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釣りガール、女王様に魔物魚を献上する

 マンサ様に連れられて王都までテレポートする。マンサ様が迎えに来てくれるまで鯵を釣っていたのでかなり怒られた。


「釣りをしないシズちゃんも考えられないけど、こんな時まで釣りする事無いんじゃない?」

「反省してます」


 反省だけなら釣りガールでもできる。いや、普通に反省しているけれど。

 女王様に会うのは緊張する、緊張を解きほぐす為には釣りだ、とついつい自宅前の広場で釣りを始めてしまい……。

 穏やかな波は心を解きほぐしてくれる。念のため大通りから見える場所で釣りをしていたのでマンサ様はすぐに私を見つけたが、その時のマンサ様は炎が立ち上っているように見えて怖かった。


「ここが王都ですかあ、やっぱり賑やかなんですね」

「まあね。人口は直轄領全体で二十万人程度だけど」

「意外と少ない?」


 この星の総人口が数億人しかいないらしいので仕方がないのだろうが、国の中心としては少なめではないだろうか?


「きましたわー!」


 ナミエも国の財産である女神の寵愛を受けし者なので連れてこられている。セリフについてはスルーだ。ここに塔を建てる、とか訳の分からない事を叫んでくるくる回転している。


「ナミちゃんも大人しく着いてきなさいよ?」

「はい、マンサさま」

「意外と素直」


 ナミエは美人のお姉さんの言う事には基本逆らわない。乗り換えてくれたら助かるのだが。


「王都が見たいって事でここにテレポートしたけどシオ陛下も待ってるし城にテレポートするよ?」

「はい!」

「は~い!」


 マンサ様は私の手とくるくる回るナミエの首根っこを掴むとテレポートを開始した。瞬きの後には石造りの建物の入り口にたどり着いている。


「アミヤ卿、いつも言っておりますが城の入り口にいきなりテレポートしないでください……」


 入り口を守っていた兵士たちの後ろにテレポートした私たちはほとんど不法侵入である。兵士たちに苦言を言われてもマンサ様はどこ吹く風で手をひらひらと振って「急ぐから」と、歩き出した。自由人過ぎるマンサ様。

 え、私? 私は釣りの奴隷です。


 女王陛下に会うと言うとやっぱり貴族に囲まれて謁見室で、とか思っていたら執務室らしき場所までマンサ様に引きずられた。王城の中に池が見えたので何が釣れるか聞いただけなのだががっちり手を掴まれている。王城でまで釣りませんって。


 執務室のドアをノックするマンサ様。


「シオ姉いる~?」


 あれ、めっちゃフランクだ。マンサ様は若くして伯爵の位に着いた実力者なので女王陛下にも認められているのかも知れないが、流石に不敬じゃないだろうか?


「マンサちゃんいらっしゃ~い。例の子連れてきたの?」

「うん、魚も持ってきたよ」


 魚を持ってるのは私だが、この言い分を聞く限りマンサ様は幾度か女王陛下に魚を献上しているのではないだろうか。そうでなければいきなり魚の話をされても訳が分からないだろう。


「入って良いよ。いらっしゃい」


 女王陛下自らが扉を開けて招き入れる。あれ? こう言う時は可愛くてドジっこなメイドさんが扉を開けるものだとナミエが言っていたのだが。

 部屋の中を見回す。やはり執務室らしく書類が山積みになっている。部屋の中にある革張りのソファーに柔らかそうなクッションが置いてあり、そこで猫耳でメイド服の少女が眠っていた。仕事しろ。

 このメイドが寝てしまっているので女王陛下が自ら扉を開くと言う恐ろしい展開になったのだと思うと今すぐ叩き起こしたい気分になるが……。


「獣人気になる? マンサちゃんも最初はめちゃくちゃはしゃいで耳もふもふしてたよね」

「まあ女神の寵愛を受けし者の知ってる世界に獣人はいませんからね」


 そう言えばこれが獣人初遭遇である。獣人の数は少ないのだろうか?


「シズちゃん、魚を出してくれる?」

「え、はい」


 マンサ様に言われるまま、高級魚扱いされている岩喰いを取り出す。

 するとメイドはガバッと起き上がった。余りにも反応が良すぎる。

 日本では猫が魚好きとのイメージがあるが実際は肉食であり、肉の方が好きなのだが、食の好みと言うのは環境で決まってくる部分もあるだろう。この猫メイドは……。


「さかなにゃ! しかも岩喰いにゃ! おおごちそおおおおおおっ!」

「黙れ」


 走り出したメイドにアックスボンバーを叩き込むマンサ様。やりすぎではなかろうかと思ったがこれがいつもの光景なのかシオ女王陛下はクスクス笑っている。


「さて、ニャコも起きたし自己紹介と行こうか~」


 これが我が国の女王陛下なのか。薄い金髪に碧眼なのは私と同じだが肌は陶器のように白い。初めて見るがかなり大らかな人のようだ。戦乱に明け暮れるグラル女王国のトップなので一筋縄ではいかない人物だとは思われるのだが。


「こちらが女神の寵愛『釣り人』シズク、奥にいるのは『司書』ナミエです。今日は陛下に献上するための魔物魚をお持ちしました」

「うん、じゃあ取り出せる所行こうか」

「魚にゃ! 魚にゃ! あなたが釣り人様で御座いますか! 神!」


 猫が滅茶苦茶はしゃいでいる。若干テンションについていけないが女王陛下にはついていく事にした。





 女王陛下に連れてこられたのは王城前の広場だった。女王が市街地に姿を表すのもどうなのかとは思うが、マンサ様の様子を見る限りこれがこの国の常識なのだろう。民衆は良く分かっているのか、一定以上の距離を近寄ってこようとはしない。

 いつの間に現れたのか女王陛下の後ろには忍者装束の人とか騎士の人とかが立っている。


「テンプレ通りだとしたらあの二人はお姉さまより強い感じですわ」

「へえ」


 私は既に人間を辞めているのでこの二人も人間を辞めているのだろう。この国は無敗と聞くし、その理由がこの二人にあるような気がした。


「じゃあシズちゃん、魚出しちゃおう」

「はい!」


 民衆と女王陛下が見守る中、私は推定五メートル、一~二トンあるはずのグレーターデーモンフィッシュを取り出し、ずずん、と、音を立ててブロックで舗装された地面に置いた。

 その光景に、その場にいたマンサ様とナミエと私以外の全ての人が息を飲む。


 改めて見ると馬鹿デカい魚である。






 このお話のメインは釣りなので他の部分はトントン進みます。

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