彼女と仲良しになるため 3
続きでございます!
4
正明が言っていた事は現実になった。
プライドの高い峰島龍を挑発し、校則を破らせたところを華音に拘束させて、彼のそばに控えている左近は正明と京子が足止めする。
気休めではあるが、華音から借りた紅のネクタイで身分自体は隠せている。とは言っても魔法を使われるとネクタイの所有者がバレてしまうので、付け焼き刃だが、時間ぐらいは稼げるだろう。
久しぶりに訪れた好きな人との二人きりの時間。
「あ、あの」
「ジャッキー君だよね?」
「え?」
「ほら、ナルキッソス・フラッグのイベントで私の事助けてくれたよね!」
「う、うん」
「同じ学校だったんだ! 良かった、また会いたいなって思ってたから」
「そ、それは、その・・・・・・うん、僕も会いたかったよ」
以前は自然と話す事が出来た。でも、今は言葉が出てこない、彼女と仲良くなりたいのによそよそしくなってしまう。
「凄い偶然だね! 同じ優等クラスだったんだ!」
「えぇ、あっ、いや」
彼女は誤解している。
ジャッキーが彼女の前に現れた時には既に紅のネクタイを着けていたのだ。だから、彼女にはまるでジャッキーが優等クラスの人間に見えた事だろう。
「ねぇ、連絡先・・・・・・今度は、交換しよう?」
杏夏の顔が少し赤くなって、どこかそわそわした雰囲気を出している。
無論、ジャッキーにはそんな彼女の変化に気が付く気配はない。
「き、杏夏ちゃん! ぼ、僕は」
ジャッキーはブレザーの中に入った小瓶を握りしめる。
自分が劣等クラスと知ったら、彼女はどう思うだろう? 自分を騙した卑怯者? 不法侵入者? 気持ち悪いヲタク? そんな言葉がジャッキーの頭の中をグルグルと回る。この上なく怖い。
目の前にいる人は自分が大好きな人。
それなら、彼女の気持ち次第だ。
ジャッキーは目つきを真剣な物に変えると、力強く言葉を紡ぎ始める。
「僕は、実は劣等クラスの生徒なんだ。このネクタイも協力してくれた友達のモノだし、今日だって君に会いたくて忍び込んで来たんだ!」
その言葉を聴いて杏夏は少し驚いたような顔をする。
ジャッキーは静かに彼女がどう言うかを待つしか出来なくなっていた。
「ふふっ、そんな事で泣きそうにならないでよ」
その言葉で自分が今にも泣きそうな顔になっている事にジャッキーは気が付いた。好きな子の前で泣くなんて事はしたくないが、止めようもないほどに気持ちが溢れて来る。
杏夏も顔を柔らかい笑みにしてジャッキーにハンカチを手渡してくれる。
それを受け取ると、彼は素直に涙を拭く。
「ごめん、情けないところ見せた!」
ジャッキーは深呼吸をすると、ポケットからデバイスを出す。正明達のような魔改造品ではなく、市販の普通の魔具だ。
「ご、ごめん・・・・・・魔力量少ないから、デバイスじゃないと」
「それが普通だよ。私ね、魔力量は問題ないけど見栄で無駄な事はしたくないかなって」
杏夏はそう言うと、懐から同型のデバイスをこっそりと取り出す。
「ないしょだよ? バレたら面倒だもんね」
「もちろん」
ジャッキーはこっそりと彼女のデバイスに術式を転送すると、まるで跳ね返された様に彼女の通信魔法の術式がデバイスに登録される。
「交換完了っと。ねぇ、優等クラスはもう自由時間なんだけど・・・・・・そっちは、どう?」
「反省文覚悟のサボりかな? ははっ、もう、心臓爆発しそう」
「あはは! 意外と小心者なんですね、邪気眼使い?」
「そうだね、でもそれは今日までだ! 我の力は近い将来帰還を果たす!」
右目を抑えて叫ぶジャッキーに杏夏はノリノリで付き合う様にポーズを取る。
「その時は微力ながら貴公に助力致そう! 友との力の共鳴以上の優越など、この世の何処にあるものか!」
ジャッキーの顔にようやく自然な笑顔が戻った。
その時だった。
「杏夏ぁ! 何そんな雑魚とヘラヘラしてんだ!」
ジャッキーは反射的に杏夏をかばう位置に立つ。
それが、アダとなった。飛んできた衝撃波の弾丸がジャッキーの腹部に直撃する。胃の中で吐き気が爆発するが、それすらも抑え込む程の打撃に彼の身体は冗談のように宙を舞った。
それに彼は戦闘にしては素人だ、受け身も取れずに床へと激突する。
「ジャッキー!」
杏夏が駆け寄るが、ジャッキーは必死に意識を保ちながら問いかける。
「そんな、華音さんは」
「幸運ってものだな。他の連中も俺のやり方に賛成してくれたよ、劣等クラスの雑魚が優等クラスの人間と仲良くするなんて間違っているってな!」
どうやら他の生徒が決闘に割って入ったのだろう。
峰島龍はもう一度右手に魔力を集中する。
「それに、よりにもよって俺の女を取ろうってか!」
「私は物じゃない! 中位魔法三級魔術 白鳴雷砲!」
峰島龍の攻撃よりも早く杏夏の放った雷撃が彼を襲うが、それも直ぐに回避されてしまう。
「杏夏、解っているのか? 俺に逆らうとお前の家は潰れるんだぞ?」
「黙れよ」
口を開いたのはジャッキーだった。
今にも気絶しそうだが、今はそんな事を気にする必要はない。
「仮にも、好きなら・・・・・・優しい言葉の一つでも、かけてやれよ!」
彼は立つ、懐の小瓶を取り出すとそれを強く握る。
「決闘だ、峰島龍。僕と戦え!」
ジャッキーは吼える。
身体は敵の方が大きい、魔法の実力は圧倒的、はっきり言って杏夏が戦った方がまだ勝算はあるだろう。
目を血走らせて峰島龍はフィールドを張る。
「ジャッキー! ダメだよ! 止めて!」
杏夏が必死にフィールドを叩くが、不幸にもこのエリアは人気が少ない。
オーダーが助けに入る事もない、それに他の同級生が見かけたとしても既にネタが割れているジャッキーを助けてくれる人なんかいない。
情けないファイティングポーズを取るジャッキーに容姿なく魔法が叩き込まれる。
操魔学園ないでの決闘での死者はゼロではない。
この作品は、成長型魔法使いと死神の飼い猫の前日譚になります。




