彼女と仲良しになるため 2
何だか久しぶりになってしまいましたが、お待ちしていた方!(いるのなら)
お待たせいたしました!
3
峰島龍と黒宮左近はテラスにいた。
優等クラスは午前の授業が終わると、午後はそれぞれが先行する技術や魔法などの探求に向けていいことになっている。と言うのは名ばかりで、正直に言うと此処の人間達は放っておいても自分で次々と学習していくので授業は最低限、それ以上は邪魔になってしまうのだ。
「黒宮、なんで俺に近づいたんだ?」
「諸事情あってね。君と杏夏さんが恋人同士になってくれれば、僕は満足なんだ」
「杏夏がどうかしたのか? アイツは俺のモノだ。もうお前の目標は達成されてるぞ」
左近はそんな言葉に怪しい笑みを浮かべる。
「そうかな? 少なくとも君は彼女の心をつかめていない様だけど? それに、君の邪魔をしようとしている劣等生がいる」
「はぁ? 劣等生? 雑魚が寄せ集まっても俺には勝てねぇよ」
本気で言っているのだろうと、左近は彼の顔を見て悟った。これから来る劣等生は普通じゃない。
ジャッキーとか言う男は全くの問題にはならない。問題はWELT・SO・HEILNのメンバーが出しゃばって来た場合だ。伊達正明が考える事は大体の予測がつく、きっと峰島龍の家が持つ権限などを潰して回るだろう。それには部下を向かわせて足止めさせたから大丈夫だろうが、正明は予測がつかない。
左近はその時にふと視線を感じ取り、テラスから校舎を見上げた。校舎の窓際、数々の優等生に睨まれながらも悠々と笑みを浮かべる彼女の姿があった。
「正明」
笑顔で左近は彼女の名を呟く。
その姿を傲慢に見下しながら、正明は隣に一人の女の子を連れていた。その地味目な女の子はターゲットである春風杏夏であった。
「ねぇ、左近。人の恋路を邪魔するのは良くないよ! 僕も心苦しいよ、この二人が引き裂かれるなんて悲劇も良い所でしょ?」
イタズラっぽい笑顔でそう言うと彼女は窓を閉めて姿を消してしまう。
本当に猫のような女性だ。可愛い、美しい、だが今は負ける訳にはいかない。
「なんだ? あのカスのような女は? アイツは蒼の劣等生じゃないか。なぜここに居る? それに、なんて言った! 隣の男は誰だ、俺の杏夏に話しかけるな!」
峰島龍が興奮した様子で正明を睨み付けるが、彼女はその言葉なんか全く意に介していないように無視すると、窓をぴしゃりと閉めてしまった。
「まさか、かなり直接的に来たね」
「おい! どういう事だ、左近!」
「さっきの女の子が、君の彼女を他の男に奪わせようとしているんだよ。僕はそれを阻止しようとしていたんだ。でも、彼女の方が速かったようだね。もう、なりふり構ってはいられないな」
「当たり前だ!」
左近は峰島が魔法を発動して、先程まで正明がいた窓まで飛びあがるとそれに続いた。
校舎の中に入ると、そこには正明が廊下のド真ん中に腕を組んで立っていた。その姿はまるでか細い彼女の身体を屈強な門番の様に感じてしまうような威圧感を放っている。
だが、この場で戦う事を望む彼ではないだろう。
「どけ! 屑の分際で俺の前に立つな!」
「待て、峰島君。彼女に手は出さない方が良い」
「知った事かぁ! 中級魔法一級魔術、火炎流弾!」
いきなり峰島は巨大な火球を正明に放つ、強大だが杜撰な術式だ。左近は特に止めるような動きはみせなかったが、その炎はエメラルドグリーンの魔法障壁にかき消された。
その爆炎は防壁を組み替えた魔法陣の中へと吸い込まれていく。
「峰島龍さん、決闘以外での校舎内で中級魔法の使用は認められていません。それに、蒼の劣等生への命を奪い可能性のある魔法の使用も規則違反に当たります」
左近は少し意外な顔をした。正明の前には、学園のエンブレムが肩に入った白いロングコートを着た女子生徒がいつの間にか割って入っていたからだ。彼女は爆炎を完全に無力化すると、少し火が付いた指先を軽く振って火を消す。
「オーダーか、しかも、鳴神華音さん。僕もアイドル引退にはショックだったよ」
軽口のつもりだったが、左近の言葉に華音は優しい微笑みを浮かべる。「そう言ってもらえると嬉しいです」とでも言わんばかりだ。
「蒼の劣等生が優等生専用校舎に入った事は問題じゃないのか!」
「問題はありません。校則では、蒼の劣等生と紅の優等生は校舎間の出入りは自由となっています。備品や施設の使用は罰の対象になりますが、校舎への出入りは問題ありません」
「元アイドル様だか知らないが、俺には逆らわない方が良いぞ?」
「関係ありません。校則違反ですので、オーダー事務所で反省文を書いて提出してください」
「関係ねーのは俺もだ! どけ!」
峰島は完全に頭に血が上っている。
「峰島君、杏夏さんは僕が抑えておくよ」
「直ぐに俺も追う」
そう峰島が言った途端に正明は華音の隣に並んだ。
「華音、あーなんだっけ? 峰島龍は校則違反で連行だっけ?」
「うん、私の仕事だから」
「なら、頼むよ。決闘なっても大丈夫?」
「大丈夫! こう見えても、強いんだよ?」
正明はその言葉を聞いて笑顔を見せると、左近へと視線を向けて振り返ると歩き出した。その意味が分かった左近も歩き出す。
やられた。
左近が優等クラスの峰島と組んだように、正明も優等クラスの人間を味方にしていたのだ。しかも、オーダーに所属している上に立場的にも有名な人間をだ。力だけでのし上がった奴には出来ない芸当だ。
「峰島君、僕も行くよ。じゃ、また後で」
「さっさと行け!」
左近もゆっくりと正明の後を追いかけていく。
二人になった華音と峰島はフィールドを発生させて、お互いに魔法を発動した。
*
「穏便に行けないものかね? 僕に戦いの意思は無かったんだけど?」
人気のない場所、優等生専用校舎にも死角と言うものがある。その場に正明は左近を連れて来ていた。
正明は薄く笑うと腰にホルスターを出現させる。
左近は小さく息を吐くと、同じように腰に巨大な拳銃を召喚する。
「高校生のピュアな恋愛を邪魔しないのが大人だろ?」
正明はそう言うと人払いの魔法が込められた指輪を右人差し指にはめて、不可侵の領域を作る。
「君は十四歳ぐらいにしか見えないけど?」
「二三歳だ」
「と、年上⁉」
左近は驚愕の声を上げるが、それも正明が放った魔法にかき消された。顔の横をかすめたレーザーのような攻撃魔法は背後の壁に当たると溶けるように消えて、その後に壁を溶岩の様にドロドロに溶かした。
「ふふっ、興奮させてくれるよね? 正明!」
「ジャッキーが彼女とデートする時間ぐらいは、付き合ってもらうぞ」
正明は腰の瓶を空中に投げて浮遊させ、左近の魔力を微量ながら吸い取り始める。左近はそんなものはお構いなしに銃の引き金を引く。
重々しい発砲音と共に弾丸が発射される。
防壁を張るが、弾丸は防壁に着弾した途端にその防壁をセメントの様な物質が取りついて視界を塞ぐ。
「ん⁉ なんじゃこりゃ!」
「僕の魔法だよ。少し僕はクセのある魔法使いでね、銃とか剣とかのもつイメージを借りないとそこいらに魔法をぶちまけてしまうんだ」
セメントの向こうから声が聞こえるが、正明は背後に空気で作った刃を飛ばす。
すると背後で少し焦ったような声が聞こえる。
ふりむと同時に正明は掌から扇状に蒼い炎を放つが、その炎に弾丸が打ち込まれ、炎が凍り付いた。
「不知火が殺されるわけだ」
正明は身体に書かれた模様の魔法を発動させて、身体を霧に変える。撃ち込まれた弾丸は彼の身体をすり抜けて背後のセメントを破壊する。
不知火は確かに強い男だったが、遊びの無い男でもあった。過去に不知火と一悶着あった時の事を正明は思い出していた。型にはまった交渉術、型にはまった戦術、型にはまった魔法。
自由の無い魔法だが、それでも基本を抑えた堅実な強さのある男だった。
だが、この左近は違う。
「全く、最高だ。自動照準器付き魔術戦法とでも言うのか?」
銃や剣の持つ、撃つ、斬るなどのイメージを元に解釈した表現を魔法として使っているのだろう。
例えば、銃ならば撃つ。
そこからどんな弾で、どんな効果があって、何処に飛ぶのかを魔法を形成する事で実現する。照準は道具に任せてある。つまり、普通の魔法使いが行う魔法の軌道の形成を完全に省いている。
火力ではなく手数で追い詰められる上、非常にトリッキー。
「上位魔法三級魔術 永久氷結槍。リロード」
左近が銃に呟くと次の攻撃には氷の矢が銃から即座に放たれる。
正明は口笛を吹きながら魔法防壁を氷の矢にぶつける。すると、防壁が凍り付いてしまう。
さっきの炎を凍らせた術式だろう。
「独りじゃキツイか」
「人払いを解くか?」
「この戦い自体はギルド長同士の決闘じゃないからな」
正明の言葉の後に、左近の身体は突然現れた小さな影に吹き飛ばされて、ベンチをぶっ壊しながら地面を転がった。
銃を構えながら左近は体制を立て直す。
その先には正明よりもさらに小柄な女の子が薙刀と呼ばれる武器を持って立っていた。小学生が中学生に入ったばかりの子供の様だが、彼女に左近は見覚えがあった。
「九群の化け狐の登場か」
「今は京子かな? さて、私の力を!」
「俺もいるんだけど」
「そうだった」
正明と京子は横に並ぶ。
京子が指を鳴らすと、鎧に身を包んだ武者が膝を付いた姿勢で二〇体は召喚される。
打ち合わせでもしたように息を合わせて、正明と京子は手を同時に前に構えて元気よく命令を飛ばす。
「「私達の為に、死ね!」」
鎧武者は一斉に抜刀して、左近へと襲い掛かる。
WELT・SO・HEILENのターニングポイントになる話になって来るので、少し不安ですが頑張ります!




