閑話・前世の私と後輩ちゃん
「せんぱ~い、お菓子作ってきました~!」
今日も元気な後輩ちゃんだ。バイトで同じシフトの時は必ず何かを作って持ってくる。
私がいくらでも食べるのが気に入っているらしい。女将さんも休日などで丸一日シフトが入っている日のお昼に賄いをたくさん作ってくれる。
「先輩はいくら食べてもスマートで良いですよねぇ」
「食ったら食っただけ動くからねえ」
実際バイトが無い時はどこかの運動部に呼ばれて練習に混ざっていたりする。大会などの時に私を助っ人に欲しい運動部は私が遊びで練習に参加しても怒らない。
だいたい身体能力も運動センスも高いから普通に混ざってると言うのもある。
「私はとろくさいですからねぇ。羨ましいです」
「でも私って何故か良くコケるんだよね。重心高いのかな?」
胸はないが脚は長い。脚が長いと見た目は良いかも知れないが実はけっこう面倒なんだが……。手入れとか……転けるのもこれが原因だと思うし……。
運動神経は良いのに何故かコケるんだよね。バスケとかしてると華麗にドリブルで躱した直後に何もないところでコケたり。
持ち前の反射神経でとっさにパスを出したりスリーポイント決めるから問題になったことはないけど。
でもやっぱり皆、不思議がってた。コケる運命を背負って生まれてきた、とかからかわれたり。
……今となっては笑えないが。
「今日はキャラメルモカ・ノエルで~す」
「クリスマスみたいだね。もうすぐだけど」
「クリスマスにブッシュドノエルは毎年作ってるんですが、キャラメルクリームを使ってみたかったんですよ~」
キャラメルモカ・ノエルはコーヒーを混ぜ込んだモカスポンジにクリームとキャラメルクリームを巻いたロールケーキだ。
キャラメルクリームは砂糖を水に溶かしてから火にかけ、好みのカラメル色になってから火を止めると生クリームと混ぜ合わせる。消毒したビンなどに入れておけば一ヶ月は保存出来るらしい。
「ほんと、後輩ちゃんはお菓子得意なんだね」
「レシピ通り作ってるだけですよ~」
お菓子は基本のレシピ通りに作らないとなかなか美味しく出来ない。いろいろとアレンジを加えたがる私には難しいな。
まあ幾らかは作れるけどね。ゼリーとかは良く作るんだけど。
◇
ある日後輩ちゃんが風邪を引いたので学校が終わってから後輩ちゃんの家に料理を作りに行った。普段から彼女がお父さんのためにいろいろ作っているのを知ってるし、私もそうだからこう言う時は助け合っている。
まずは寝込んでる後輩ちゃんのためにおかゆでも作ろうかな。
鮭を使ったお粥を作って麦茶と一緒に持って行く。
「入るよ~」
「あ、先輩、来てくれたんですね……。どうぞ……」
片手にトレイを持ち、ガチャリと扉を開けると女の子らしいピンク色の部屋が目に飛び込んでくる。
ナミエもそうだが私のまわりは女の子女の子した子が多いんだよね、何故か。
私が男っぽいからかな?
ちなみに私の部屋はルアーがゴロゴロしていていて、飾り棚もルアーだらけ。釣り竿やタックルボックスや「ロッドとリール」って名前の雑誌が雑多に置いてあり、しかも磯臭い。
友達にもはっきり「女の部屋じゃない」と言われた。
泣いてなんかいない。
「はい、鮭粥。熱いから気をつけて」
「有り難うございます……。あ、おいし」
私に出来るのは料理くらいだ。しかも家庭料理レベルの。
女将さんにいろいろ教わっているが女将さんの料理も家庭的な料理に細かくテクニックを入れてる感じでなかなか習得するのが難しい。
焼き魚だけはすぐに覚えたが。
「いつも有り難うございます」
「困った時はお互い様。私も気をつけないと」
「先輩って風邪引くんですか?」
「引かないね。……って、どう言う意味だ!」
ふざけてくすぐる。……お粥が危ない。
「あははっ、ごめんなさ、あははっ」
「まあ私が万が一寝込んだら、頼むわ」
私は病気はしたことがない。コケて怪我をするくらいだ。
三半規管かどっかおかしいのかな?
「コケて怪我する可能性の方が高いね」
「気をつけて下さいね。頭とか打ったら危ないですよ」
打った。死んだ。
まったく間抜け過ぎて女神様に笑われるのも仕方がない。
でもこの時は本当にお互いに冗談のつもりだったんだが。後輩ちゃんも私の死因を聞いて泣きながら笑ったかも知れないな。
「怪我をしたり病気をしたら、絶対に看病に行きますね。死んでても行きます」
「怖い」
死んでから来られても困る。と、言うか私が死んだ。
「まあ、その時はよろしく頼むね」
「はいっ!」
水が弾けるみたいに笑う後輩ちゃんは可愛かった。頭を撫でたらもっと笑顔になった。
いやあ、私もこれくらい可愛かったらなぁ。腹筋割れてるし無理だが。
しばらく二人で話して、私はバイトに行くことにした。後輩ちゃんのお父さんのために何皿か惣菜を作っておいて、そのままバイトに。
「おはよー」
「おはようございます」
バイト先の挨拶はいつでも、おはようだ。他にもいろいろ決まりがある。
トイレは「一番」だし、古い食材は「アニキ」返事は「はいよ」、そんな感じのルールがある。
「女将さん、こっち仕込み終わりました」
「はいよ、じゃあ接客まわって!」
基本的に誰がどの仕事をやるかは決まっていない。料理の仕上げまで私がやることもある。
私の魚メニューで採用された物もあったりする。レジ締めまではやらないがお会計はやる。
ひたすら走り回っているが私は反射神経も良いので女将さんも気に入ってこき使ってくれる。終われば余った食材とかもらえるし家計も助かるので頑張れる。
家に帰ると兄たちもお父さんもご飯やお風呂を済ませているが、私が休みの時は私がご飯を作る。
お父さんが晩酌していたらおかずを何品か作ってあげる。
「シズクのお陰でマジ助かるわ~」
「気にすんなよオヤジ」
家ではほとんどこんな感じ。男言葉だ。
これで女の子部分に生き残れと言うのが難しい。サバンナに後輩ちゃんを手ぶらで放置して生き残れって言うくらい難しい。
こんな感じで私は毎日走り回り、土日にシフトが入ってない時間帯は釣りをしたり、長期休みには山にこもったりして過ごしていた。
◇
「……あ~、久し振りに前世の夢見た」
少し軽い頭痛がする。寝覚めが悪い。
「お姉さまもそう言うこと有るんですわね。私もお姉さまの家に忍び込んでお姉さまの下着を漁っていたらお姉さまに見つかってワームを投げつけられた夢をたまに見ますわ」
「そうか。次はゴカイだ」
「ひえっ!?」
何故かベッドに潜り込んでいたナミエを睨み付ける。朝からこいつは……。
「まず、なんで私の寝室にいるんだ!!」
「そこにお姉さまがいるからですわ!」
「私は山か! 胸は無いが!」
「自虐はいけませんわ、虐めるなら私を」
「虫餌召喚するぞ」
虫餌で脅すとさすがのナミエも逃げ出した。
ナミエは前世からこんな感じだ。少し緩くなったとは言え、完全にストーカーである。
はあ、どうせなら後輩ちゃんか女将さんが一緒に転生してくれてたらなぁ……。
まあ、退屈はしないけど。
今章だけ閑話が五話有ります。




