釣りガール、釣り勝負をする
魚餌を泳がせ始めるとすぐにサメが追いかけてきた。漁神の加護があるので狙った獲物か大物がすぐに釣れてくる。
「フィッシュ!」
「おおおお、お魚あ~!」
ヒットするとナミエがクルクル回りだした。なにか面白いので放置している。ファイト中、ずっと周りでクルクルしている。なんか可愛いから良いけど凄いタフだ。
ちなみに図書館は現在は人に任せていて、ナミエ本人は今はアドバイザーをしているらしい。図書館内にある本なら一発で検索できるし借りパクされたら召喚して取り戻せるそうだ。凄い便利なアドバイザーだろうな。
カイル君はカイル君で迷宮探索と言う仕事があるのだが現在はレベル上げ名目で私に付き合っている。彼も拠点テレポートを持っているらしい。
最初は私を探索パーティーに誘いたかったらしいがすでに諦めたそうだ。安全な所で釣りをして欲しいと言われている。まあ海は危ないのだけどね。板子一枚下は地獄、ってね。
ちなみにマンサ様はこれが公務だそうな。……ずいぶん暇な貴族である。
しかしサメはパワーがある魚だ。見た目は六メートルほどだったが十メートルのムラマサ級の引きがあるしラインも強化しなければ噛み切られるだろう。魔力をガリガリ削られながらもドラグを締めて殴り合いを始める。
ジリジリとスプールが回転する。ロッドを起こし、また戻しながらハンドルを回す。スプールが回転する。この繰り返しでガンガン巻き取る。
「お魚が見えて、キマシタワーッ!!!」
ナミエの回転速度も上がった。ガンガンにラインを巻き取って一気にロッドで魚を引き寄せ船の端から端まで後退る。
「とどめだああっ!」
カイル君の光の銛が炸裂するとサメは一撃で気絶したようだ。
思ったのだがこのレベルの魔物を一撃で気絶させるカイル君は強過ぎではなかろうか?
ともかく釣り上がったサメを鑑定しクーラーに入れよう。
サメの名前は船喰いか。初めて岩喰いを釣った時の事を思い出すな。最初は小さいのを釣ったんだけどあれから岩喰い釣りにハマっちゃったなあ。
さあ今日はあと二本釣ろうか、と、思ってカイル君たちを振り返るとその向こう側、遠くから漁船が近付いて来るのが見えた。それに逸早く気付いたマンサ様とカイル君がすかさず警戒の体制を取る。
私は次の獲物は何にしようかな~、とぼんやり考えていたので反応できず、ナミエは回転が早くなりすぎて止まれなくなって何事か叫んでいる、が、変態な言葉が聞こえるので気にするのはやめよう。
と、薄い金髪をオールバックにした片目眼帯の良く焼けたマッチョな五十代前後の船長さんらしき人が話しかけてきた。
「おう! ここら辺は俺の海だぜ! 誰に断って通ってやがる!」
「魚」
「魚!?」
「魚を釣っているだけだよ。邪魔をしないでね」
「魚かよ……」
「魚以外に何があるのか」
マンサ様とカイル君が呆れたようにぼーっと見ているが、私に魚以上を期待しないで欲しいな。
「よし、分かった。日が沈むまでに俺たちよりデカい魚を釣ったらお前等は許す!」
「親方!?」
どうやら話が分かる人のようだ。私は参考に今釣った船喰いを取り出す。
「これはさっき釣ったサイズだからこれ以上のを釣ってね」
「デケェ……しかも船喰いかよ……」
「親方……」
何か一緒に乗ってる船員の皆さん十人くらいが「親方」しか言わない。変な一団だな。ちょっと笑ってしまった。
「よおっしゃーっ! 俺も海の男だ、二言はねえっ!」
「じゃあ勝負始めね!」
「親方あああっ!」
気持ちの良い人たちだ。楽しい釣り勝負が出来そう!
「船長さんはなんて名前? 私はシズクだよ!」
「シズク? 聞いた事があるな。女神の眷属か? 俺はオッカ、魚と海を愛する男よ!」
「わあっ、私と一緒だね!」
「これ以上話させては駄目ですわ、お姉さまは枯れ専でしたわーっ!」
「うわわわっ、つ、釣り勝負開始いいいぃー!」
「くっくっくっ……」
三人とも楽しそうで何よりだ。私も釣り勝負で負ける気はない。さあ、どんな魚を釣ろうかな?
どうでも良いけどたまにかっこいい笑い方をするよね、マンサ様。
「ふむ……十メートル以上に挑んでみようかな?」
水中に走査を掛けて一番近くの大型魔物魚を探ると真下、かなり深くに八メートルほどの魔物魚を見つけた。糸延長スキルでラインを伸ばして深海に向けてゆっくり餌を下ろしていく。ターゲットの魚種を大型フィッシュイーター(魚食魚)と推測して今回は魚餌で行こう。
「おっさーおっさーお魚あ~キマシ~キマシ~タワ~」
ナミエが背後で変な歌を歌いながら踊り出した。ちょっと怖い。しかしその瞬間にヒットした。祈祷?
「来たっ!」
「来た~来た~」
「おおっ、竿が凄いしなってるよ!」
「これはエサイルの分ね!」
三人が一気に詰め寄ってきて海の中を覗き込む。私は水操作、接水千里眼、鑑定のいつものコンビネーションを掛ける。
釣れてきたのは、魔王鯛か。なんだか凄い名前だが魚体も大きく美しく、そして引きも強いっ!
「ぬぬぬ……」
『身体強化の祝福、魔力強化の祝福!』
「胸が踊りますわ~!」
ナミエがまたクルクル回りだす。何故か調子が良くなる気がするのが不思議だ。やっぱり何かの魔法だろうか?
魚が暴れるうちはロッドを操作しつつ巻きとれるタイミングを計る。
激しい戦いの後、魚が弱った所で自動巻き取りを掛ける。あとは竿をしっかり固定して魚が釣れ上がってくるのを待つだけだ。
やがて上がってきた魚の全長が見えるがやっぱり八メートルともなると馬鹿デカい。
既に水圧差で浮き袋が膨らみすぎてヘロヘロになっているがカイル君がトドメを刺す。ナミエが持ち上げて私が収納した。
お魚嫌いな人は多いですが小骨を処理してきっちり調理したムニエルは肉料理に勝ると思います。
香ばしい皮面にコンソメと粗びき胡椒、バターの芳しい香りにしっとりとした肉質……。
お魚嫌いを治してみせます(笑)