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WELT・SO・HEILEN~ウェルト・ソー・ヘイレン~  作者: 稲狭などか
アイドルと魔装解放編
8/46

ゲームボード(2)


 武装ギルド<ディミオス>の構成員、根元幸三は苦虫を噛み潰した顔をして魔法で作られた巨大な液晶画面の様なボードを眺めていた。

 そこには、ディミオスの状況がまとめられていた。

 周辺ギルドは協力を拒絶、WELT・SO・HEILENのメンバーは七人で我がギルドの情報収取を得意とする部隊を翻弄、先程も二人相手にほぼ壊滅まで一つの部隊が追いやられていた。その理由としては、「二人なら倒せると思いました」だ。

 幸三はテーブルを拳で叩く。飲み物が置かれていたなら確実に大惨事になっていただろうが、テーブルの上には紙の資料しかない。

 集まっている仲間も顔に脂汗を滲ませている。

 このギルドは今にも奇襲を受けて壊滅してもおかしくない状況まで追い込まれている事を重々承知している者しかいないのだから、そんな顔になるのは仕方ないのだが。知らないのはリーダーの佐島望ぐらいだろうが、口答えなんか出来る訳ない。

 このギルドは彼のスキルで成り立っていると言っても過言ではない。そんな彼の権力はこのギルドでは絶対だ。


「幸三、この状況。あまりにも早過ぎないか? 敵がハッキリとWELT・SO・HEILENであるとわかった以外の情報がないこちら側と違って、向こうは余りにも迅速だ!」


 叫んだのは戦闘ではこのギルドでは佐島望を除けば最強の男である朝倉将だ。彼はかなりの実力者であるが、けしてバカではない。

 自分の陣地を巨大なモンスター達に囲まれては勝ち目はほぼ皆無である事ぐらいの考えは出来る。

 今の状況はいつそのモンスター達が一斉に火を吐くかわからないと言った感じだ。


「慣れているのだ! WELT・SO・HEILENは一番得体の知れないギルド! 彼、いや、仮に死神の飼い猫がリーダーなら彼女と言うべきか、それが敵となるのだったら最悪だぞ!」


 口を開いたのは初老の男だった。彼は霧島勇樹と言う名で、ギルドの中で繊細な魔法を操る事に長けた男だ。この男が初めから指揮を執っていれば、WELT・SO・HEILENとも互角に情報戦が出来ただろう。

 今となっては後の祭りだが。


「彼女は凶悪な異常犯罪者、殺人鬼、テロリストなんてイカれた奴らと殺し合いをしている。いや、狩り殺している化け物だ。あんなに小さな体で、小さな手をした女の子にしか見えない外見をしているのに、押しつぶされそうなプレッシャーを感じた」


「あの女。いや、確実に女子高生だろう。だが、正面から戦えば内のリーダーもただでは済まないだろう」


 幸三は黙って仲間達の言葉を聞いていたが、死神の飼い猫の恐ろしさは得体の知れない魔法でも、その戦闘能力でもない。

 アイツは、仲間と共に戦う事が多い。それも、罠も張ってくる上に精神系の魔法が上手い。

 下手すれば、間者を作り出す事も行うかもしれないだろう。

 そこで、幸三の時間が止まった。


 間者を作り出す? 精神系魔法。今まで全滅だったのに逃げる事に成功した部下達。


 幸三は一気に血圧が下がるのを感じた。

 もしかしたら、自分達はとんでもない過ちを犯した可能性がある。


「幸三? どうした?」


 朝倉は心配するよな感じで、幸三に声をかける。

 しかし、幸三には聞こえない。彼の声を聴いている場合ではない。今すぐの確認が必要だ。

 彼は半狂乱で部屋を飛び出していた。


「おい! 幸三⁉」


 彼が部屋を飛び出した瞬間、ギルドのあちらこちらで爆発が起きた。

 幸三はバンランスを取れずにその揺れで転倒する。それは仲間達も同じようだった。


「どうしたぁ! なにがどうなったぁ⁉」


「爆発⁉ どうしたと言うのだ!」


 幸三は通信魔法で部下達に連絡を取る。

 繋がったが、そこから真っ先に聞こえて来たのは部下の荒い息づかいと、何かが崩れ落ちる様な音。その後に部下の声が続いた。


「奇襲です! 目の前で戦闘部隊の奴らが爆発しました! アイツら、所かまわずに爆弾を投げ付けて自爆しました! 妙な色の煙で前が見えない、みんな無事か⁉」


 WELT・SO・HEILENか、と仲間が驚いているが、この中でその奇襲は攻め入って来た訳ではないと知っている幸三だけが妙に冷静だった。

 奴らにとっては嫌がらせだ。こんな事は連中にとって遊びに等しい行為なのだ。

 幸三は、一人静かに笑みを浮かべていた。

 

 我々はいつ間にか引っ張り出されていたのだ。


 静かに鳴き声を上げる蒼い瞳の猫が支配する、ゲームボードの上に。



「嫌がらせは成功したかな⁉」


「相手が油断していれば成功。失敗でも、最低数人は殺せるだろうね・・・・・・ミンチ以上の死体になるよ」


 加々美はアイリスのその回答に邪悪な笑みを浮かべる。

 人間爆弾作戦が成功しても、失敗しても死人が出る事は決定事項だ。精神系魔法はギルドに入ったら自爆すように命令を下していたから連中以外には被害も出ない。

 二人は喫茶店の中でケーキを食べていた。学校は勿論、サボりである。


「あっはははははは! こんな嫌がらせ程度じゃ懲りないだろうけどね! 勝手に遊んじゃったけど、正明怒るかな?」


「知らない。敵にとっては良い事していないし、いいじゃない・・・・・・やっぱり、不安」


 抑揚の無い口調だが、アイリスはそう言った直後に正明にデバイスで連作を取る。

 そんな彼女の右手首に巻かれたバンダナが精神系魔法を取り逃がした連中にかけた物だ。

 魔力消費なしで発動でき、魔具とは違い多彩な魔法を使える魔装が有れば一つで一人分の働きを魔力消費無しで行える。その上、形状は作り手の自由であり身体に身に着ける場合には複数人の魔法使いの能力を一人で振るえる化け物にもなれる。だが、正明を初めとしたメンバーは一式で強大な一つの力を持つと言うコンセプトの物が好きであり、遊びで趣味全開の魔装を作りまくっている節があるため一つだけでは何も出来ないクソ魔装も存在する。

 そんな代物を使うに至っては効力が意外に広範囲に及ぶ可能性がある。だから、正明のアドバイスが必要なのだ。


「正明?」


(どうしたの? アイリスからなんて珍しいね? 逃がした事なら怒っていないよ?)


「ううん、逃がした事じゃ無くて・・・・・・そいつらに精神系魔法をかけて、ボンバーマンにした。多分向こうのギルド、大騒ぎだけど、余計?」


(えっ⁉ そんなことしたの⁉)


 アイリスのフードに付いているうさ耳が少ししょんぼりしたような動きを見せる。


「うん、ミンチよりひどいと思う」


(いいじゃん! ザマァ! 連中に手加減は無用だよ。でも、相手はその一手でギルド戦を奇襲で終わらせるのはキツイかな? 殴り合いになるよ)


「殴り合い? 失敗した。爆弾に毒を入れといたから・・・・・・少し、数が少なくなるかも」


 アイリスは少し機嫌の良さそうな声でそう呟くと、ポケットに入っている毒のサンプルを取り出す。その液体はエメラルドグリーンの美しい輝きを放っている。

 加々美はその液体を容器を軽く振りながら歓喜の声を上げて眺めるのは、これが爆弾に入っていた事なんか知らなかったからだ。


(連中には素材でなくて死体になって貰うし、技術と財を奪うだけ奪えればいいよ。きっと向こうも大喜びだね)


「うん、きっと・・・・・・ウケているよ」


(そっれじゃ、八雲の援護に向かうよ。気を付けてね)


 正明との通信を終えると、アイリスは毒のサンプルを加々美から返してもらうとポケットにしまった。


「危ない」


「だったらポケットに仕舞わないでよ」


「この毒、光に弱いけど体内に入ると一気に増殖して体組織を内側から腐敗させる物・・・・・・死体は目も当てられないほどグズグズになるよ」


「ケースに仕舞ってよ! 死ぬよ! 私達でも死んじゃうんじゃないの⁉」


「死なないよ。三日以上のた打ち回るけどね」


 加々美は「うへぇ・・・・・・」と言うとケーキを一口で食べてしまう。

 アイリスは自分のケーキを安全圏に移動させて少しずつ食べ始めた。

 加々美はデバイスを開くと、志雄の項目で目を止める。


「志雄ちゃん、の方はどうだろう?」


 デバイスの放つ魔法でのシールド画面に生真面目な表情で写る志雄に、加々美は独り言の様に問いかけた。



 志雄は数人の男に囲まれていた。

 しかし、苦い顔をするのは志雄ではなく囲んでいる男たちの方だ。彼女は手甲のついた両手をだらりと下げているが、そこには既にエネルギーをチャージしている。


「どうやら、いつまでもアイツ等はどこの誰だで大騒ぎするバカではないようですね」


 志雄は顔に仮面を装着し、額からは角を生やしている。

 その姿は人間には見えないだろう。言うなれば地獄から現れた女の鬼、だ。

 男達の正体はディミオスに出入りする戦闘部隊ともいえる集まりであり、ギルドのために戦う兵隊ともいえる立場の連中だ。

 幹部から言い渡された命令。


(SPECTRE,sの近辺を調査し、見つけた場合は尾行、もしくは捕獲せよ)


 と言うものだった。

 戦う事で生きて来た男達にとっては簡単な事だった。裏の世界での小競り合いや戦いに日常的に身を置く立場としては、たかが子供の集まりを探し出して捕まえる簡単な仕事程度の認識だった。

 だが、現れたのは凶悪な顔をした鬼。

 体付きから女であるとわかるが、そこにある女性的魅力は物々しい軍服に隠され、両の腕にはゴツイ手甲が装備され、指先すら細かい装甲で固められており鋭い爪の様だ。


「お、鬼⁉ 仮面か? その顔⁉」


 志雄は首を傾げる。

 これが素顔の人間なんかいたら外出も出来まい。この男はバカなのではないだろうか? と志雄は考えるが、あながち間違いでもないから彼女は返答に少し困る。

 仮面はともかく、角は自前なのだから。


「鬼です。顔は仮面です。角は自前です」


「角が自前?」


 男の目に好奇心の色が浮かぶが、志雄はこれ以上興味を持たれても面倒なので無造作に近くに置いてあったビールの空き瓶を拾い上げる。

 彼女達がいるのは人気のないビル群の隙間、真昼間で善良な国民は仕事に勤しんで国を支えているので人なんか来ない街の死角だ。

 志雄はそのビール瓶を右手にチャージしたエネルギーを少し使い浮かせて遊ぶ。


「と、取りあえず。お前! SPECTRE,sだな⁉」


「知っているのでしょう? それに、先程も私をWELT・SO・HEILENと関係があるとか、なんとか言っていたではないですか。わかりきった事を言わないで下さい」


「チッ! 可愛くねー女だぜ!」


 志雄は仮面の中で眉をひそめた。確かに可愛いかと言われれば自分は可愛くない女かも知れない。よく加々美と街で買い物や遊びに行くが、彼女は明るく愛想がいいから女性としては志雄よりは需要があるだろう。

 何処か威圧的になってしまう自分の顔つきや性格にコンプレックスを抱いていた彼女は少しだが、気分を害する。

 大口を叩くようになった男達だが、その心理は恐怖に対する現実逃避だ。

 人間は恐怖を感じると、逃げるか、戦おうとする。男達は後者であっただけの事なのだが、愚かにも牙を剥こうとしている相手が鬼なのを彼等は再確認すべきだった。

 志雄は手に持っていたビール瓶を無造作に振り上げると、一番近くにいた男の顔面に投げ付ける。

 瓶は男の顔面に深く突き刺さると爆発するように辺りに破片を撒き散らした。


「うおっ⁉」


「一人を除いて、死んでもらいます。喧嘩を売って来たのは貴男方ですので」


 冷たくそれだけ告げると、志雄は瓶を投げ付けた男を無視して他の男に襲い掛かる。

 銃を構えるが、志雄の方が速い。拳が全員の身体に触れるのは一秒もかからなかった。

 ボクサーの様に切れのある動きと、高速の拳は男達の人体急所にヒットしたが


「なっ、速い」


「化けモンが!」


 健在。

 男達は凄まじい速さで通り過ぎた志雄に慄きながらも銃を向けるが、その銃口は自らの視線ごとアスファルトへと伏してしまう。

 身体を凄まじい重圧に包まれて立てなくなったのは瓶を投げられた男を除いた全員。


「さて、パンチの良い練習になりました。これから全員、御煎餅になりますが。まぁ、覚悟はしてきましたよね? 諦めて死んでください」


 志雄は何とも例えようのない呻き声を上げながら、体中の骨が砕け、中身が表に飛び出し始めた哀れな者達の上を飛び越えると、瓶をぶつけた男を覗き込む。

 鼻が折れ、顔中が破片でズタズタになっているが、生きているだろう。


「手を抜いていたのですが、意識は完全にありませんね。回復してあげますか」


 志雄はポケットから正明が使う小瓶と同じものを取り出す。

 中身は青いが、正明が液状化させる魔力よりは色が薄い。

 志雄はその小瓶の中身を気絶している男にかける。液体は淡い光を放ち、彼の顔をみるみる元通りに治していく。

 これはアイリスが作ったポーションだ。

 身体にかける事で外傷を、飲むことで病気や毒などを治すことが出来る。それにも程度があるが、志雄が持って来たものは骨折までなら治せる物らしい。

 ちなみに飲むとクソ不味い。


「ん? な、なにが?」


「起きましたね? では、質問です。ディミオスは、私達をどの程度知っていますか?」


「貴様!」


 男は銃を慣れた手付きで素早く抜くと、志雄に数発打ち込んだ。鉛の銃弾と、魔法を込めた電流を交互に打ち込んだ。

 実弾で外傷的に、電気で動きを制限しようとしてのチョイスであった。

 男の顔に笑みが浮かぶ。

 だが、志雄は溜息を吐いて魔装に受け止められた銃弾をほこりでも払う様に落とし、少し身体を痺れさせられた事に苛立ちながらも男が持つ拳銃を握りつぶす。

 正明から聞かされた液体が出ると思っていたが、単純な破壊や解体ではその正体は見えないと言うのは本当の様だ。細かいパーツやひしゃげた金属片が落ちるだけだ。


「ひ、化け物ぉ!」


「答えなさい。首の骨をへし折りますよ?」


 志雄は男の首を掴むとほんの少し力を込める。

 男はそれだけでも白目を向いて苦しがる。志雄にとっては結構繊細な作業なのだ。彼女にとって人間の首程度はスティック菓子の様な物なのだから。

 力を緩め、男に空気を吸う権利を与える。


「さて、答えてください」


「ふざけるな! 仲間を売るもんか!」


「それには賛同できますね。ですが、貴方が死んでもリーダーは泣いてくれますか? こちらのリーダーはそうなったら人格が変わるほど泣いてくれます。そちらの方のリーダーは貴方が命を懸けてまで守る価値がある人間ですか?」


「ねぇよ! でも、俺にはプライドがある! 女のお前にはわかんねぇだろうけどよ、男には死んでも通したい筋があるんだよ!」


 志雄は仮面を半分だけ消す。

 男は生の視線に背筋を凍らせる。

 そこに見えているのは美しい女性の顔だ。額から黒い角が生え、縦に裂けたような虹彩は人の物ではないが、美しい事は変わらない。が、その殺意の籠った瞳には強大な意志の強さがあった。


「女にも、筋は在ります。ですが、わかりましたよ。貴方の持ち物が教えてくれました」


 志雄は男の懐に在った情報を封じ込めたデバイスだ。

 その中には男が集めた様々な情報が詰まっているだろう。男の顔が引きつる。


「貴方は用済みですね。しかし、その頑固な姿勢に敬意を称して一瞬で殺します」


「ヤメロぉ!」


 男の顎に親指をかけると、志雄は軽く弾くように親指を動かす。

 小気味の良い音と共に男の首は数回転し、身体を少し痙攣させた後に仲間達の血だまりに男は倒れ込む。


「さて、デバイスは宗次郎が詳しかったはず。合流しますか・・・・・・ん? 鳴、神? 華音? ライブ会場? あの子のライブですか? リーダーの趣味ですかね?」


 志雄は一旦WELT・SO・HEILENへと戻るために、霧を発生させてそこへと歩く。

 第一船のエリアに付くが、そこは甲板でメイド長が執事長を下の海へと叩き落したところだった。苦笑いを浮かべると、溜まっていたエネルギーを解放して執事長を引き上げて志雄はメイド長に宗次郎の居場所を聞いた。

 いないだろうが、その光景をスルーするためには適当な話題を出す以外の対抗策を彼女は知らなかった。



 宗次郎はデバイスを仕舞うと目つきを鋭くした。

 彼の固有能力、遠視を発動する。

 遠視と言っても直接見るものではない。デバイスを使う事で視界を他者と共有することは出来るが、それでは視線を動かせない上に魔法的手段で探知されると言う弱点を持つ。

 今の彼はそのまま能力を使える。その力は千里眼ともいえる力だ。

 彼の目は学校で情報収取魔法を発動する正明の姿を捉える。


「ハァ⁉ 正明、なんで幻術使わないの⁉」


 本来なら学校で大規模魔法を使う彼の姿は幻影で見えないはずだが、今の彼はしっかりと見えている。宗次郎はその腰についているホルスターへと視線を動かしてズームすると、額を右手で軽く叩く。


「ヒビ入っているし・・・・・・アイツなー、頭は良い方なんだろうけど詰めが甘いと言うか」

 

 第一〇位のギルドとの情報網確立への協力を仰ぐことに成功したが、宗次郎はその情報網に早速連中が掛かったと連絡を貰ったので正明の様子を見ようとしたのだが、彼は幻術をミスして無様にも屋上にやって来たオーダーの隊長に追いかけられている。

 宗次郎はニヤニヤしながら彼の失態を覗き見る。

 この前、執事長と一緒にデバイスを使い女性用の風呂を覗いた時の事を思い出して宗次郎は苦笑いする。魔法で逆探知され、志雄がブチ切れてバスタオル一枚で殴りに来たのだ。


「飛び降りた。アイツはスパ〇ダーマンか?」


 宗次郎は正明から視線を逸らして近くを見て回る。

 次に見つけたのは八雲だった。隠れて何かを見ているが、その先を辿ると、そこにはブロントヘアーをツーサイドアップにした女の子の姿が見える。

 彼女は、まさしく。


「華音ちゃんじゃあ! なんであのワタアメが華音ちゃんをストーキングしとんじゃぁ! ハッ! 俺、この固有能力でいつでも彼女を見れるじゃん! ぐあー! 今思いつくなんて! 不覚だぁ!」


 宗次郎は悶えながら叫ぶと、霧を発生させてそこへと歩き、ギルドへと戻る。

 第一船の甲板には京子がいつもの鬼二匹と遊んでいた。いつ見ても彼女と鬼の遊びは食われそうになっている小さな女の子とそれを弄ぶ鬼の構造にしか見えない。

 何も知らない人間が見たら腰を抜かして京子の命が危険であると目を覆うだろう。


「京子ちゃんお帰り」


「宗次郎さん、お帰りなさいです! そっちはどうでした?」


「成功成功! 早速俺のデバイスに情報が来ているんだよ。どれ、見てみようかな? えっと、これだな。なになに・・・・・・あぁん⁉」


 思わずドスの効いた声を宗次郎は上げてしまうが、それ以上にこれが今回のギルド戦に関係があるのか疑問を拭えない。

 京子と冬鬼、夏鬼は宗次郎のデバイスを覗き込む。

 そこには大きく、鳴神華音のライブチケットの購入履歴が乗っていた。


「ライブ⁉ え? え? 俺聞いていない! 何処にもライブやるなんて情報乗ってないぞ⁉」


 宗次郎の言う通り、このライブは一般にまだ公開されていない情報だ。

 枯れ果てたムンクの叫びと化した宗次郎は、背後から肩を叩かれる。


「宗次郎、帰っていたのですね? お願いがあるのですが、このデバイスのセキュリティを抜けて欲しいのです・・・・・・なんて、顔しているんですか?」


「おっぱい揉んでいいですか?」


「股間を蹴り飛ばしてもいいと言うなら、揉んでいいですよ?」


「結構です。で、なに? デバイスのセキュリティハック? わかったよ、白パンツ」


「なんでわかるんですか‼」


 頭を殴りつけられながら宗次郎は志雄から受け取った。

 彼は機械には強い方だ。と言うか、彼の船があるエリアは機械のオンパレードとなっている。ギルドの工業系技術は彼の分野だ。

 セキュリティを抜け、内包された情報を引きずり出し、魔法でシールド画面を多く作り出しで展開すると、空間に多くの画面が浮かび上がった。


「これ、大当たりですか?」


「わかんないなー」


「この情報の殆どがダミーだな。だが、このデバイスの持ち主はかなりの情報を集めていたらしいのお」


 宗次郎は笑みを深くし、ダミーと真実を分ける。

 ダミー情報がある画面は消え、残った画面は半分以下の数となっていた。


「どうやら、華音ちゃんを探る必要ありだな。殆どが華音ちゃんを観察記録だ」


「なんで彼女を? ただの変態でなく、訳ありの変態らしいですね今回の敵将は」


「私の方は、八位さんに華音ちゃんを探って貰っているから少し待とうよ? それに、八雲君も彼女を張っているし」


 京子はあくびをすると、甲板に寝転がってしまう。

 志雄はあっという間に寝てしまう彼女を抱え上げる。


「風邪引きますよ?」


 冬鬼、夏鬼は京子が寝た事により溶けるように消えていく。

 志雄は船室に京子を運んで行き、宗次郎は近い将来に華音のライブにが来ることに思いをはせて画面を見つめていた。

 念のために正明と八雲にデバイスで宗次郎は連絡を取った。情報の共有は重要だ。


「おーい間抜け共。そっちはどうだ?」


(宗次郎! 今ギルドか⁉)


「正明? 仮面着けているのか?」


(連中、どうやら情報戦での敗北を認めたらしい! 全面戦争になる! しくじった! すまんみんな! こいつら皆殺しにするプランBに変更だ!)


 デバイスの向こうから激しい戦闘音と人の悲鳴が聞える。

 舌打ちすると、メンバー全員に一斉に通信を繋げると一言告げる。


「総員、ギルド長のしくじりによりー、総力戦となりまーす! 現状集めうる情報を各員集めながら、敵をフルボッコにする事に努めてくださーい。以上!」


 宗次郎は高笑いしながら甲板から海へと飛び降りた。

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