バカだらけの大運動会(3)
長らくお待たせしました・・・・・・
少しでも楽しんでくれる方がいるのなら幸いです!
「僕の勝ちー」
棒読みでそう言うと、両手を上に挙げて正明はその場でぴょんぴょんと飛び回る。
「ひ、卑怯だろ・・・・・・その、ギャップ」
「勝てばいい。それに、負けても御剣君は幸せそうだけど? 今は驚いているけど」
「ま、正明って名前なの⁉」
驚きの表情を見せるそれに、正明はイタズラっぽい笑みでネタバラシをしようとするが、その前に御剣が答えを叫んでいた。
「まさか、ご両親は男の子が欲しくてその名前を?」
「世界中で流行っているの? 僕の名前が悲劇的につけられたって妄想するの。まぁ、親父は人間の屑だったけど」
正明は微妙な顔をするが、放っておく事にした。
誤解しておけばいいじゃないか、勝手に精神を食い潰せばいい。
壮絶な精神攻撃での戦いの裏で、仲間達は相変わらず自由に行動していた。
「おええええ! すみません・・・・・・背中さすってください、ッ! うええええ」
青い顔で袋の中に吐いている志雄の背中を宗次郎が必死に笑いを堪えながらさすっている。その横では出されていた料理を口いっぱいに頬張って、敵とナイフを投げて遊んでいる加々美。
「さっきはありがとうございました」
「気にしないでよ! むしろ僕が驚かせたんだから」
「そのせいでそちらが敗けてしまって」
「僕も、リーダーも戦えない人を殴る事は出来ないよ。この勝負は、僕の完敗だ」
モテてる八雲。
「魔法階位増加。そして、身体能力強化」
「おいおい、マジで魔法階位が上がるのか?」
「ファイヤーボール」
自身に強化魔法をかけて、二メートルほどの大きさにしたファイヤーボールを海に放つアイリス。
京子は敵の女性陣に捕まってすっかり着せ替え人形の様にされている。
「メイドさんなんてどうかな?」
「和風のなら自前で持ってるよ? 衣装変換! ほら」
京子は魔法で一瞬で緑を基調にした和風メイド服姿になると、ポーズを決める。それを女性陣と一部の男性陣がデバイスで写真に収めている。
「バカの吹き溜まりだし、自由な連中だとは知っていたがここまでとはな」
正明は仮面を戻して左近に向き直る。
次の勝負を催促しているのだ。
この勝負で勝てば戦いが終わり、使徒の情報も手に入れる事が出来る。
「はぁ、次は・・・・・・射撃! ペイント弾を使って一対一で戦ってもらうよ!」
「この勝負は貰った! 宗次郎、行け!」
船の縁に座っていた宗次郎はその言葉に喜々として反応すると、その場から降りて手に弓を召喚する。
そんな彼に対して、左近の陣営からライフルを持った男が軽やかに躍り出た。頭にバンダナを巻いた若い男だが、恐らく一〇代の少年だろう。先程宗次郎と話していた男だ。
「アンタとやって見たかった! ははは! 弾幕も一撃必殺の狙撃も何でもござれ!」
その男に宗次郎は腰に非殺傷のペイント弾ならぬ、ペイント矢を召喚すると仮面の奥にある千里眼で彼を嬉しそうに見つめた事だろう。
「弓に後れを取るなよ?」
「そうだな」
直後に矢がバンダナの少年に放たれた。
宗次郎が放ったのだろう、その矢をバンダナの少年はライフルを身体に密着させてまるで槍でも構えるように向けると飛来する矢を撃ち落とした。そんな妙な事をしたのは彼の遊び心からだろう。
その瞬間には宗次郎は背中から翼を生やして上空に飛び上がり、雨の様にペイント矢を放ってくる。
「あの野郎! 調子にのるな!」
正明は障壁を張ろうと身構えるが、それよりも早くに左近が防御を張ってしまった。
流石は魔法使いと言う所である。魔装使いよりも素早い魔法発動が可能だが、ここまで速いと正明も驚いてしまう。
これが、実践だったら。
「ん? どうしたの?」
「なんでもない。おい、バンダナの少年は大丈夫か?」
「あぁ、大丈夫だろうよ。忍は、銃から生まれたような男だからね。それに、魔法センスは銃撃戦に限定して天才だ」
左近の言葉に偽りはない様だ。
先ほどの雨のような弾幕は、忍と言うバンダナの少年が投げた手榴弾の爆風によって吹き散らされてしまった。
その余波を受けてアイリスが海に落ちたが、そんなことはどうでもいい。
「矢で弾幕とか! いかれているよ、こんな奴は初めてだ。その矢、増やしていないだろ? 全部引いてから撃ってやがる!」
忍は背中に背負った装置から空気を噴射しながら船の看板を仰向けに寝そべった姿勢のまま滑って行く。その状態でライフルから銃弾を乱射する。
上空にいる宗次郎はその銃弾を矢で全て撃ち落とす。
「あぁ! クソ、バレているよな!」
魔法使いで、その上に銃を使う連中の常套手段として追尾する様に銃弾へと魔法をかけるのだが、身体の周りに障壁を張っても様々な対防御魔法術式も織り交ぜるため正面から受けるよりも敵の銃弾を撃ち落とした方が安全なのだが。
普通はこんな事しない。
銃弾を、それにフルオート掃射を撃ち落とすバカはまず存在しない。セオリーでは防御魔法を特化して封じ込めた魔具を自身の防御魔法とセットで使う事で防ぐ。
「なんて奴だよ。なら、これはどうかな?」
忍は空気の噴出を調節して身体を回転させながら立ち上がる。その間も、ライフルと腰から引き抜いた拳銃で牽制を兼ねた弾幕張っていだが、それでも安全ではない。
直ぐに宗次郎を視認すると、忍は靴に仕込まれた魔法を発動する。
空気がジェットの様に右靴の裏から噴射されて彼は宗次郎がいる事へと浮き上がって行く。
宗次郎は逃げようとさらに高度を上げようとするが、忍は残った左足でもう一度空気を噴射して彼に組み付く様に上着の袖に隠し持っていた拳銃を二丁持って強襲する。
弓と言う武器の性質上、銃の様に小さな動作で射撃は出来ない。
「アンタ強すぎ! 直ぐにカタ付けるよ!」
「考えたな。接近戦クソ苦手なんだよ!」
宗次郎はそう言うが、翼を畳んで自分に向けられた拳銃に自ら突っ込んでいく。
忍は引き金を引くが、宗次郎は彼の両腕の中で身体を反転させ背中を向ける。まるで忍に抱きかかえられている様な体制になるが宗次郎は靴を脱いで、弓と矢を足で自分へと引いていた。
正確には自分の後ろにいる忍に向けて。
「うわぁ!」
焦った忍は靴の噴射で体制を変えてギリギリで放たれた矢を回避する。
が、弓を手に直ぐに持ち替えた宗次郎ががら空きとなった忍の胴体に矢を直ぐにぶち込んだ。
ペイント矢であるが、それなりに威力はある。忍は看板へと叩き付けられてしまう。
背中の装置で衝撃を和らげたのだろう、大きなダメージは負っていない。
「・・・・・・結構やるね。仕留めたと思ったんだけど?」
忍は自分の腹部に限定的な分厚く防御魔法を展開していたのだ。ペイントは薄く張った障壁で身体への付着を回避していた。宗次郎も驚いていたが、千里眼で予備動作を観察していた。
それでも防がれた。
「摸擬戦だから、生きている様な物かな? 彼の得意分野は弓での超遠距離からの精密狙撃。弾幕戦や接近戦では有利と考えていたけど、そんなことは無い! あの人はオールラウンダーだ!」
忍は腰から下げた魔具を発動させる。
それは収納用の魔具だ。
装備や道具を召喚する様に取り出すことが出来る便利な物だが、彼はそこからゴツイガントレットと脚部装甲、そしてバックパックを背中に増設する。
「なら、空中での高速戦闘ならどうだ! 魔眼の闇鴉さん」
魔力を流し込まれた魔具は忍の身体を瞬く間に時速数一〇〇キロの世界へと連れて行く。
「凄いの持ってやがる!」
宗次郎は仮面の目に当たる部位を黄緑色に輝かせると、力の限り高速で距離を取る。
あっという間に第一領域の海辺を舞台としたドッグファイトが展開された。
「アンタには小細工なんか通じない! このまま、魔力の限り押し通す!」
ライフルをバックパックへと装置し、乱射する忍に対して宗次郎は細かに身体と翼を動かしながら逃げ回る。完全に背後を取られてしまっており、羽や身体に一発でも直撃すれば彼の負けとなる。
「上手い位置取りって奴かな? 俺そんな事意識して戦ってないけどね!」
宗次郎は弓を引くと正面に向けて乱射する。
「何を?」
「魔法使いは想像力が命だろ?」
放たれた矢は突然、起動を変えると背後の忍へと飛んできた。
「ウソ⁉」
宗次郎はおかしいと言わんばかりに、緩んだ弾幕の隙間を空中で急旋回して掻い潜りながら忍に矢を放つ。
忍は腕のガントレットに仕込まれた銃口と、両手に魔具から取り出したサブマシンガンで矢を撃ち落とすが、その隙に宗次郎が懐に飛び込んで来て腹を蹴りつけて海へと叩き落した。
すんでの所で持ち直すが、その時に忍は目を皿の様に丸くした。
空か降って来るイカれた密度の弾幕を捌く為だ。
宗次郎は羽の下に矢の入ったホルスターを召喚すると、そこから風を回転させる事でライフリング代わりにした銃身を形成すると、戦闘機の機関砲の様に弓を使わずに矢を高速射出しながら急降下して来たのだ。
「化けモンかよ!」
脚部装甲を展開して小型のミサイルと、両手から放つ弾幕で凌ごうとするが矢が海に直撃した事で水しぶきが上がり、視界がふさがれる。
「これが狙いだったのか! くそっ! サーチ系の魔具を持ってくるんだった!」
「次は頑張れよ、坊や」
「ッ‼」
背後からの声に、忍は素早く振り返り引き金を引いた。
それと同時に彼の心臓部分にペイント矢が直撃し、彼は大きく後方へと吹き飛ばされた。
「ぐぅあああ!」
海へと落ち、彼はそこで気を失った。
「大した坊やだ。コイツはガッツあるぜ? なぁ、怒るなよ」
宗次郎は気を失った忍を船の看板に寝かせると、ペイントが付いた顔で正明に謝っていた。
「お前な! 遊び過ぎだ! このバカ野郎、勝てる勝負を不意にしやがって」
「やられたよ。実弾なら顔面ハチの巣だ! ははは! 俺の負けだな、この坊やの方が速く俺の頭をぶち抜きやがった!」
彼は笑うと、弓を仕舞いテーブルの酒に手を伸ばすと満足気に飲み始める。
宗次郎が酒を飲むときは機嫌が良いか、悪いか。その時だけだ。
言わずとも、今の彼は前者の気持ちだろう。
「また遊ぼうぜ、坊や」
気を失った忍にそう言うと、彼は仲間達の方へと歩いて行った。
「遅い矢なんか打ちやがって」
正明はそう言うと、試合の表を確認する。
二勝二敗。
「結局は、最終ゲームはやらなきゃってか」
左近は満足気に顔に笑みを浮かべる。
「よし、最終決戦は」
左近はそう言うと空中にとある人間の顔を二つ浮かべた。
一人は正明の知らない顔をした女子生徒だ。たれ目で優し気な雰囲気な女の子だが、紅いネクタイや制服から操魔学園の生徒だろう。
もう一人は、金髪に金色の瞳の男子生徒。
「・・・・・・ジャッキー?」
正明も良く知るジャッキーと呼ばれる、中二病じみた言動が目立つ友人の1人だ。
「俺達は、この女の子! 君達はこの男の子! この2人に恋人を先に作った方が勝ちだ!」
左近が提唱した最終決戦は意外な形で友人からのお願いごとにベストマッチした。
宗次郎君も、八雲君も非常にモテますが、正明程じゃないですね。勿論、正明は男性に大人気ですが




