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閑話・グラルの貴族たち

 マンサだよ~。今日は冬の王宮貴族会議だ。

 全く貴族は面倒なもので、今日はシズちゃんも一貴族として参加しているけれど、他の貴族に絡まれて困ってしまっている。

 女神様が二度もお見えになったので彼女を取り込みたいと考える貴族が増えたのだ。中でも一番厄介なのがシオ姉の実の妹、メラヒ・ルミニエ公爵だ。

 この女が面倒臭い旧態依然とした貴族臭い貴族なのだ。悪い貴族と言う意味じゃなく、ノブレスオブリージュを体現したような人物なのだ。


 貴族なのだから戦争に備えるのは当然だ、とか、貴族は庶民の模範となるべきだ、とか、貴族は民衆に尽くすべきだ、とか平気でのたまう。そのため税収を支出が常に上回り国を傾けかねない借金も背負っている。

 貴族が屋台骨なら倒れたらあかんだろ、と言いたい。言った。


「それも当然だわね。しかし借金は経済が好転し自然なインフレを迎えれば大きな問題では無いはずよ」

「それでも限度って物が有るでしょう」


 私が有力貴族でなければこう言う付き合いは許されないのだが有力貴族だからな。伯爵位でも女王と対等に接することが出来るくらいには。もちろん立場は対等ではないのだけど。

 私の反論に、しかしルミニエ公爵は小首を傾げて頬に指を当てる。


「明日から借金を止めると経済は確実に停滞するわね」

「当然そうなりますね。だから歳出を少しずつ減らしてくださいって」

「でも不公平は生まれるわ」


 当然、ギリギリ回せるところとギリギリ回せないところは大して差が無い。だから差別はおこる。

 それはどうしようもない。資源や資産は無限には無いのだし、中途半端に手を入れたら逆に無駄な資金が必要になる。

 制約だらけだが私は商人だから財布の紐を絞めつつ経済を回して見せないといけない。それをこの女は貴族の見栄と言うか貴族の務めと信じて無駄遣いとは言わないが借金を繰り返す。

 その借金は私が出してるからそれは良いのだ。だが私の財布にも限界はある。


「いくらか公爵領から回収して構いませんかね、借金を」

「それは困ったわね。返せるのかしら?」

「金を生み出す物は意外といくらでも有るものですよ」


 特に未熟なまま転がり続けるこの世界では。生まれた技術も流通を魔物に封じられ退化して行くこの世界。


「まあ金策は私がやりますから、支出を減らしてくださいね」


 私はこれで良いのだが、シズちゃんだ。


「あなたも貴族として最低限の責任は果たさねばなりません。技術提供も勿論ですが戦争に参加することも重要な貴族の仕事です。国が打ち破れれば勝利した国は好きに略奪を行います。これはどんな世界のどんな時代でもです」

「は、はあ」

「民を守り、国を守ることは引いては自らの権力を守ることでもあります。あなたの場合自由に釣りをする権利を、です」

「なるほど!」


 なるほど、じゃないからシズちゃん。シズちゃんは釣った魚で前線の糧食を支えたりしてるから直接戦争に出向く必要は無い。ちゃんと貢献してる。


「シズちゃんは戦わなくても良いのよ~?」

「でも戦争になったらのんびり釣りしていられませんしね」


 それは前にも言ってたわね。実は喧嘩したいんじゃないのこの娘。

 しかし、このシズちゃんの言葉に乗っかるルミニエ公爵。


「さすが、シオ姉様が認めた貴族だわ! その時がくればぜひ私と前線に向かいましょう!」


 ほら。もう良いや、いざとなったら私がシズちゃんを守れば良いでしょ。

 こんな感じで困った貴族は多いのだが、派閥としては当然保守派であるルミニエ公爵は私と同じ派閥となる。どちらが上か分からん。借金返せず借り続けてるから強くは言えないルミニエ公爵と、彼女がキレたら首を刎ねられる私。まあそうなったらブチ切れて暴れるけど。女神様が許す範疇で。


『さすがにそうなったら国が潰れるくらい暴れて良いよ』

「そうですか」


 女神様の寵愛を受けていると時々女神様と会話できる。本当に時々だけど。

 別大陸には女神様と常に交信できて神代兵器と呼ばれる武器を自在に召喚出来る化け物みたいな「聖女」がいるらしいけど。

 そう言えばカイル君も神代兵器を召喚出来るはずだけど見たことが無いわね。


 まあ女神様でさえ不公平にならざるを得ないってことなんだけどね。明らかに女神様が一番ぞっこんなシズちゃんでもあの程度の加護しか無いのだし、文句は言えないけど。

 シズちゃんが言ってたっけ、女神様が降臨してただ愚痴を言ってご飯食べて帰ったって。

 女神様は前世の友達だった娘。細くて可愛いのになぜか喧嘩っぱやい子だった。

 何代も幾世も幾世界も転生を繰り返している私たちの魂。

 彼女もその一つでしかないのだそうだ。

 まあ私だって彼女を大切にしたいからシズちゃんを大切にしてるところ、あるし。


 話を戻そう。私はルミニエ保守派だ。それに対向しているのがイソーリズ侯爵を筆頭に置いた開拓派、反保守だ。

 戦争するより地面を耕せと真っ当なことを言ってるが、分かってると思うが私は相当開拓に貢献している。

 それでも魔物に塗り潰される開拓図。女神様に文句を言ったら『魔物も私の子供』と来た。

 ぶっちゃけて言えば女神様にとっては人命なんて塵ほどの価値しかない。何世も転生してるのを眺めてたら誰でもそうなるのかも知れない。

 大事な命が幾億も理不尽に命を落とすのをただ眺めていないといけない。そんな環境で興味のない人間の命など価値があろうはずもない。

 どうせ生き返って、また幸せになるものはなる。不幸になるものはなるのだ。

 女神様が手を入れないのは仕方がない。全てに手を入れるなら世界には女神様だけいれば良いことになる。

 それは何も無いのと変わらない。全能だから全力を尽くせば全ては無価値になる。

 眺めているしかないのだ。それはどれほどの苦痛だろう。


 まあそれはそれ、私は開拓をしているが開拓派としては戦争を潰したい訳だ。

 敵が常に攻めてくる乱世に置いては戯言だが、平和に安穏としていられるならそりゃ有り難いからね。

 そんな訳で表面では対立している。これは国家と言う暴力装置にブレーキを掛ける意味では必要なことだ。

 だからと言って反対派閥に好き勝手させる訳も無いのだが。


 うちの国なんて平和なものだ。強いから。

 でもだからって女神の寵愛が死に目に遭うのは困るんだ。あの女神様ガチで暴れる人なんだから。

 だからシズちゃんには戦場から遠ざかって欲しいんだけどね……。しかし来年カイル君が十五歳になる。

 カイル君は十五歳で国に帰らざるを得なくなるだろう。そしてエサイルは今、ニウルーク帝国と睨み合いをしている。

 シズちゃんとカイル君がどれくらい仲良くなってるか分からないけど、エサイルが戦争になったら……。


 シズちゃんをなんとか守るために、なんて言っても、さすがに色恋にまでは突っ込めないからね。


 せめて内部の貴族の手は抑えておきたい。

 女神様に愛されても貴族は大変って訳よ。






 次章で最後なんですけど出てくるキャラが皆濃い気がします。

 残念なキャラしか居ない気もしますが。

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