釣りガール、女神の寵愛を受けし者を釣る
しかしどうやって釣るのか、そこは謎だ。マンサ様が仰るには数日程度の日持ちがする和食食材に生産地を記入してばらまくのが良いだろう、との事。ちなみに浄化魔法があるので食中りにはならないが味は落ちる。熟成したら美味しくなったりするかも知れないが。
拡散にはマンサ様が商人スキルフル稼働を約束して下さった。いや、そこは領地の為に働く所では、と聞くとカソレ村も領地だと(屁理屈を)仰られた。私には得しか無いから良いのだが。
それで拡散する食材だが、チクワや蒲鉾に決めた。今この世界に出回ってない和食食材だし、これなら軸にしてる木にマーリン大陸グラル女王国アミヤ領内ニッケル領カソレ村の名前を焼き入れれば良いので(長いけど)、更にそこに私の提案で手鞠寿司割引券の文字も入れさせてもらった。釣りなら手は抜けない。
「お姉さまは本当に揺るぎませんね」
「釣りより楽しい事を知らないしね」
魚とバトルして勝ったら美味しいご飯が食べられる釣りは食道楽でサバイバル好きな私の生き甲斐だ。絶対に譲る事はできない。
もし大好きな恋人が出来てもゴカイも触れない人なら付き合えない。
「……いや、ゴカイなら百歩譲って下さいよ」
ナミエが私の独り言に反応しているが何を言ってるか分からないな。
数週間後、早速カソレ村印の蒲鉾と竹輪を大量にマンサ様に買っていただいた。原料はどちらも魚と塩などだけだ。製法が焼くか蒸すかの違いだろうか?
「おでんとかおうどん食べたいですね」
「今年の冬くらいには作ろうか?」
カソレ村の冬の名物になりそうだ。某うどん県のうどんとかけ出汁のレシピも私は記憶しているのでそれも売り出そうと思う。海産物が係わると途端に良くなる私の記憶力だった。
◇
さらに数ヶ月後、村に観光客が溢れかえる事になった。私は九歳になったがもう身長が小さい大人の女性より大きくなりつつある。これは非常にまずいな……。
それはさておき、村に沢山の人が溢れすぎてどの人が女神の寵愛を受けている人かはさっぱり分からない。
「……釣り過ぎたわね」
「ですね」
マンサ様にも呆れられる始末。本命よりも外道を釣り過ぎた結果何を釣っていたか分からなくなる状態である。たまに外道の方が本命より美味しかったりするのが釣りだけどね。釣りはトレジャーハンティング。
海釣り女王に私はなる!
陸釣りは完全に失敗だが私は釣りで諦めたりしない。次の餌も決めてある。
「日本語クイズ、全問正解したら舟盛りだよ! とか」
「ストレート過ぎないシズちゃん?」
「釣りは魚の本質に訴え、本能を引きずり出すものです!」
「この世界、女神様が元日本人だったから日本語が割りと流通してますけどね~」
ナミエの意見を聞いて私は目を瞠る。そう言えば魚の名前に日本語名多かった。更に言えば魚の名前クイズを出すつもりだった。
「廃案で」
「ですね」
「どうしますかね~」
「……こう言うのはどうだろう」
ずっと黙って聞いていたシラサさんがアイデアを出してくれる。
「……なるほど」
「くっ、釣りで負けた!」
「お姉さまは万事それですね」
シラサさんのアイデアは魔物狩り選手権だ。女神の寵愛を受ける者は押し並べてチートなのだから当然強い魔物を狩れるはずだがポイントはそこではない。
つまりはスキルを使わせてしまえば良いのだ。
女神様のスキルにはいくつかの傾向がある。第一には戦闘特化。女神様は私たちに戦いをさせるのが大好きなのだ。
次に多いのは空間系魔法。アイテムボックス系やテレポート系はほとんどのスキル保持者が持っている。
ちなみにナミエはブックマークと言う転移系スキルとアイテムブックと言う格納スキルを持っている。私よりはるかにチートだが私の目指す所はそこじゃないからどうでもいい。
私は釣りができたら全く問題は無いのだ。
それはさておき、それらのスキルを使わせる為に、素材の大量収集をさせるのだ。優勝商品は舟盛りでも良いが……。
「温泉フルコースくらいの餌を使わないと獲物は食いつかないよ!」
「お姉さまブレませんわね」
「よし、ならば私が酌をしよう」
「仮にも貴族でしょ……」
私がナミエに呆れられ、マンサ様がシラサさんに呆れられた。世の中とはままならぬものである。
しかし結局は温泉フルコースで女神の寵愛を受けし者四人全員が全力でもてなす方向で決まった。ちなみに私は魔物魚を提供する形で参加する。
一部の釣り人が不正をやらかさないと良いのだが。そう呟いたのは誰だったか。
失礼な。私は不正した事なんて釣りの為に暴走しない限り……。
いつも暴走してるのでその点は考えない事にした。