釣りガール、男爵と戦う
お爺ちゃんに許可を取って魚の販売を始める事にした。
最近私と付き合いが深いオシモさんはお爺ちゃんと話をする事も多くて飲み仲間になっているのだが、その為か晩酌のお供の準備は忘れないように、と、お爺ちゃんには釘を刺された。私としてはたくさん釣れるならそれで良い。
なんと言ってもこの村の海は魚影が濃い。つまり魚がたくさんいる。種類も豊富だから料理のアイデアも尽きない。
先日の宿屋さんの話もあり魔物を釣る事のメリットはかなり増した。レベルは上がるわ儲かるわお貴族様の覚えもめでたくなるわ美味しいわ釣りが出来るわで、悪い事と言ったら目立つ事くらいだろう。だがこんな寒村に目くじらを立てる人物もいない。
とりあえず魚の相場はオシモさんとウシオさんとお爺ちゃんの話し合いで決まる事になった。
じゃあ、ちょっとモンスター釣ってくる。
◇
狙うターゲットは少しサイズの大きい物にしようと思い漁師のアゴニーさんに一メートル程度の魔物魚の情報を聞いてみた。陸っぱり(船釣りに対して陸上からの釣り)から釣れる中では男爵鯵と言う魚がメーター級で味も良いらしい。GTを彷彿とさせる。
GTは船釣りで釣るのがメインだが、ルアーフィッシングでは一つのゴール地点のような魚だ。抜群に引きが強く面白いターゲット……らしい。
もちろん私は釣った事が無い。ただ陸っぱりでもポイントによって大型の鯵が釣れる事が有るのを知ってたくらいだ。
さて、そんな大物となると引き揚げるのが大変そうだ。仕方がないのでナミエを連れてきたんだが、何故かアタルとトマンもついてきた。
「最近シズクちゃん遊んでくれないし~」
「村長の孫で女神のなんとかだからって仕事しすぎじゃね?」
仕事? ああ、釣りは仕事だったのか。気付かなかった。
「まあ楽しいし。釣り教えようか?」
「勝手に釣るし」
「僕らも釣り覚えたよ~」
こんなちびっ子たちがモンスターに挑むのは危なすぎるだろう。ゴブリン退治と同じ事じゃないだろうか。止めるのは難しいだろうから出来るだけ面倒を見るしか無いかな。
「じゃあ勝手にすれば」
「おう」
「わかった~」
「……邪魔ですわ」
不穏な声が聞こえたがスルーして釣りに行くことにした。ターゲットは男爵鯵。餌はエビ餌で大型の物を使う。
ちなみに魔法餌は人間は食べられない。と、言うか針から外すと消えるので釣られたければ食べられる。
陸釣りか……。しかし餌で釣れる男とか嫌すぎる。まだ六歳だし分かんない。
前世から足した年を数えてはいけない。それは地獄の入り口である。
アホな事を考えてないで釣りをしよう。早速オーバーハンドキャストからの遠投。今回使う竿はスキルによるパワーアップを見込んで七フィートのバスロッドだ。前世はこれでメバルやアジもやった。スズキも釣り上げられるハードロッドだから魔力で強化すれば魔物魚とも十分戦えるだろう。
さあ、釣れてこい。
潮風を吸い込み、辺りの景色に目をやる。このポイントは塩田地帯より東に当たる。ちょっと地形を確認しよう。
まず私たちの村の南西は岩礁地帯。岩喰いが釣れる辺りだ。そこから東、村の南には港があり、そこから更に東、水深の深い岩場があり、さらにその東には砂浜と塩田地帯が広がる。
私たちがいるのは港と塩田地帯の間の水深の深い岩場だ。この辺りは水深がもっとも深くなっているので陸っぱりから狙える魚としてはかなりの大きさのものが生息している。今回のターゲットの男爵鯵はこの辺りでは普通のサイズだ。少し沖に出ればいつか温泉で見たような三メートル以上の超大型魔物魚がたくさん生息している。
いつか水族館みたいな場所を作りたいよね。こんなに地球と違う生態系、興味しか湧かないよ。
さて、さっそく当たりがあった。ラインが急速に走り始める。魚の泳ぎに合わせて右へ左へと。
「おっさかなあああ!」
「デカそう!」
「きましたわー!」
「わあっ!」
また言ってるよあのストーカー。それより戦闘開始だ!
ギュンギュンとドラグを鳴らし一直線で走るターゲット。この動きは青物だ。
青物とはアジやサバのような背中の青い魚全般を指す。肉として見るなら赤身魚だろう。ちなみに鮭は白身魚である。
とにかく魚の頭を沖に向けたままではラインがいくらあっても足りない。ロッドワークを駆使して魚を手前に向けさせる。
「こいつ、強い!」
「頑張れシズク!」
「お姉さまに馴れ馴れしいですわ!」
なんかアタルとナミエが喧嘩しているが放っておこう。今は魔物退治だ!
ターゲットは頭をこちらに向けさせるとギュン、と手前に泳ぎ反動を付けるように反転し、沖に進んだ。水を割る背鰭が飛沫を迸らせる。
……良いわ。凄く良い。なんだかうっとりしてしまう、これが自然の美しさ。
「……釣ってやる!」
ギュンギュンと鳴っていたドラグを締める。こうする事でラインやロッドに掛かる負担はかなり増える事になるが、魚にダイレクトに力を伝えられる。言うなれば、防御を捨てた殴り合いだ!
魚の動きが一瞬戸惑ったのを私は見逃さない。一息にラインを巻き上げる。
「これで終わりだあああっ!」
ざぱっ、と水を割る魚。美しい青緑の魚体が光を反射する。こいつが男爵鯵か……!
タモを出して頭だけ入った状態で引き揚げる。もう銛とか鉤を使って引き上げないと駄目な大きさだな。
釣り上がった魚はなかなか精悍な鯵らしい顔をしていた。大きさは八十三センチ、まずまずと言った所か。
お刺身にしたい。決めた、夕方もこいつを釣る。
レベルは上がらなかった。これからレベルを上げるのはかなり大変そうだな。
◇
男爵鯵を最終的に三匹上げた。一匹はうちで食べるので残りは宿屋さんで売ろうと思う。
レベルは一個上がった。
名前 シズク
年齢 6
状態 普通
レベル 7→8
生命力 28/28→31
体力 20/35→41
魔力 28/40→47
瞬発力 26→29
持久力 30→37
総戦闘力 82→91
・スキル(釣り人)
C基礎
→生活魔法 常時身体強化 釣具召喚 道具回復 釣り経験値獲得
C鑑定・調査
→魚鑑定 海藻鑑定
C竿
→竿強化
C糸・リール
→糸絡み防止 糸強化 糸延長(new!)
C魔法餌
→ウェイト操作 練り餌 虫餌 エビ餌
C釣り補助
→滑り止め 雨除け
Cクーラー
→クーラー召喚 容量80(up!) 水筒 製氷
C船
→船酔い防止
・加護
星女神加護 漁神加護
・称号
村長の孫娘 釣り好き 料理好き 前世記憶保持者 女神に愛されし者
・女神から一言
スキル釣りに慣れてきたね。
新しいスキルは糸延長か。強化系を駆使すれば更に遠くまで投げられると言う事だろう。魔力量によっては沖に出なくても良くなるかも知れない。
さて、魚を売りに行こう。