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WELT・SO・HEILEN~ウェルト・ソー・ヘイレン~  作者: 稲狭などか
アイドルと魔装解放編
5/46

開戦前(2)


 ギルドという物がこの世界には存在する。

 武装・商人・医療・工業と言う四つが主な種類になるが、数が多いだけでこれが全てではない。

 風体や装備から考えるに、今回戦った連中は武装ギルドだろう。

 そう断定できるのは、正明を含めたメンバー全員が持っていた装備に見覚えがあったからだ。最近になって活動が活発になった武装ギルド<ディミオス>の造る魔具と見て間違いない。商売敵の商品を知らなくてはギルドをやる資格などはない。

 正明は捕まえた男をまじまじと眺める。勿論の事左目の力で全身を隅々までスキャンしているのだ。おまけに彼が持つ観察力も総動員して感情すら読もうとしているが、相手も一筋縄では行かない様だ。


「精神性の魔法か? 表情が変わらないな。しかし、心拍数で一目瞭然だがな。それに、魔法の力も全部が読み取れない・・・・・・もしかしたら情報阻害の魔法をフルコースでかけているな?」


 正明のギルド・WELT・SO・HEILENの第一船内にある尋問部屋に上半身裸で天井から吊るされる男は、目の前の小さな仮面の少女に大いなる恐怖を抱いているだろう。

 なぜならその小さな手が握るのは、注射器。

 中には意味不明な液体が入っている上に、その液体は色を逐一色を変質させている。

 正明は鼻で笑うと、躊躇いなくその注射器を男の身体に突き刺して中の液体を一気に流し込んだ。男の身体が激しく痙攣し、その顔は見るに堪えない表情で涎を口から滝の様に垂れ流している。

 が、正明はそんな事は気にも留めていない。

 必要なのはこの男の体内で組み込まれた邪魔臭い術式を破壊する事なのだから。


「そう暴れるな。拷問なんかしないし、話す事を話したら家に帰してやる。その為には、お前の身体の中にある邪魔な術式を壊す必要があるんだ。死にたくなければ身体から力を抜け、驚くほど楽になる」


 男は藁をも掴む思いで身体の力を抜く。

 すると、苦痛が全くと言って良いほど消え去った。その上、心までも軽くなって行くのがハッキリと伝わる。

 正明はその様子を見て短く笑う。


「楽になったろ? さぁ、話してもらえるかな? お前・・・・・・いや、君たちの目的を」


 男は心で「言うもんかと」呟く。

 その直後、身体に先ほどの激痛と凄まじい不快感が爆発するかのように蘇った。

 叫び声を上げようにも、喉に刺された別の注射のせいで声が出せない。


「拷問はしたくないって言ったじゃん。あぁ、そうだった。君に打った薬はね、術式を壊すものじゃなくてさ、逆らおうとする精神に反応して身体を激痛と共に少しずつミンチにする極小サイズの使い魔の集まりだよ」


 男は総毛立った。話が違う、拷問なんかしないんじゃなかったのか?


「仲良くなろうよ。君をこれ以上苦しめたくない。話せば、家に帰してあげるんだよ? 殺したりしないし、その使い魔も消してあげよう。拷問になる前に話したらいいじゃねーの? 死体が中身だけミンチなんて嫌だろ?」


 悪魔だ。

 コイツは化け物だ。

 男は天井から降ろされ、椅子に座らされる。恐ろしい今の身体を支配しているのは快感であり、逆らえば地獄の苦しみ。

 仮面の少女の腕が肩に回される。

 髪の毛のシャンプーの良い香り、柔らかくてスベスベした小さな手の感覚、確かに感じる女の気配が何倍にもなって男の精神をかき乱す。


「教えてくれないかな? 知りたいんだよ。そうすれば、君は自由だ」


 正明は甘い声色でそう呟く。

 腰のホルスターの小瓶の魔力を使い、魔法を発動する。

 男の耳元で詠唱用の歌をゆっくりと歌い、彼は魔法を男の精神にかける。男の精神は緊張から解放されると言う安心と心地の良さで緩くなっていた。

 その隙をついて正明は男にかかっている精神系魔法を解く。


「お、俺達は・・・・・・ディミオス。鳴神華音を確保する事と、目撃者の排除を命じられた」


「偉いね。やっと喋ってくれたね・・・・・・さて、華音をどうするって?」


「ボスが、あの女を欲しがった。スキルが、どうとかって言ってた・・・・・・攫って来いって、オーダーと離れた時に死なない程度に痛めつけてから、連れて来いって」


「他に知っている事は?」


「な、ない! 本当だ! 本当だよ!」


「なるほど」


 正明は怪訝な顔を仮面の下でした。

 スキルの希少性は凄まじいものだ。下手すれば、それを持って生まれただけで一生安泰というのも冗談にならない。

 だが、なぜ武装ギルドが? 彼達は魔具、特に武器の生成に特化した連中だ。スキルに目を付けるのは当然だが、それはメンバーに引き入れると言う意味合いでだ。

 攫えば周りの人間、惹いては警察やオーダーまで動く。メリットは無いはずだ。


「助けて、助けてください! 喋ったでしょ? 許して」


「そうだったね。じゃあ、体の中の使い魔を消してあげるよ」


 正明は男の手枷を魔法で外すと、男の胸に手を当てて即死魔法を発動して使い魔だけを消した。

 その瞬間、男は正明の首を締めあげた。


「馬鹿め! 油断したなこのクソ女ぁ‼」


 叫ぶ男は勝ち誇った顔で正明を床に後頭部から思いっきり叩き付ける。


「さぁて・・・・・・この女」


「どうしてくれようかな?」


 男は言葉を被せて来たのが足元で倒れる女から聞こえた事に驚愕する。

 正明は男を風の魔法で吹き飛ばすと起き上がり、仮面を外す。

 男は正明の素顔を見て息を飲んだ。これまで男は様々な女に出会ってきたが、此処まで不思議な魅力に溢れて嗜虐心を煽る様な美しさを持った異性は始めて見た。

 正明はその心模様を読み取り、思いっきり渋い顔をする。


「返してあげよとしたのに。参ったな、殺さなくちゃ」


「ほざくな何もない女が俺に勝てるか!」


 その五分後、部屋の中は赤一色に染まり、正明は右手にその男の頭蓋骨を持って溜息をついていた。

 頭蓋骨を壁に投げつけて血でベトベトになった服を上半身だけ脱ぐと部屋を出て、待機していたメイドに服を預け、執事に部屋の掃除を頼むと正明はそのまま風呂に向かった。

 子供まで無差別に始末しようとした奴なのでついやり過ぎてしまった事を後悔しながら彼は廊下を血まみれで歩いて行った。



「正明、やり過ぎ」


「ごめんよ。ホントは記憶を消して返そうとしたんだけど、アイツは子供まで殺そうとしていたし、それに俺に発情していたし、なんかムカついてさ」


 正明は血を洗い流して風呂から上がると宗次郎に捕まった。

 正明が尋問をすると、たまにこんな事が起こる。今回はまだマシな方だったのもあり、宗次郎も強くは言わなかったが稀に見せる正明の憎悪は仲間でも不安になる事がある。

 戦えば全員は殆ど戦闘力は互角だ。

 相性的には宗次郎は正明よりも強い。

 それでも彼には正明に勝てる想像が出来ないのは、彼の残虐性を知っているからだろう。


「それはそうとして、誤解されるぞ? その格好」


 宗次郎は正明の格好を指差すと笑いながら彼の頭を撫でる。

 今の正明は上半身に何も着ていない上に下半身は半ズボンと言う露出が多い風体だ。彼の顔と体付きのせいで一瞬だけ女の子が裸で歩いている様にも見える。


「僕は男だからいいの。流石に女の子がこの格好ははしたないけど、男ならセーフでしょ」


「お前なー需要のある外見であるからな? お前なんか胸のない女の子と言っても過言ではないんだぞ?」


 宗次郎はそう呟くと正明の胸を揉むが、揉む場所すらない。

 正明はビックリして飲んでいた牛乳を宗次郎に勢いよく吹き付けていた。


「うぉおお⁉ きったな!」


「胸触った! このド変態!」


「男なんだろぉ⁉ いいじゃん! 揉むくらい大目に見ろ! 現物には手が届かねーんだよ!」


「志雄に頼めばいいじゃん!」


「殺されるわ!」


 正明は顔を赤くして急いでTシャツを着るて、宗次郎の脛を蹴り上げると逃げる様に風呂場を出て行く。


「逃げるな! くっ! 右脛損傷! メーデイ、メーデイ!」


 ホルスターを腰に巻いて素早く船の外にある建物に転移すると、正明はそこにあるソファーに倒れるように座り込む。

 ここは正明の担当する第一船が停泊する場所に作られた言うなれば別荘の様な物だ。

 WELT・SO・HEILENは一つの島を七等分し、そこに一隻ずつ船を泊めてある方式を取ることで技術に個性的、オリジナリティーを産ませることで他のギルドとは違う一つの技術に偏らない物造りをしている。

 第一船は主に全体の統括と、魔装の開発と予算をそれぞれの船に定め、商品の最終チェック、そして会議室兼宝物庫となってもいる。

 そこの代表者の正明は事実この組織のギルドマスターの地位にあるのだ。


「あーもう。そんなに誤解を生む顔かな?」


「正明様。志雄様、加々美様、八雲様、アイリス様、京子様がおいでになっております」


 メイドが正明の前に立ち、頭を下げてそう告げる。

 正明はメイドにお礼を言うと、通すように言う。


「正明を怒らせるなんて、バカな捕虜でしたね」


「私に任せれば一発なのに!」


「お風呂は入ったようだね。血なまぐさいのは嫌だよ?」


「役に立った? あの薬」


「あのおっちゃん冬鬼と夏鬼に凄くびくついてたよ!」


 部屋に入って来るメンバーは全員が私服姿だが、その服自体が高度な技術で作られた魔具だ。オーダーの着ているコートを単純な防御では凌駕するものばかりと言う高級品だ。

 正明が先程着ていた服も同じものだったため、男の攻撃を受け付けなかったのだ。


「みんな。あの男はディミオスの構成員で、狙いは華音の身柄と彼女が保有するスキル。でも、肝心の目的がわかんない」


「それって、殺したから聞けなかったとかじゃないの?」


 加々美がそう言うが、正明は首を横に振る。


「あの薬は嘘を吐くと、死んだ方がマシな苦痛を対象者に与える。嘘なんかつけっこないし、即死魔法以外で取り出す方法はない。聞いた情報以上の事は苦痛なしに知らないと言うならば、それは本当」


「アイリスの言う通り、アイツはそれ以上は本当に知らなかった。ただ単にあちらのボスが変態で華音が欲しいのか、純粋にスキルの力を手に入れよとしているのか」


「しかし、スキルを奪うなんて事できませんよ? 魔装と正明の力がないと出来ません、それなら」


「犯す気だ!」


「加々美さん、黙りなさい。頭を握りつぶしますよ?」


「うへぇあーそれは嫌だなぁ」


 正明は考えるが、今回の場合は相手の腹が大まかにしか読めない。

 ボスが変態説が濃厚だが、その為にテロまがいの襲撃を行うのは脳みその無いバカの仕事だ。とても一つのギルドを仕切る人間のやる事ではない。

 何せ、表面上の情報は集まったものの肝心の中身はまだ解ってないのだ。

 今日メンバーを集めたのは一つの事を告げようとしたからだ。成功すれば大きな利益に繋がり、失敗すれば全面戦争となって多くの物資を失うが、やって見る価値はあるものである。だが、それを独断で行うのは出来ない。


「正明! 脛は無いだろ!」


 宗次郎も追って到着し、正明は自分の考えをメンバーにぶつける。


「全船長に告げる。第一船長、伊達正明は武装ギルド<ディミオス>を壊滅させようと思う。最近の勢力争いの中でも勢いを増している組織だし、少なくとも我々はあちらに敵対行動を取っている。戦いは避けられないものと考えるなら、奇襲を仕掛けて一気に潰す」


 正明はそう言うと他の船長の意見を待つ。

 全員が何かを考えるように難しい顔をする。それぞれの考えがこのギルドの重要な点だ。正明に独裁体制でのギルド運営は無理なうえに、仲間達を下と考えたくも無かったし、それにみんなで作り上げたギルドなのだから全員に所有権がある。

 七つに割れようとも、正明には何の未練もない。

 仲間達の意思と決意を正明は何よりも尊重し、尊敬している。


「第二船長、楯神志雄に意義はありません。不安なのは、船で行くのか、白兵戦で滅ぼすのかです」


「白兵戦で滅ぼす。一〇分で決める」


「第三船長、天道加々美は反対だなー。なんで戦う必要があるの? 物資も十分だし、お金にも困ってないよ? そんな時に武装ギルドと戦うなんて、リスクを犯す価値が見えないよ」


「第六船長、相馬八雲も反対。雑魚じゃないよ? 相手も、それ相応の実力者の集まりだしね。奇襲したとしても、リーダーの実力も相手の技術も知らないうちに戦闘はいただけないな」


 正論だ。今回の戦いには多くの利益が期待できるが、理由が無いのだ。

 敵として戦う今回の武装ギルド<ディミオス>はけして雑魚ではない。戦うにしてもそれなりに準備が必要だし、こちらのギルドの場所が割れた場合はこちらが襲われる立場になる。


「加々美、今回はオーダーに貸しを作る事が出来る戦いでもあるんだ。僕がコンタクトした華音はオーダーの中でも象徴的な存在、彼女の警護に加えてオーダーの権利じゃ手も出せないギルドを消す。もしくは、オーダーも戦えるようにすれば、世論はさらにこちらに傾く。八雲、確かに相手は実力者の集まりだけど、それ以上に相手の力は発展途上。放って置けばいずれはこちらにも、いや、今のギルド市場での上位層でも異質なのが僕達のWELT・SO・HEILENだ。真っ先に視界に捉えて来るだろうね。そうなると、奇襲戦と情報戦が得意なこちらとしては不利な戦いをしなくちゃならないよ」


 正明は自分の言い分を話す。

 加々美は大きく息を吐くと、少し迷って首を縦に振る。

 八雲はその話を聞くや否や、デバイスを開く。


「市場の上位層って言ったよね? 正明」


「うん」


「奴ら、既に九位にいるよ?」


「でしょ?」


 内心では正明は青ざめていた。

 WELT・SO・HEILENは何百とあるギルドで五位の人気を誇っているが、ベスト一〇のギルドは全て勢力争いを正面からすれば如何にWELT・SO・HEILENが難攻不落の要塞であり、場所も割れていないとしてもバレて奇襲を受ける可能性が高い。

 そのレベルに入って来たという事だ。

 ランキングを覗いていなかった正明は自分の怠慢を呪う。


「これじゃ、大変だね。仕方ない、第六船も参戦しよう」


「ありがとう」


「武装ギルドか、まぁかんけーねぇ。連中は華音ちゃんを狙っている! ファンとしてそれを見過ごす訳にはいかん! 第七船長、更井宗次郎も参加する」


「はぁ、第五船長、アイリスも意義は無し。ただし、戦線には私も出向く」


「わかったよ。アイリス、回復魔法をうまく使えるのは君だけなのを忘れないでね」


「了解」


「最後に第四船長、佐原京子。意義は無し、今回は本拠地の防衛と作戦のオペレーションを担当するよ」


 全船長からの了解を貰い、正明は顔に明るい笑顔を浮かべる。

 服装を学校制服に魔法で変えると左目を使い全員をスキャンする。


「なるほど、やる気満々だね。みんな、ライバルを蹴り落してやろう」


 正明の笑顔はやがて悪魔じみた笑みになり、それに応じるようにメンバーもそれぞれが人は少し違う己の正体を明かしていく。

 ギルド戦が、幕を上げようとしていた。

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