釣りガール、伯爵に気に入られる
それにしても女神様の寵愛を受けてるのにこの人日本名じゃないよね。ちょっと気になったので聞いてみた。
「伯爵様は何故日本名じゃ無いんですか?」
「そりゃ偽名だからよ。女ってだけで舐められるのが貴族社会だからね」
「なるほど」
この世界も貴族の社会は男尊女卑か。まあマンサ様が認められてるって事はそんなに酷くは無いのかな?
「うちの国王は女王様だし神様は皆女神様なんだからそんな表立って男尊女卑なはずがないでしょう? だから今は普通に女貴族として受け入れられているわよ」
「それはそうですね。でもやっぱり差別される訳ですか」
「そりゃ女の力が伸びないのは事実だしね。妊娠出産とか月の物のハンデもあるし。魔力は女の方が伸びるんだけどな。まあお父様が亡くなったのは昨年だし私その時十二歳だったからね。十五の成人の男って事にしないと後継する体裁がつかなかったから全部設定を作ったのよね」
未成年じゃん。まあこの国は三歳児からお酒飲めるんだけど。
男尊女卑って言うか腕力至上主義な貴族の人がいるって事だよね。脳筋が偉いのかね?
妊娠とかのハンデは逆に女がいなけりゃ子供出来ないんだし女の方が偉いよね? むかつく。
ちなみに私は脳筋じゃなくて脳釣り。脳釣りとは脳内を釣りに汚染された人類である。魚臭そうだが事実ちょっと魚臭い。
もちろん私の造語だが釣りバカの方が分かりやすいかもね。
私の妊娠出産は……それ以前に女を取り戻して恋人を見つけないと……ね……。いいもん、まだ子供だし。
「本名はシズクちゃんにだけ教えてあげる。マリナだよ」
「可愛い名前ですね!」
「内緒だよ?」
伯爵様と秘密を共有してしまった。なんだか仲良くなれそうだ。
「現在確認されている女神様の寵愛を受けし者はこの大陸だけで十七人ですね。潜在的にはもっと多いでしょうが」
「ふむ、うちの領内に三人もいるとは、これは運が向いてきたね」
おお、まだもう一人女神様の寵愛を受けている人がいるらしい。大陸には七つも国があり我が国、グラル女王国はその中でも小国だ。あまりに女神の寵愛を受けし者が集まりすぎていて伯爵領が安泰過ぎると言う状態だろう。隠れた寵愛を受けし者がもう一人いるしね。ストーカーなのが問題だがナミエも一応は女神様の寵愛を受けてる。……何故か。
ちなみにグラル女王国の貴族は上から二大公爵、法衣貴族の侯爵様が二人、辺境伯様が二人、伯爵様が三人、男爵様が十二人に準男爵様が四人、騎士爵様は四十人前後いる。小国だからこれだけだが、実際に国の力比べは女神様に寵愛を受けた者の多さで決まると言われているらしい。ナミエ調べ。
つまり大陸全部で隠れも含めれば三十人いないはずの女神様の寵愛を受けてる人がこの国どころか伯爵領内だけで四人いるわけだ。超過剰戦力である。
まあ私は魚としか戦わないけどね。しかしそうするとこの村は女神様の寵愛を受けし者が二人……。
ナミエの事は絶対に隠さないと駄目だな。
その後やたらとマンサ様はカソレ村にやってきて魚料理やデザートに舌鼓を打ってはまた再来すると言った感じで、仕舞いにはカソレ村に伯爵領都を置きたいとか言い出した。全力で断ったが。
やがて私は七歳になった。
◇
今もマンサ様が私の前で酒瓶を傾けている。
「シズクちゃんとも長い付き合いになったね~」
「まだまだこれからでしょう。お互い若いのですから」
私がそう言うとマンサ様は唇を尖らせる。
「もう、日本人同士なんだからもっと砕けた喋り方で良いって~」
「でも……」
マンサ様ちゃんと仕事してるんだろうか。心配になってくる。
マンサ様は私が作ったナミワリマグロと言う魔物の赤身の薫製をスライスして貝割れ大根みたいな野菜を添えたものに林檎のソースをかけた物を食べている。
「それにしても……シズクちゃんもずいぶん成長したよね。初めて会った時も凄かったけど」
「いやいや、まだまだ七歳ですし」
実際たいしたことはない。私はまだレベル二十台になったばかりだ。
名前 シズク
年齢 6→7
状態 普通
レベル 8→21
生命力 28/31→87
体力 20/41→101
魔力 28/47→125
瞬発力 29→85
持久力 37→102
総戦闘力 91→310
・スキル(釣り人)
C基礎
→生活魔法 常時身体強化 釣具召喚 道具回復 魔力回復(new!) 体力回復(new!) 釣り経験値獲得
C鑑定・調査
→魚鑑定 海藻鑑定 貝鑑定(new!) エビ鑑定(new!)
C竿
→竿強化 遠投援護(new!)
C糸・リール
→糸絡み防止 糸強化 糸延長 自動巻き取り(new!)
C魔法餌
→ウェイト操作 練り餌 虫餌 エビ餌 イカ餌(new!)
C釣り補助
→滑り止め 雨除け 虫除け 小魚一荷釣り(new!)
Cクーラー
→クーラー召喚 容量210(up!) 水筒 製氷 泥抜き(new!) 保温(new!)
C船
→船酔い防止
・加護
星女神加護 漁神加護
・称号
村長の孫娘 釣り好き 料理好き 前世記憶保持者 女神に愛されし者
・女神から一言
一年で良く育ったね。シズクはワシが育てた。
スキルは相当便利になったが一レベル一スキル覚えていたのが時々覚えなくなった。まあ能力さえ伸びたら有り難い。
ちなみに一般村人ならレベル十二で強い方らしい。私は七歳で村一番の強さを得た事になるね。
冒険者の平均が私くらいで、一流冒険者だとレベル五十くらいだそうな。中堅冒険者は町規模でも憧れの的なので私はかなり強いのが分かる。
あと、女神様に育てられたのは煽り耐性くらいだと思う。
「さて、まあ分かってると思うんだけどそろそろシズクちゃんの名前が領外で聞かれるようになってきたんだよ」
「有名になったもんですね」
「君は竿のせいで目立つしね~」
ほんと、釣りの補助で偽装とか覚えて欲しいよね。魚にも丸見えだろうし。
ちょっと愚痴っぽいことを考えているとマンサ様が笑い出した。
「まあ売り出したの私なんだけどね!」
「責任取って下さいよ!」
言葉のチョイスを間違えた。マンサ様は首を傾げて「嫁に来る?」とか言い始める。行きませんし女同士だし七歳です。
そう言うとマンサ様は呵々大笑されて分かってる分かってると繰り返す。分かってなかったら怖い。
「じゃ、次の戦術考えよっかあ?」
マンサ様は実に邪悪な笑みを浮かべてそう宣われた。
ソースを手作りし始めたら料理はグッと奥が深くなりますね。