プロローグ
少し時間が掛かってしまいました・・・
なんかこの章は辛い感じになりそう。
僕に正義なんか無い。
あるのは深い絶望と、怒り、失望、そして悲しみ。
この場所が何なのかは伊達正明が知るすべは無い。だが、彼が見ている光景は自分なら確実に解る光景だ。
晴天の陽気、大人には少し狭いアスレチック付きの遊び場、明るい色分けがされているバッチが懐かしい。子供達が元気に走り回り、その様子を保育士が優しい笑顔で見守っている。
遊んでいる子供の中に、手を繋いで仲良く遊んでいる同じ顔の子供が正明の目に映る。
それは幼い頃の正明と妹の真紀の姿だった。
(正明く~ん! 真紀ちゃ~ん! お母さん来たよ~!)
保育士の女性が柔らかい口調で幼い二人を呼ぶと、彼女の奥から正明達の母親がやってきた。二人は満面の笑みを浮かべて母親へと駆け寄って行く。その様子を正明は死んだような目で呆然として眺める。母親に抱きかかえられる自分と妹、そうだ、確かこの時期は母親も父親も正明を愛してくれていたのだ。
「そうか、この時は魔力の測定なんかしてなかったから・・・・・・僕の記憶なのか。この時の事はよく覚えている」
正明がこんなに幼い時の記憶が鮮明なのは、この記憶にしがみ付くしかなかったのだ。優しく自分を愛してくれた両親の記憶。自分がこれを忘れてしまえば、自分の中にあるお父さんとお母さんは死んでしまうと言う不安と、いつか僕を愛してくれると信じるために必要な記憶だった。
この時から同じ顔をしていたんだな、と正明は幼い真紀の幻影を見ながらぼんやりとそう考えていた。
いきなり全ての時間が止まった。
その世界で、母親の影から誰かが姿を現す。
「懐かしいか? お前が一番美しいと感じている記憶だ」
「お、お前は・・・・・・嘘だ」
「嘘? お前にとっては息をする様な物だろう? なんせ、俺自身の事だからな」
その人物は、伊達正明その人だった。
蒼い左目、前髪のメッシュ、細身の体に腰には小瓶が差してあるホルスター。
「僕に何をした! 僕は、何処にいるの⁉」
「俺は何もしてない。俺は、本当のお前だ」
「なら、話させるだけだよ!」
正明は腰にホルスターを召喚すると、魔法を放とうとするが。
手が震えて打てない、今にも腰を抜かしてしまいそうになる。
「出来ないだろ?」
「固有能力まで同じ?」
「いや? 俺は何もしていない。問題があるとしたら、お前だ」
「なに?」
「お前の闘争心、残酷な心、戦う勇気は死神の飼い猫が持っている物だ」
「違う! 僕の力だ、使えないなんて! 僕は君を殺してでもここを出る!」
「殺す、か・・・・・・お前らしくない言葉だな、優しい優しい俺自身」
「僕は君じゃない!」
正明はそうは言うが、魔法が放てない。
暴力がとても恐ろしい、そして悲しい。
「う、うぅ! な、なんで!」
「お前は俺に勝てない!」
正明は自分から放たれる魔法に吹き飛ばされ、地面へと凄まじい速度で吸い込まれて行った。
オリジンが美しいとは限らない。
人の根幹には諦めがあるのでしょうか? これでいいんだって? これが自分の身の丈だと?
彼もそう、「これで良い」と思っていた。そう、思っていたんだ




