第七話 王s(1)
王達が席を立つ
歌姫が踊る
始まりが現代となり、戦いが始まる
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「うへぇ、挑発したのは間違いかな?」
「当たり前だ! 今すぐに捻りつぶしてやるからな小僧!」
「俺、これでも二十代後半なのよ? あ、まだ十分小僧か?」
宗次郎は朝倉将の放つ攻撃魔法を背中から翼、と言うよりも翼状の魔力の波動をブースターの様に噴射しながらかわす。しかし、宗次郎から攻撃を行う事は難しい。
魔装は持ってきているが、宗次郎の弓は矢もセットで魔装なために数に制限がある。
魔法で作り出す事は自前で出来るが、彼の魔力量では切り札として温存した方が利口だ。朝倉将の纏う鎧はどうも簡単な攻撃では貫くことは出来ないだろう。
「ガチ装備で来るべきだったかな?」
本気で宗次郎はそう考える。
かわしてはいるものの、攻撃自体は喰らえば一撃で戦闘不能と言うレベルだろう。
「ハッ! お前のような小僧が武器を持ったとしても、俺には勝てぬわ!」
鎧に込められた魔法を発動したのだろう。朝倉将は一瞬で宗次郎の真正面に滑り込んで来た。まるで床を高速で這う蛇のように無駄のない動きに宗次郎は目を丸くする。
顔面へと振り下ろされる斧には怪しげなオーラがまとわりつき、当たれば絶命は避けられないと述べている様だった。
「うぉ⁉」
宗次郎は弓を召喚すると矢を二発、朝倉将の身体へと同時に打ち込んだ。
召喚に〇.一秒、狙って撃つまで〇.一秒というほんの一瞬で行った宗次郎は矢を引き絞った状態で距離を取る。
壁に叩き付けられた朝倉将の鎧には二発分の凹みが見られるが、それも大したものではない。
衝撃波を爆裂させる矢を打ち込んだが、朝倉将は元気に起き上がる。
「頑丈だなぁ。ま、矢が余裕で鎧貫通とかがおかしいけどな」
宗次郎はそう言いつつも、既に残りの矢が今手元にあるもので四本である事に少し危機を感じていた。
戦いを始めてからギルドの連中は宗次郎を襲わない。きっとこのギルドの最高戦力であろうこの男の戦いを見学したのだろう。
ヘルムのスリットに矢をぶち込むか? 同じ場所に矢を打ち込んで鎧を撃ち抜くか?
そのどちらも難しい。
こんな事をするなら矢を大量に用意すれば良かったと思ったところで遅いだろう。
魔具は魔装の下位互換であるとしても決して弱くはない。利便性を追及したものが魔装であり、あくまで応用力に富んだ武器であるが、魔具は違う。
一つで多くの魔法が使え、魔力は自動で回復する魔装は、一つだけでも魔法使い一人分の仕事が出来る。
一つしか魔法を内包できない魔具は、使い手が全てのカギを握ると言っても過言ではない。使い手の魔力の量、練度で出力が決まるために弱い魔法使いではモノの役に立たない事もある。だが、一つに魔法を絞る以外に道がないこの魔具は、使い合わせでは一点突破の強力な魔法が使える様にもなる。
目の前の男は鎧の主に脚甲には行動の融通を利かせるための魔法が込められているのだろう。それに、宗次郎は矢を向けながら鎧を観察していた。
先ほどの凹みは消えていた。
「極振りしてんねぇ。服も魔具だな? 物を治す再生魔術、に加えてポーションか? 我がギルドの商品を使っていただき感謝の極みでございます」
むっと唸った朝倉将は上段に構えていた斧を中段に構えなおした。
警戒心を強めた様だ。
宗次郎は弓で魔法を発動し、ナイフを三本腰に差して鼻歌を歌う。
正明の様に魔法を使うなんて芸当は出来ないが、強化や儀式ぐらいはできる。いつも本気で戦う時に装備している魔装なら簡単に奴の装甲を吹き飛ばせるのだが、今は無理だ。
じりじりと距離を測り、踏み込まんとする朝倉将は期をうかがっているのだろう。考えるまでも無く彼は戦いの玄人だ。宗次郎はふと思いだった事を実践した。
試したかったのだ。
宗次郎は朝倉将の顔面に向けて矢を放つが、脚甲の魔具で身を沈める事でかわされてしまう。
が、その直後に彼の身体は前かがみの状態から仰け反り、後頭部から床へと叩き付けられる。
「俺が使えば、弓で連射も可能なのだ! 引っかかったな」
宗次郎は空いた手でナイフを二本抜くと、それを床に刺して魔法を発動させる。
すぐさま起き上がった朝倉将の斧が迫りくる。だが、それより先に宗次郎を防御壁が守る。
「そのまま目玉にぶち込んでやるぜ!」
魔力を矢の先端に込めて構える。
防御壁に攻撃を弾かれた所に打ち込んでやろうと考えていたが、宗次郎の身体は宙に浮いていた。
「ガッ⁉ なに?」
翼で体制を立て直し、靴型の魔装で天井に張り付いて矢を構えるがそれ以上に朝倉将の方が速い。
やはり、広いとはいえここは室内。遠距離で進化を発揮する宗次郎には不利な状況だ。
矢が自身の鎧を貫通しないと知っての事だろう。攻撃が激しくなっている。
だが、解らないのは一撃で防御壁を壊した事だ。
いや、壊したのではない。間抜けにも、宗次郎が展開した防御壁はそこに展開されたままで置かれているのだ。
「防御魔法無効化! 高価な魔具をって、自前? いや、魔具の出力からしてそれな在り得んだろ!」
魔具の力かもしれないが、とにかくこの状況は圧倒的に不利だ。
矢はもう二本しかない。一本別の目的で使うから朝倉将には使えないのだ。
「ヤバい、ヤバい。どうするよ!」
「小細工は得意の様だな。中々の大道芸だったが、本物のプロには敵わない! 遊びで戦うガキにはわからないだろ!」
宗次郎は無視して弓にナイフを召喚して取り付けると、それを投げる。
容易に避けられるが、宗次郎は別方向へと投げたナイフを弓の魔装で操り、朝倉将へと飛ばす。
「甘い」
だがそれも余裕でかわされ、壁に突き刺さったナイフは壁を丸く切り取る様にして消えた。
「やはりな、隠していたナイフには魔法を施してあったか」
「ッ⁉」
「子供には過ぎたおもちゃだ」
宗次郎の表情に朝倉将は勝利を確信した笑みを浮かべる。
だが、宗次郎はまだナイフを取り出して投げる。
弾いたら武器が破壊されると考えてだろう、朝倉将は全ての攻撃をかわす。
「平行線だな。アンタも、このナイフを防ぐ術はないだろ?」
「そうでもない。お前はその弓が無ければ上手く魔法が使えないだろ? 魔具に使える魔力はたかが知れてる!」
「く、くそ!」
宗次郎は我武者羅にナイフを投げるが、朝倉将の機動力の前には手も足も出ない。それでも相手が距離を詰めないのは弓と宗次郎の早打ちを恐れての事だろう。
だが、宗次郎はギリギリの状態で戦っているのだ。
だが、ついにナイフを投げる事を宗次郎は止めた。その行為を負けと認めたと判断した朝倉将は魔法で宗次郎の動きを阻害すると、一気に斧で両断するべく距離を詰める。
「喰らえ!」
そして、宗次郎は
*
志雄はギルドで待機していたが、正直気が気ではない。
先ほど帰還したハンゾーから作戦を知らされていたが、それでも彼女の鬼である身体は戦いを求めていた。
それに、仲間が戦っているのに自分がこの場で惚けていて良いものかと考えてしまうのだ。
「宗次郎、なにを躊躇っているのですか? 早く参謀を始末してくれないと」
「躊躇っている訳ない・・・・・・相手はあくまでもギルド。それに、宗次郎は潜入は出来るけど暗殺向けの能力じゃない」
志雄は言葉に詰まる。
確かにそうだ。宗次郎の固有能力は戦闘向けではない上に、閉ざされた空間では宗次郎の実力は封殺される。その事を理解していない正明ではないはずだが、宗次郎を選んだ意味は考え付かない。
ならば、メンバーを一人追加して送ればいいだけの話だ。
正明は人選を誤ったのだろう。
「正明も、甘いですね! アイリスか加々美さんを付けて送ればもう少し早く始末できたでしょうに」
「そうでもないかも・・・・・・加々美が、向かった」
「このタイミングで⁉ 遅いですよ!」
「このタイミングだからかもね」
うさ耳をいじりながらソファに寝そべるアイリスは抑揚の無い声で呟くが、その言葉に志雄は納得できないと言わんばかりに頭を掻く。
「加々美に潜入は出来る?」
「透明になってじっとしていれば、情報収集は無理です。アホですから」
「そう、あのアホには難しい。でも、今頃・・・・・・宗次郎の性格なら一気に決着へと動き出すだろうね」
「ですね、私も同じ事します」
「脳筋。脳みそが全部おっぱいに行っているんじゃないの?」
「私にはそれが一番合っているんです!」
志雄はアイリスの両頬をつまんでそう言う。
「でも、宗次郎は・・・・・・〇.一秒で狙って、引いて、撃つ。加々美はなんでも透明にする、そして誰よりも素早い」
「は?」
「やる事が決まっていれば、加々美は仕事ができる。宗次郎は仕事をこなせるけど、詰めが雑・・・・・・なら、詰めを加々美にやらせればいい」
志雄は少し、考えるとアイリスから手を離す。
最初から加々美を行かせては確実に失敗する。そこで、宗次郎で情報収集などの基盤となる仕事をやらせて最後の大仕事は加々美が行う。
正明はそう考えて今のタイミングで加々美を向かわせたのだ。
「はぁ、上手くいきますか?」
「どうだろう? でも、WELT・SO・HEILENは連携する事で戦うから、負けは無い」
アイリスはそれだけ言うと、兎のぬいぐるみを抱きしめて丸まってしまった。
話疲れたとでも言いたげだが、彼女は何もしていない。やっているとしたら薬品の売買をしていたぐらいだ。
だが、それだけでもギリギリとは言えギルドが破綻していないのだから何も言えない。
「八雲は見張り、京子さんは子供達とその家族の情報遮断、加々美さんは宗次郎のアシスト、アイリスはギルドの財成、正明は自ら情報戦、私は・・・・・・あぁーーーーーー‼ 何ですかこの役立たず感はぁ‼」
鬼が側で吼えようとも、兎はすぅすぅと目を覚ます事は無かった。
*
「落ちろ」
朝倉将の手前にいきなり穴が開く。
そこから下のフロアが見える。ここで落とされても逃げられる可能性がある朝倉将は穴を飛び越えるがその先で宗次郎の蹴りをモロに顔面へと喰らう。
靴の魔装で火炎魔法を発動してその爆発力をぶつけた訳だが、効かない。
「効かんわぁ‼‼」
宗次郎は弓で防御魔法を展開するが、斧の柄で腹部を殴打される。
怯んでいる暇はない。宗次郎は無理矢理密着すると、ヘルムのスリットに矢をねじ込み弓を引く。
だが、朝倉将はスリットの隙間を利用し矢を固定するとそのまま宗次郎を穴の方へと背負い投げする。穴に落として下のフロアに範囲魔法を打ち込んで終わりにしようと言う考えだろう。
体重が軽い宗次郎は簡単にその穴に、叩き付けられた。
「は⁉」
「やべ、バレたぞ。加々美」
宗次郎の顔にあるのは余裕。
そして、朝倉将を襲うのは見えない無数の斬撃。
金属が切り裂かれる嫌な音と共に朝倉将は後ろへと下がる。
「大丈夫、大丈夫! もう十分!」
元気な女の子の声、宗次郎は既に何度も聞いた声でありこの場にいるすべての人間が初めて聞く声。
何もないはずの空間から忍び装束姿の加々美が現れた。
妙に露出度の高いそのコシュチュームは彼女の装備の中でも最速の移動速度を誇るものだが、くノ一の忍術を色仕掛けにガン振りしたかのような見た目だ。隠す所はしっかりと隠している所が、見えている部位を強調している。
谷間、太もも、ヘソに興奮する人間は大喜びするだろう。
「大丈夫なもんかよ! あと一本しかねぇ! それに、まだ火力不足だろ? 騙しも効かねぇぞ」
ナイフの秘密は加々美にあった。
彼女の固有能力は「物質の透明化及び認識阻害」だ。魔法ぽくは無いが、彼女の力は実際に恐ろしい。体のバランスを保つために感覚に頼る人間は、それを遮断されると満足に動けない。
彼女に脚なんかを触られたら、その人間は立てなくなるのだ。
先ほどのナイフは彼女が壁や床ごと透明にしていたに過ぎない。
「丸裸にしてやるぜ! まずは鎧を透明に」
「まて、意味ないぞ? それに、お前は男の裸ダメだろ?」
「ぁ、そうだった」
顔を赤くする加々美に頭を抱える宗次郎だが、その時にハンゾーからの通信魔法が入る。
宗次郎はデバイスを開くが、その様子を見逃す朝倉将ではない。斧で宗次郎へと襲い掛かるが、加々美が彼の斧を持つ手を蹴り上げる。
「おっと! 今は私もいるのですよ! 薄い本で女の子に乱暴してそうな奴だの? 鎧で股間をガードしているあたり、相当なモノを」
「やかましい小娘!」
激高した朝倉将は手の平から火球を連続して飛ばしてくるが、加々美は鎖帷子でその火球を真っ向から受ける。
「どっせい! 効かんわ! 生娘の柔肌も貫けないへにゃチンに負けるか!」
朝倉将の頭から何かが切れる音が聞こえて来た。
次の瞬間、そのフロア全体に範囲魔法が広がった。絶対零度の冷却魔法である固唾をのんで見守っていた部下達も慌てて防御魔法で身を守るが、遅れた人間は一瞬で命をさらわれた。
「ぎゃー!」
「加々美! 何とかしてくれ!」
「情けない奴!」
「このバカ! 魔装使え! 火だ!」
「火炎魔法使えない装備ばかりなのだ」
「突っ込んでやめさせろ!」
「突っ込む⁉ 女の子は突っ込まれる生き物だよ⁉」
「あーもう! このド変態、ド処女! 痴女!」
宗次郎は冷気の本流の中、浸食される防御魔法域に加々美を入れるとその形の良いお尻を蹴り上げた。
びっくりした加々美はそのまま宗次郎の魔法で朝倉将へと吹き飛ばされてしまった。
「こ、このぉ! 寒いの止めろ! この野郎!」
飛び蹴りを喰らわせてひるませるが、加々美は斧の柄で反撃を受けてしまう。
「いっ! いっだぁ!」
床を転がる加々美は自分の脇腹を抑えながらも宗次郎の元へと下がる。
「あの柄には気を付けていたのに」
「は? 柄?」
「あの粗チンはね、柄と刃が元々は別の魔具で今はくっ付けて使っている訳なのよ」
「早く言え! この駄犬! おっぱい揉むぞ!」
「タイミング逃したんだよ!」
「ってああ! 避けろ!」
宗次郎と加々美は一緒に身体を伏せて斧の薙ぎ払いをかわす。
二人は分かれると、フロアを二人で走り始めた。
「隙を伺うつもりか! 無駄だ! また範囲魔法で」
「無駄だよ」
加々美は姿を消すと、正面から朝倉将の腕に飛びかかって身体と足で腕を決める。
「魔法戦ではこんな事考えないでしょ?」
速度、身体の強化の魔法を多く内包した装備である加々美は関節技を得意技としていた。
だが、パワーでは朝倉将が上だ。
そのまま床へと叩き付けられた。
「うぇ、バカ力め。でも、仲間にもいるんだよね! お前の何百倍も力がある奴が」
魔装の魔法を複数発動し、ダメージを軽減して身体を強化すると、加々美は身体をそらして朝倉将の右腕をへし折ってしまう。
「ぐおおおおおおお⁉ この、女がぁ!」
「暴れんなよ、暴れんなって! うわぁ触るな!」
転がって朝倉将から離れる加々美は外野から魔法が飛んでくるのが見えた。
我らが最高戦力の雲行きが怪しくなって来た部下たちが援護を始めたのだ。加々美は魔法をかわしながら様子を見るが、面倒な事この上ない。部下たちは朝倉将の右腕を治療し始めており、彼はポーションを持っている。
加々美の装備では戦うのは難しい。
「待って! みんな話し合おう! 同じ人間じゃん! あ、私人間じゃないや」
加々美の言葉も聞かずに次々にギルド構成員達が彼女に襲い掛かる。
彼女は溜息をつくと、腰に差していた巻物を二つ投げて開くとその中に手を突っ込んで刀を二本抜くと、一瞬で二人の構成員を切り捨てた。
「カモーン! この童貞ども、お前らの筆をたたっ斬ってやらぁ」
彼女は複数人相手に装備の自動迎撃魔法と二本の刀で大立ち回りをしている陰で、宗次郎は弓の弦を魔法で長くして何かに巻き付けていた。
最後の一本と、限られた武装、最後に残した自分の魔力。
構成員の攻撃をかわし、逃げ回り、そして隠れて歌を口ずさむ。
彼がよく聞く鳴神華音のデビューソングだ。
「宗次郎! カラオケなら付き合うから助けてよ!」
「よし、おい加々美! 勝ったぞ」
宗次郎の言葉に構成員達が顔をゆがめる。
それは朝倉将も同じだったあの男は何を言っているんだと顔が言っている。
「あ、出来た? じゃあ、一気に仕事終わらせますかぁ‼ せぇーーーーの‼‼」
加々美は構成員達の攻撃をすり抜けて床へと拳を叩き付けると建物が、消える。
傍から見れば大勢の人間が空中に浮かんでいるように見える奇妙な光景が広がるが。それもほんの一瞬、まさに〇.一秒だけの間の光景だ。
だが、この男にとっては、
「十分すぎるぜぇ!」
宗次郎は左斜め上方に見つける目標の焦る表情、霧島勇樹の額へとナイフと弓の弦で描いた魔法陣を起動して最後の矢の貫通力を大幅に強化して放つ。
建物、そこに施される防御魔法を貫いて霧島勇樹の頭部を吹き飛ばす。
元々はハンゾーに詳しい位置を聴いて数発打ち込むつもりでいたのだが、加々美が来てくれたことで一撃で行うことが出来たのだ。
「な、何処を撃っているんだ?」
朝倉将の困惑が部下にも伝わってか、総員が天井に空いた穴を見つめる。
宗次郎と加々美はその隙に会議室の壁をぶち抜いて外へと飛び出す。その行動に気付いた朝倉将の電撃魔法が追尾して来る。
「加々美! ガチ装備で来なかったって事は、認証魔装持って来てんだろ⁉」
「当たり前ですよ!」
霧島勇樹が死に、このギルドに張られている対情報系魔法防壁が消えた今の状況ならWELT・SO・HEILENからガチ装備を認証してもらい、装備が出来るが。
電撃が二人に直撃する。
「やったか、直撃だ」
朝倉将は壁から二人を覗く。
そこで、彼は見た。
顔を流線型の黒にエメラルドグリーン色のラインが入った仮面で隠し、右肩に装甲を傾けた鎧にエメラルドグリーンの輝きを放つ長弓を持っている。長弓は本体がそのまま刃になっており、禍々しいデザインに加えて非常に攻撃的だ。その他にも袴に腰から下げられた装甲が脚部を守っており、そこには矢が入った筒がある。胸当てにはカラスをイメージしてデザインされたであろうエンブレムが入れてある。
その姿は完全武装した鴉天狗のように朝倉将には見えた。
「直撃したから? 何だと言うのかな?」
宗次郎は浮かぶことしか出来ない加々美を抱えてギルドの屋上に下ろすために上昇するが、その動きは既に数多の魔装で強化され神速の域にある。
「よし、攻撃するか」
のんびりと呟いた宗次郎は足元に矢をマシンガンの様に連射する。最早いつ引いているのかわからない速度だ。その一発一発が三〇階はあるビルを地下まで貫いていく。彼を包む鎧、手甲、脚甲、服までもが魔法陣を浮かび上がらせ高度な儀式を自動でこなしていく。
彼自身が歩く超高度魔法術式の塊だ。
軍を動かさなければ街ぐらいは簡単に崩壊せしめるこの装備は勿論簡単には作る事は出来ない。
数多の人殺し達の身体、その怨念の塊で造られている。宗次郎は何千と言う人間の悪霊を身体に纏って戦っている。
無論、それと同等の装備をWELT・SO・HEILENのメンバー全員が持っている。
このかつて東京都であった街「トレライ・ズ・ヒカイント」だけの犯罪者だけではない。世界中の名だたる犯罪者たちがWELT・SO・HEILENに狩られているのだ。
装備を作るために、あるいは使い捨てられる実験材料として、時には魔法の威力を試す的として日々命が消えている。
「貴様ぁ! こ、この化け物め!」
飛行魔法で屋上へと上がって来た朝倉将の右肩や胴体には矢が刺さっている。その他にも傷がある所を見ると何本かは貫通していったのだろう。
「今ので死なないのか。お前に向けて撃ったのに」
「な、舐めるな! お、俺が! この俺が! 負ける訳が」
「来い。今の俺は本気だぞ?」
「くっ! おおおおっ!」
斧を真ん中から二つに割り、手斧と棍棒の二刀流で朝倉将は特攻する。
その行為には計算はない。ただ目の前の敵を粉砕する意図が隠せていない。そんな彼を宗次郎は片腕を振り上げるだけで体制を崩す。
念動力の魔法を使っただけなのだが、攻撃のみに的を絞った魔具ではこの魔法は防げない。
「そ、んな!」
「子供を愛している男なら、助けてやったのに」
「ま、待て!」
宗次郎は顔面に一発だけ矢を打ち込んで朝倉将を仕留める。
せめてもの情けで、威力を上げて打ち込んだこともあり、彼の頭部は肩のあたりまでを大きく吹き飛ばす形で消滅した。
噴水の様に血を吹きだす彼の身体をそのまま掴むと、仕事を終えた宗次郎と加々美は霧を作り、その中へと死体を引きずりながら消えて行く。
その姿はまさしく、獲物を巣に運ぶ獣か?
それとも死を運ぶ、王か?
死の王sが座る玉座は七席
七人の、魔王




