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プロローグ

何話か更新します。

 ヒラスズキ。今回私が狙う魚の名前だ。


 私は今、昔から私が住んでいる田舎の地域経済を支えてきた古びた電車に、ガタンゴトン、と揺られながら、雨風を受けつつ窓から吹き込む潮風と線路特有の錆臭い匂いを感じながら、自分の装備を確認している。


 私は(学校に黙ってこっそり居酒屋でバイトして買った)十三フィート、2ピースのシーバスロッドと、それに見合う十万円を超える(父親に黙って借りた)最高級のスピニングリール、(お兄ちゃんに無理矢理借りた)大型の魚も入るクーラーボックス、(従兄弟から無断で拝借した)ウェットスーツを持ち出し、嵐の海に挑む。

 因みに私はこれでも女だ。


 現在の服装は上からフィッシングキャップ、偏光グラス、釣り用ライフジャケット、ロングティーシャツにジーンズ。……下着は割愛する。靴下は普通のハイソックスで靴はスパイクブーツ。

 ……女らしさは五年くらい前に死んだ。惜しい人を亡くしたものだ。


 私は川平雫、十七歳。一切染めた事がない黒髪セミロングに黒目、身長は百七十を超えて胸もペタンコのスレンダーと言えば聞こえは良いが女らしくないスタイル、勉強は得意な生物とその他の理系以外は普通だがスポーツは万能で男とも平気で喧嘩していた。

 たぶん人生で一番たくさん聞いた言葉は「女のくせに」だ。


 そんな私なので男より圧倒的に女の子にモテていた。バレンタインにはクラスで一番チョコを稼いでいたレベルで。


 趣味は釣りやサバイバルの、いわゆる釣りガールである。


 あともちろんレズではない。レズのストーカーには狙われていたが。

 そのストーカーちゃんにミミズ型の疑似餌、ワームを投げつけたらそれ以降ついてくる距離がかなり開いた。ワーム最高。

 ……距離が開いただけでストーキングは継続していたが。


 さて、それは置いておこう。ヒラスズキは非常に難しいターゲットだ。気合いを入れなければならない。嵐の磯でしか釣る事ができないと言う人もいる、もちろん危険なターゲットなのだから。

 私は今日こそ(親戚、男の)ウェットスーツに身を包み、初めて下ろす(学校に内緒でバイトして買った)ロングロッドに(父の大事にしていた)高価なスピニングリールを携えて、嵐の磯に立つのだ。

 台風で電車が止まらなくて安心したのは内緒である。それ以前に色々拝借し過ぎてバチが当たりそうだが……当たったのでそこは勘弁して欲しい。


 私が傘を差し、駅から一歩を踏み出しいよいよ磯を目指そうと意気揚々と歩き出した時……。


 ……盛大に階段で転けて視界がスローモーションになる中、慌てて体勢を立て直そうとするも力及ばず、後頭部を強打したのだった。





「ぶっ、はっはっはっはははは!!」


 気が付くと私はいきなりピンク色の空間に放り出されて、目の前の中学生くらいの少女に大笑いされていた。

 ピンク色の空間を見上げるといくつか白い帯が未来の立体高速のようにあちこちに伸びている。個室などではなく広い空間のようだ。

 そして、大笑いしているその少女は、水色がかった銀の髪にアメジスト色の瞳、石膏みたいな真っ白な肌をした絶世の美少女。

 たぶん男でも女でも一目惚れする、そんな私が憧れるほどの美しい容姿を持った少女で、私も一瞬見惚れてしまったのだが……。


 その服装は右目に眼帯、左腕に包帯、ゴシックロリータの真っ黒なドレス、同色のヘッドドレスに青いポシェット、手元にはノートパソコン、太ももにはホルスター、紫のシマシマニーソにショートブーツと言う……。

 一口に言うなら中二病な格好をしていた。

 今「くっ、静まれ私の左腕!」とか言いながら右目の眼帯をずらしたけど、左目のアメジスト色と違って右目は金色だ。オッドアイとかどこまで中二病患者の理想をトレースするのか。

 ……そんな少女に私は大笑いされている。


「泣いて良い?」

「あはっ、あふ、ご免なさい……ぐふっ!」

「うううう……」


 先程の己の醜態を思い出し、遂に泣けてきた。分かっている。私は危険な釣りをする前に駅から出る所ですっ転んで死んだ。

 誰かが聞いたら不謹慎なのに爆笑しかねない、とんでもない醜態である。でもそんなに笑わなくて良いんじゃないかと思う。


「はあ、はあ……」

「……」

「人間、死ぬ時は死ぬわ。気にしては駄目よ……。でも残念だったわね。あなたならどんなスポーツでも一流になれたのに」

「上には上がいますから。それに私が目指していたのは……」

「無人島でサバイバルね? 自分と自然の戦い、良いじゃない」

「まあもう無理なんですよね……」

「無理ね。でも夢を諦める必要は無いわ」


 ……? 意味が分からない。

 この人は今、私の夢は無理だが夢を諦めなくて良いと言った。矛盾している。そもそもこの人誰なんだって話だが。


「私はこの世界では星の女神と呼ばれているわね。元人間だから畏まらなくて良いわよ」

「はあ、私は死んで、神様の元にいるわけですか?」


 私の目の前にいるのはどうやら異世界の女神らしい。ノーパソを持っていたりするのはこの異世界がハイテクな世界だからだろうか?

 小さいデスクライトの乗った事務机の上でなんか必死にキーボードを叩いているのが可愛らしい。

 私の問いに中二神は質問で返してきた。


「神や魂って、何だと思う?」

「え……えーと……」


 神や魂?

 日本では昔から八百万の神のように生きとし生けるものは魂を持つと言われていたけど、それはいったいなんだろう?

 植物も虫も持っていて人間も持っている。対等ではないけど対等な。悩んでいる私に、女神様は答えを教えてくれる。


「まあ正直に考えるあなたに好感が持てたから教えてあげる。私達は言うなれば『情報集積体』情報を集める存在よ」

「情報を……集める?」

「例えばあなたの死因みたいに面白い情報を沢山集めたいのよ」

「な……なにそれ!?」


 と、思い切り狼狽してしまう。

 つまり、私の死因が面白かったからと、この女神様、星の女神様だっけ? は、私に興味を持ったのだろうか?


「間違ってるけど間違ってないかな。君は素晴らしい魂を持っているの」

「……面白い魂って意味で?」

「そうよ。だからあなたは無理をする必要は無い」


 女神様はそう言うと私に何かの力をぶつけてきた。


「また次の人生でも面白い死に方してね! あーっはっはっはっはっはっ!」

「畜生、糞女神~~~っ!!」


 その後、私は暗闇に包まれ落下していく感覚を味わう。そんな私の意識の最後に、私の心に謎の声が響いてくる。それはとても優しくて、凄く私を労る気持ちを感じさせる声だった。


『あなたに釣り人スキルを与えるわ。……今度こそ、幸せに生きて……』






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