術式は悉く女神の手の上。

 おお、いずこかの世界に御座す神よ、かの暴虐の女神を討ち果たす力を我らに与えたまえ!


『よかろう』


 はっ、これは……。今の澄んだ鈴の音のごとき声は……。


『お前に力を与えてやろう。あの女神の手の者を討ち果たすが良い』


 おお、本当か、神よ!


『我は月の女神。かの女神と椅子を並べる神なり』


 おお、おお!

 これより我らは月の女神様を信望致します!


『や、それはいい。むしろ私の名前を出すな』


 え、いや、しかしそれは何故……。


『ちょっと面白そうだから』


 ……。ま、まあいい。これで我らも奴らに対抗する力を得られる。神よ、心の内で感謝いたします!


『せいぜい楽しませてくれ……。くっくっく、あいつビックリするぞ~。そんで大笑いするだろうな~』


 あいつ……とは?


『知らんでいい。はよ行け。修行を積んで女神の寵愛をいたぶってやれ』


 ははっ、我らが月の神の名の下に!


『名前出すなっつの!』



 これは一刻も早く教祖様に伝えねばならぬか。この身に漲る力を持ってかの邪神に一矢報いれるのだ。いや、ひょっとしたら奴らを絶滅させ、女神さえ倒せるやも知れぬ……!





 そして私は排星教の本部へと帰還した。ハゲがうるさかったがあのハゲなど問題にならん力を得たのだ。

 今や権力すら私の思い通りになるだろう。

 しかし今は月の女神様との約束もある。派手には動くまい。

 いずれ時が来れば月の女神様の名を明かし……。


『明かすなっつの。殺すぞ』


 明かしません明かしませんっ!!


 くっ、今は力を身に付ける以外有るまい。そのためには教祖様に会わねばな!

 待合室で待つこと三時間、さすがにしびれを切らして立ち上がろうとしたところで教祖様が訪れた。


「お前がグラルの騎士か」

「ははっ、我が名は……」

「いや、興味ないから黙れ」


 な、なんだこの生意気なガキは!

 私は三時間待ったのだぞ? 謝罪もなく名も告げさせぬとは、下民めっ!


「適当に金をやって追い出せとの御神託があった。帰るが良い」

「な、なっ……!」

「我らが神を楽しませるためにその力を尽くすが良い」

「くっ、分かりました」


 なんだ、なんなのだこのガキは!

 見た目はエルフのようだが、我らはこんな子供に仕えていたと言うのかっ!


 ……いや、考えようによってはこれはチャンスだ。成果を残しこやつに成り代われば良いのだ!

 私には月の女神様の力があるのだからな! この倍にも膨らんだ魔力ならば、なんでも出来よう!


「とりあえずニウルークに渡りをつけてやろう。適当に頑張るが良い」

「くっ、……分かりました、教祖様……」


 くくっ、今は粋がっているがいい。いずれ私が成り代わってやるからな!





「行ったか」

『バカだな』

「まあバカだから楽しめるんでしょ、月の女神様」

『まあな。これからも星の女神いじって遊びたいからな。お前には期待してるぞ、『月の聖女』よ』

「はいは~い。まああんまり神様同士でじゃれ合うのもやめなさいよね、迷惑だから」

『だってアイツ付き合い悪いんだもん』


 こうして、月の女神の暇潰しの名の下、邪教の徒は今日も空回っていく。それを邪教徒たちが知ることは死ぬまで無い。

 私はひたすらそのイタズラに迷惑するだけのただのモブキャラ、月の女神の聖女、星の女神様の寵愛を受けし者、シラサである。






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