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釣りガール、お貴族様に会う

 現在の所持金は金片貨三枚。三千モグル。日本円にしたら三万円くらい?

 いくらにしろ子供が持つ金額では無い。ちょっとお財布を持つ手が震える。六歳児だしね。

 さて、男爵鯵を宿屋に持ってきた。そこで何人かの貴族風の人たちが声を上げて何事かを言い合っていた。なんだろ?


「昨日の魚をもう一度食べたい!」

「しかし魔物魚などめったに揚がるものじゃありませんよ」

「それでもだ、昨日の魚を釣ったシズクと言う釣り人はどこに住んでいる、主人!」


 うわ、なんかこれヤバそう。回れ右してダッシュだ!


「あ~、今来ました」

「うえっ!?」


 うわ……ウシオさんに売られた……。私は仕方無くお貴族様たちに向かい合う。あれ? 一人はニッケル騎士爵様だ。もう一人は赤髪に赤い目の若くて美しい……っと言うか超可愛い女性……たしか……って、私が知ってる女性貴族は一人しかいない。


「マンサ・アミヤ伯爵様?!」

「おおお、あれ?」

「たしか君はシボタンさんの孫の……」

「はい、シズクです……」


 シボタンはお爺ちゃんの名前だ。ちなみにお母さんはミチル。

 そして彼女は珍しい女性上位貴族のマンサ・アミヤ伯爵様だ。ちなみに私がちょっと尊敬している人だったりする。亡き父に代わり若い女性ながら広大な伯爵領を治め、苦難の続くニッケル騎士爵領にも多大な援助をしてくださった方だ。たしかまだ十代。

 僥倖と言う言葉の意味を今、噛み締めている。


「伯爵様、私カソレ村村長の孫娘、シズクと申します。親愛なる星の女神様により釣り人のスキルを授かりました!」

「おお、おおお、凄いな! ちっさいのに!」


 情緒不安定なのだろうかアミヤ伯爵様。先ほどから状況認識出来てない感じだ。


「くっ、落ち着け私! ふう。……魔物との戦いは苦難であったろう。大儀であった」

「いえ、ご配慮傷み入ります」


 合っているかは分からないが臣下の礼を取る。するとアミヤ伯爵様は凄くニコニコして私の頭を撫でて下さった。


「良い。楽にせよ」

「有り難く」


 ふう、ちょっと一息吐く。マンサ様って見た目が凄く可愛いのに男前って言うか格好いい女性なんだよね。前世の私が憧れるタイプの女性だ。有る意味前世の自分にも似ている。


「そっか、君があの魚を釣ったのか。女神様の寵愛を受けているなら全然不思議はないけど……」

「シズクちゃんはいつの間にそんな力に目覚めたの? うちには報告無かったよ?」

「ああ、お爺ちゃんも色々忙しかったんだと思います。新しい輸出物や塩の交易拡大でてんてこ舞いだったので」


 まあついでに騎士爵様に報告するくらいは出来たと思うけど、多分私に負担をかけないよう隠してくれていたんだろう。ナミエも女神様の寵愛を受けているけどこれは今の所は隠しておいた方が良さそうかな。私もナミエも仕事を押しつけられたりして自由に動けなくなったら困るし。

 それはさておき、マンサ様がずいぶん砕けた感じになった。儀礼的な部分以外は貴族として振る舞うつもりが無いのかも知れない。


「アミヤ伯爵様、私凄く尊敬しています!」

「ありがと。私の事はマンサで良いよ」

「そんな!」

「良いから良いから」


 憧れのマンサ様からお許しがあったのだから良いよね。これは色々運の巡りが良くなって来たかも知れない。


「でさ、昨日の魚、岩喰いだっけ? 買い取らせてくれないかな?」

「えっ、と……。今は在庫が無いのですが代わりに」


 私は男爵鯵の一匹を取り出す。八十センチ超えの最初に釣った一匹だ。


「へえ、これも魔物魚なんだ」

「ほう……」

「男爵鯵か。良く釣れたな」

「男爵鯵」


 マンサ様はウシオさんに魔物魚の名前を聞いてその名前を呟くとクツクツと笑い始めた。伯爵様が男爵を食べるとか……。あれ、なんかエロい。それで笑い出したのか。


「この魚も美味しいのか?」

「あ、私調理します!」

「良いのか? と言うか君みたいな小さい子が調理?」


 ニッケル様に心配される。まあ今の私は普通に六歳児だし心配になるよね。しかしここのメニューはだいたい私の考案なのだ。私は女神様の寵愛を受けているからと説明してまずはこの男爵鯵の料理を食べてもらう事にした。


「では、失礼します」

「楽しみにしてるよ」


 マンサ様に自慢してもらうためにも魚拓を取ってから調理を始めよう。

 こんな良い鯵まずは刺身にしないとね。

 次に切り身を卵と水、小麦粉を溶かしたもので揚げて天ぷらにして、片栗粉でとろみをつけた甘酸っぱいタレをかける。南蛮漬けとか甘酢餡掛けと言われる料理だね。この場合はとろみを付けた甘酢(砂糖を溶かした酢)を使った甘酢餡掛けになる。なんか複雑だよね。


 もう一品は薄く切って塩胡椒で下味を付けて何枚も揚げ焼く。それを小皿に並べて他の皿の各種のとろっと甘くしたソースを付けて食べられるように仕上げてみた。

 ソースはトマト、レモン、林檎、ニンニク魚醤の四種だ。ちょっと気軽に食べるには凝りすぎてる気はするが食事の後半にお酒と食べるのに良いと思う。そのまま食べても美味しいし。あとは薫製とか速攻で出来たら作ったけど無理だな。

 そうか。ちょっと時間はかかるがハムにしてみよう。


 早速出来た順番に料理を配膳してもらう。少し味見したが魔物魚の例に漏れず旨味が強くて美味しかった。特にこの魚は脂も乗っている。


「うまっ、刺身うまっ」

「凄い甘味ですね。それなのに全くくどさが無いのはなんでだろう?」


 それは刺身の脂の甘さと肉の旨さが相互作用を起こして強い甘味を生むからだろう。料理の味が薄味で困ると言う人は旨味調味料を加えてみると良い。味がぐっと濃くなる。


「これ、甘酢餡掛け、凄いボリューミー!」

「たしかにこれは胃袋が満足する一品ですね」


 好評好評。さて、あと一品か。

 この国の貴族の人はかなりゆったりと食事を食べる。わずか三品で一時間ほど時間が進む。特に三品目のソテーに四種のソースを添えた物はゆったりとお酒と共に楽しまれていた。


「三品いただいたけど同じ魚とは思えないね」

「そうですね、生物(なまもの)がまず珍しく、しかも思ったより食べやすい」

「二品目は食いでがあったね。肉を食べたような満足感」

「そうですね。もうそこでお腹が膨れる勢いでした」

「しかしこの三品目、お酒を楽しむのにちょうど良いつまみになってるね」

「良く考えられてますね」


 まあ普通のコースの発想なんだけどね。

 私が勤めていた居酒屋で良くいたんだけど、二品くらいでお腹を一杯にしてからおつまみを食べ、しばらく飲んだら最後にさっぱりした物をもう一品を頼むお客さん。

 フランス料理のコースとかならもっと凝ってると思うけど私に出来るのはここまでだ。

 さて、少し早いが塩漬けにした魚を水洗いし布で巻く。沸騰したお湯を火から下ろしたら魚を投入、五分ほど放置。火を入れすぎるとボロボロになるので注意だ。

 熱水でじっくり火を通したらスライスしてチーズ、トマトと挟み、オリーブオイルをかけて胡椒を振り、少しの塩で味を整えて出来上がり。アジハムのカプレーゼ風だ。

 本来なら塩胡椒を振った魚の柵を三日から一週間熟成させる魚生ハムを作るのだが今回は時間がなかったから仕方ない。生ハムを使って生臭い時は辛子ドレッシングをかけたら美味しい。魚の熟成についてはいずれ詳しく。


「おお、ちょっと小腹が空いたタイミングで来たね」

「ほう、魚を塩漬けして火を通した物にトマトとチーズを挟んでさっぱり食べさせるわけですね」


 どうでも良いがニッケル様が解説役過ぎて一々吹き出しそうになる。さて、お酒も回ってきたようだし私も少しお話してこよう。今後ともこのカソレ村をご贔屓にしてもらいたいからね。


「マンサ様、ニッケル様、料理はいかがでしたか?」

「……美味しかった……」

「実に満足した」

「拙い料理に過分にお褒めの言葉をいただき有り難う御座います」


 丁寧に挨拶するとマンサ様の目が潤んできた。この目、知ってる。ナミエをうっかり誉めた時の目だ。


「ニッケル、この子うちに連れて帰る!」

「御無体な、この子はこの村の救い主ですよ? いや、騎士爵領も潤ってますし!」

「むむう、じゃあ騎士爵領を吸収するか」

「ご勘弁を!」


 マンサ様が酔っ払って面白い。まあ連れて行かれたら釣り出来ないから嫌だけど。


「ふむ……。ここの税金を関税込みで少し下げるか。あと旅館の規模を上げて数を増やしなさい。いくらか援助してあげる」

「まさか、良いのですか?」


 伯爵様大盤振る舞いだな。若い伯爵様が顎に手を置いて考える様は色っぽい。胸は大きくは無いし童顔だが実に色気を感じる。いや、私はレズじゃないったら。


「ここに生意気な辺境伯とか連れてきたら面白そうじゃない?」

「なるほど、それは良い」


 どうやら更に上位の貴族様を連れてこられるようだ。勘弁して欲しい。でも援助も有り難いな……。


「しかし女神の寵愛って事は元日本人なのね」

「えっ」

「私も女神様に商人スキルを授かってる元日本人なんだけど」

「そ、そうなんですか」


 マンサ様の告白に怯んだ。初めて村の外の女神様のお気に入りに出会った……と言うか存在を知らされた瞬間だった。






 魚が主体の料理だけだとあんまり種類を出せませんね。異世界は調味料も少ないし。

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