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釣りガール、寿司を作る

 マンサ様にお米を送られた。これで鍋でご飯を炊く練習を始める事が出来る。お寿司なので古米も残っているのをもらっておいた。お寿司に使うには古米六割くらいがぱらぱらほぐれかつ十分な甘みもあり、美味しいらしい。今回は甘味と粘りを重視して新米六で行こう。あと、美味しい酢飯を作るための寿司酢は予め砂糖と食塩を混ぜて沸騰しない低温でしっかり溶かしておく必要がある。


 ちなみにお爺ちゃんは最近お母さんにダイエットさせられているのでご飯は食べられない。可哀想に。


 浄化魔法で滅菌した布を水で湿らせて酢飯と辛子、予め鯛の刺身を昆布で締めておいたものを包んで丸めてみる。前世ではラップでやっていたのだが布でも代用は出来るようだ。順番としては布、具材、辛子、丸めた酢飯で、軽くキュッとまとめる。

 お母さんに食べさせてみるといつもほんわかした顔が更にびっくりするくらい緩んだ。成功か。


 ただ他のネタに悩む。イカを魚醤と料理酒のタレを塗って少し炙ってみたりアワビに焦がしたタレを塗ったり色々工夫をして何品も作って味見してみる。お爺ちゃんが泣きそうな顔をしていたのでいくつかお皿に並べて出してみた。


「おふっ、うまっ!」

「美味しいですよね~」


 酢飯に使ってるお酢が原材料不明なので心配だったのだがどうやらお米と相性の良い物だったようだ。後日マンサ様に調べてもらったら普通に米酢だった。林檎酢とかでも面白いけどね。


「ウニとか無いかなあ」

「ウニはたくさんあるぞ」


 ウニとこの国の言葉で発言してる時点で有るのは分かっているのだが、見た事は無かった。しかし昆布や海藻がたくさんあるのだからそれを食べるウニももちろんいるのだろう。


「しかしあんなトゲトゲした物が食えるのか?」

「もちろん中身を食べるんだよ」


 ウニは割ってしまえばスプーンで身を取り出せたはずだ。手鞠寿司にまとめるのは難しいかも知れないがやってみるか。


 翌日、やはり今日も温泉に浸かり美味しいご飯を食べる為にテレポートしてきたマンサ様に試作品の手鞠寿司を食べてもらった。


「……シズちゃん天才だった」

「いやいやいや、凡人ですから!」


 ずいぶん満足されたようだ。二十個くらい作っていたのだがひょいひょいと口に運ばれて二十分もかからずに無くなった。泣きそうな顔で見られても仕込みが必要なので作れない。酢飯は余っているので残ってるアジを捌いて塩で締めてから生姜と乗せてみる。


「グッド!」

「有り難う御座います」


 なんとか受けたようだ。立派なにぎり寿司を作る職人でも育てようかな……。

 さてさて、この料理でニッケル騎士爵様は満足してくれるだろうか?





 何故かデヒト辺境伯様が一緒にいらっしゃった。

 この方は以前マンサ様がこの村に連れてこられたのだが移動手段を持たないのに二月に一度はこの村に来られる。貴族の方々にはしっかりと仕事をして欲しいのだが。


「まだか!」

「もう少しお待ちを」


 お寿司の何が難しいかと言えば握り加減だろう。手鞠寿司なのでまとまってさえいれば良いのだが。

 ぐるぐると酢飯を布で握っていく。たくさん出来たところで辛子と様々な具を乗せて更にぎゅっとまとめる。マグロもどきの漬けなんかも作ってみた。

 さて、配膳だ。何故か寿司祭は青空の下で行われている。たくさんの村人がただ私が走り回るのを見ている光景は若干滑稽だと思う。


「お姉さまファイトですわあ~!」


 ナミエは全くぶれないな。

 なんとか緑の葉を白いお皿に敷き、その上に手鞠寿司二十種類を並べた。良くもこれだけの種類を作れたものだ。中には魚卵もあるのだがこの世界の人たちは魚卵は食べられるのだろうか?

 一応塩漬けにしてあるのでイクラっぽい食感になった。


「うむ」


 一口食べて唸るデヒト様。その後も黙々と食べている。ニッケル様も黙々と食べている。感想を言ってもらえないので不安がどんどん高まるのだが……。


「美味い」

「それ以外に言えない」

「もっと作ってよシズちゃん」


 三人三様に褒めて下さった。これでお米が輸入出来たら良いのだが。


「この娘がうちの領地にいたら……」

「無いものねだりね」

「そうですね、シズクは我が領の者ですので!」


 どうやらマンサ様とニッケル様は今回もデヒト様に勝利したようだ。この人を怒らせて楽しんでいるように見えるが、仕返しとかされないのかね?


「ニッケル様、お米の輸入お願いしますよ?」

「もちろんだ。お米があればメニューが増えるんだろ?」

「二割増しですかね」


 これでも元日本人なのでお米のメニューはたくさん知っている。炊き込みご飯やチャーハンを始めオムライスやカレーライス、ガーリックライスも得意だった。しかし釣りに関係無いメニューは省くけどね。


「マンサ様、明日送って下さい、十トンほど」

「任せて!」


 マンサ様は乗りが良すぎると思う。スキルの恩恵があるとは言え、フットワークが軽すぎるだろう。

 ともあれ、ようやくカソレ村にもお米がもたらされる事になった。

 家に帰るとお母さんがお米を炊いてお爺ちゃんが鬼の形相でテーブルに着いていた。どうやらお爺ちゃんにまたお寿司を振る舞わないと駄目らしい。異世界だから普通なのかも知れないが八歳児に仕事をさせすぎではないだろうか? だいたいダイエットはどうしたのか? 明日からだろうか?


 手鞠寿司を一桶分作ってから三人でご飯を食べる事にした。





 その後、マンサ様の手により大量に運ばれてきたお米はカソレ村に寿司ブームをもたらした。そんな中で寿司を作り飽きた私は一人でアジハムチャーハンを食べていたが。

 お米は偉大である。






 外れの回転寿司を食べるくらいなら自作してしまおう!

ってなりますよね? なりませんね。

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