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釣りガール、行商する

「フィーッシュ!」


 魔鯛はすぐにも釣れてきた。こちらはスキルにより水中を見て魚がいる所が分かっているのだから、これはかなりの強味だろう。力強くフッキングを決めて自動巻き取りスキルを使う。百メートルを超える深海から魚を釣り上げるので一々手で巻いてると疲れてしまうのだ。


 揚がってきた魚は水圧の差でダメージを受けているのでほとんど抵抗はしない。直接魚に触れるとクーラーボックスに放り込む。

 クーラーボックスはとても便利だ。生きている魔物でも放り込めるのでほとんど魔物に負ける事は有り得ない。魔物除けスキルもあるのでスキルをオンにしてさえいれば奇襲を受ける事も無かった。


「さて、魔鯛は五匹もいれば良いかな? 一息に釣ったら鰯でも釣りに行こうかな」


 穏やかな内海にぷかぷかと浮かべた小舟で、穏やかな春の風を浴びながら遠くに見えるいくつかの島、南の半島を眺める。空は良く晴れていて偏光グラスに釣り用キャップをかぶっているのに、眩しい。このままのたりのたりとした海にゆっくりと溶けてしまいそうだ。


 と、二匹目が鯛ラバにかかる。自動巻き取りでしゅるしゅると糸が巻き取られる音を聞きつつ、もう一本竿を出せないものかとふと思い付いて試してみる。が、まあ結果は呼べなかった。


『またスキルに追加してあげる』

「有り難う御座います女神様」


 たまに話しかけてくる女神様だが、忙しいのかまだ降臨された事はない。

 会いたい気持ちは無くもない。中二病は癒える気配が感じられないくらい重篤ではあったが、美人は美人だったしね。


 しばらくのたのたと小舟に揺られて鯛の数も十分になったので港に帰る。船を降りて次は一荷釣りスキルによりアジをたくさん釣り上げた。

 一時期は乱獲されたアジだが今は色々な料理を広めた為に徐々に数を戻してきている。そして貝類を穫る風習が根付き、村に海女さんが出没し始めた。

 他の村に行く前に塩を仕入れたり干貨を仕入れたり豆腐や石鹸も仕入れてしっかりと準備をしておかなければ。


 私に戦う力が付いてきたので護衛の騎士さんは三人に減らしてもらった。毎日魚料理を振る舞っていて大変だとマンサ様にこぼしたら「うらやまけしからん」とか言い出したので多分別の理由もあったのだろう。

 今晩の魚を宿屋のウシオさんとお爺ちゃんに届けると私は村を出て北へと歩き始める。北に進むとニッケル騎士爵様の町との間にある村が見えてくる。この辺りには三ヶ所村があるのだが、今回は全部回れるだろうか?

 一ヶ所で売り切れるくらいの量ではあるが仕込みに使えるお金がまだまだ少ない。とは言っても税金を払ったり家に入れたりした残りでも金貨数十枚はあるのだが、お母さんに貯金させられている。

 半日歩いて着いた村、カナイ村は中継点の村の為かあまり発展はしていない。人口も百二十人前後だ。

 高級な魚は出さずに安い魚を氷の上に敷いた布に並べていく。隣に棚を用意して塩などを並べる。輸入品である胡椒などはそんなに量を用意できないが魚料理のレシピと共に売ればそこそこ高値でも売れるだろうと目算して用意したので並べていく。


 並べ終わるか否かのタイミングで早速お客様が数人見えられたようだ。奥さんたちだけでなくおじさんたちも、また興味があるのだろう、子供も集まってきた。


「この魚は傷んでないのかい?」

「まだ生きてますよ」


 スキルのお陰で魚はまだピチピチ跳ねている。この場でお刺身にしたら食べられるだろう。少し試食用の刺身とか作ってみようかな……?


 思い立ったが吉日なので大きめのアジを一匹捌いてお刺身を作り、辛子と魚醤を適量垂らす。皆素手でお刺身を摘まんで食べている。

 ちなみにお箸やフォークもこの辺りには存在する。きっと女神様が人間の時に広めたのだろう。あの女神様は味噌や醤油に飽きたらずカレールーまで作っていた。お陰でカレー味の魚の唐揚げとか作れる。


「美味い」

「あまーい」

「こりこりとしてる」

「辛いけど香りは良い」


 概ね好評なようだ。一匹二十モグルと言う比較的高価なアジがどんどん売れていく。氷なども魚とセットで販売して小銭を稼いでいく。すぐにアジは売り切れた。辛子や魚醤、塩もたくさん売れたので金貨一枚は楽に稼げたのでは無いだろうか。

 売りに出さなかった高級魚は村長さんや宿屋さんに売る事にしている。お客さんに詳しい場所を訪ねておいたのですぐに向かう。

 村長さんに魔鯛を調理までサービスして金片貨二枚、宿屋さんにもレシピと一緒に金片貨三枚で売れた。残りは村に帰ってから誰かに買ってもらえば良いかな?

 結局一つの村だけで売れ尽くしたのでその日の内にカソレ村に帰る事にした。





 かなりダッシュしたので護衛の騎士さんたちがヘロヘロになってしまった。ご飯とお酒をご馳走すると約束するとすぐに元気になったが。


「シズク様の魚料理は破格のボーナスですよ」

「一食に金片貨一枚なんて俺ら払えないですし」


 なるほど、それが毎食となれば確かに破格だ。マンサ様の怒りももっともな事だったのか。毎食金片貨なら月に金貨四十枚くらいになるしね。ちなみに騎士さんたちのお給料は月に金貨二枚だ。やはり大盤振る舞いし過ぎかも知れないな。お爺ちゃんが太ってしまうのも仕方の無い事だ。

 ……マンサ様が太ったら嫌だな。今日は宿の料理は鯛しゃぶにしよう。野菜たっぷりで塩レモンダレとかを用意しようかな。


 宿に着いてマンサ様の晩御飯を作るとウシオさんは後ろで熱心にメモを取っている。ウシオさんは最近オリジナルレシピもいくつか編み出しているし、やはりこの世界の料理人は別に料理下手と言う訳ではないと分かる。

 魚料理が広がり辛いのは運送手段が馬車くらいしか無いためだろう。魔石でゴーレムとか車を作れないものだろうか?

 まあその辺りはナミエに任せるが。私に出来るのは魚を釣って料理する事くらいだ。

 昆布で出汁を取った鍋に火の魔石の焜炉をマンサ様のテーブルに設置する。タレはレモンの他ににんにく魚醤とピリ辛トマトソースの三種類ほど用意してみた。魚醤ににんにくはなかなか美味しい組み合わせだが臭いは気になるよね。

 味見してみたら魚醤の臭いが殺せていて悪くはないんだけど。

 これから魚醤を使う時は辛子かニンニクをセットにしよう。両方入れても良いけど香りが飛ぶんだよね。


「わあ~、しゃぶしゃぶだね!」

「ああ、マンサ様も元日本人だった」


 ちょっと気を回しすぎたかも。元日本人ならダイエットとか自分でしっかりやっているだろう。


「むふふ、おいひい」


 しかし十分お気に召したようだ。私もちょっと食べたいし。


「一人で鍋を食べるのも寂しいし一緒にどう?」

「家でお母さんとお爺ちゃんと食べますから」

「そっか」


 マンサ様はまだ十六、七歳くらいか。この国では成人だし結婚の話とか無いのかな?

 もぐもぐ幸せそうに鯛を食べる伯爵様。ご飯も用意しているようだ。私にもお米を分けて欲しい。


「あ、ひょっとしてシズちゃんお寿司作れたりする?」

「手鞠寿司なら経験あります」


「すごっ、今度作ってね!」


 なるほど、お寿司を流行らせたらお米の輸入が増えるかも知れない。同じ騎士爵領で穫れるのだからそう難しい話では無いはずだ。そうマンサ伯爵様に話をすると伯爵様は凄く悪い顔をして、寿司祭が計画される事になった。






 いつも思うんですが私の話って展開速いですよね。

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