釣りガール、グラル湖で釣る
釣り場テレポートのために来たのは王城からわずか一キロの距離にある、グラル女王国の象徴とも言える広大な湖、グラル湖である。この世界では初めての淡水釣りだが、たぎる物がある。
初めて訪れたグラル湖はこの大陸でも一、二を争う観光名所である。対岸は五キロ以上先にあるのだろう、水平線が広がっている。水は澄み切ったジンクリアウォーター(お酒のジンくらい澄んでいる)でとても美しい。
私はもちろん淡水での釣りも得意だ。まるで私に挑むように穏やかな湖を眺めてニヤリと口角を上げる。
湖の生態系を破壊しかねない究極生物、釣りガールが今、グラル湖に舟を漕ぎ出した。
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淡水のターゲットはメジャーなものでは、バス、虹鱒、鮒、雷魚、鯰、鯉と言った所か。私が好きな魚なら鮎やヤマメ、イワナ、オイカワ、カワムツ、そしてワカサギなどの小魚もある。
淡水魚は多分多くの人に馴染みが薄いだろうが美味しい魚も多い。うなぎやすっぽん、時知らず(産卵シーズンで無いのに遡上してくる鮭)なども釣れるのだから淡水釣りはけして馬鹿に出来ないのだ。私は海釣り中心だと思われるかも知れないがむしろ淡水の釣りの方が造詣が深い。
幼少の頃は溜池の養殖されている鮒を釣っては怒られ、小川でカワムツを釣っては唐揚げや焼き魚にして食べてきたのだ。
もちろん鯉も釣るし虹鱒などは晩御飯のメニューに予め決めてから釣りに行くレベルである。鯰や雷魚も食べた。美味しかった。
「お姉さまはプレデターですか?」
「逆に捕食者じゃない私が想像つかないな」
「おう、バーバリアン! 大好きですわ!」
私に食えない魚は毒魚だけだ。いや、河豚とか食べるけど。おう、まさしくプレデター。
とりあえず淡水の釣りを始めよう。魔物魚もいるだろうが淡水魚は慎重な魚が多い反面、ピラニアのように獰猛に食らいついてくる事も多い。
実はピラニアは臆病な魚だそうだが、私は釣った事がないから分からないな。
ブルーギルなどはスレて釣れない場合を除けば簡単に釣れてくる。肉食の魚ほど簡単に釣れるイメージはある。
だからか、淡水で釣り人が最終目標に据えるのは草魚や青魚、白蓮などの草食魚だったりする。
究極がヘラブナなのはちょっと面白い話だ。現代ではかなり研究されているのでヘラブナや鯉も結構釣れるのだが。
さて、今回私が狙うのはブラックバス系魔物魚である。
ルアーフィッシングに於いては出発点とされる魚、ブラックバス。
餌釣りで鮒から鯉まで釣り尽くした私が可愛らしいクランク(リップと呼ばれる舌のような板が取り付けられた丸い形のルアー。ルアーの一番基本とされる)を引きまくって小さいバスを釣り上げて感動したのは前世の十歳頃の話である。
そこから始まるブラックバスとの戦いは前世の私の歴史と言ってもいい。ムニエルにしたブラックバスは星の数ほどだ。
ブラックバスの話が出たのでついでに特定外来種の話をしておこう。ブラックバスやザリガニは生きたまま輸送する事が禁じられている。
特定外来種はその場で絞めるか食べないと犯罪になるのである。
私は絞めて持ち帰ってムニエルにしまくったが。
そんなブラックバスであるがここは日本ではないので法律は関係ない。今回のターゲットはナミエの魚図鑑から引き出した究極の淡水魚の一種、ダークネスデーモンバスである。
ブラックバスは琵琶湖ではビワスズキと呼ばれ煮付けなどでも食べられているそうな。ちなみにブルーギルはビワコダイと呼ばれている。結構美味しい。
つまり、ダークネスデーモンバスも食らうために釣らせていただく。早速カバー下(水面に張り出している木の下)にワーム(ミミズなどを模した柔らかいルアー)を投入する。
釣り尽くしてくれよう、ダークネスデーモンバスよ。
ブラックバスの釣りはクリアウォーター(澄んだ湖)での釣りでも、眼前にワームを放り込んだら釣れてくる場合がある。実際にはクリアウォーターでは魚が完全にスレていてどんな方法を使っても釣れなかったりするのだが、稀に腹が減っているのか一発で釣れてくるのだ。
今回釣れてきたのもそう言うバスだろう。ガツンとラインが走る。
「お・さ・か・な!」
「フィッシュ、きましたわー!」
ブラックバス特有の強烈な引きが来る。そしてエラ洗い!
ブラックバスの特徴はこの強烈なファイトだろう。強いラインでただ巻きまくって釣り上げるのはもったいない。しっかり格闘したい所だ。
しかし地球のブラックバスなら五十センチで大物なのにこのダークネスデーモンは八十センチはある。既に五メートルの魚を釣り上げた私だがかなり強力な敵だ。激しい引き込みに魔力で強化されたドラグが音を鳴らす。
ちなみにリール強化のスキルは無いが身体強化の影響か魔力で強化されている。リールが強く成りすぎても面白くないのでこれでいいか。
最後は強引に舟の上に抜き出してダークネスデーモンを釣り上げた。楽しい釣りだ。
「他の魚も釣れますかね」
「鱒の仲間なんか釣りたいんだけど何がいるかな?」
「検索……えーと、シャイニングトラウトと言う魚がいますね」
「なんでこの世界の魚はみんな名前が中二病なんだろうか?」
恐らく女神様が名前を付けたんだろう。後でその名を聞く度に悶えている女神様を想像すると萌えるな。
ひとしきり淡水の釣りを楽しんだ後、私たちは釣り場テレポートで帰還した。
ネーミングセンスが無いのは女神様ばかりではありません。
ネーミングってどうしたら良いんですかね。何作も書いてたらアイデアも尽きますよね? ね?