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WELT・SO・HEILEN~ウェルト・ソー・ヘイレン~  作者: 稲狭などか
アイドルと魔装解放編
13/46

第六話 正義の歌姫と悪のギルド(1)

お久しぶりです。中々時間が無いですが、頑張って行きたいと思います!


 誘拐事件は良く起こるものだ。

 かつては東京と呼ばれたこのトレライ・ズ・ヒカイントにも未だにその事件は無くなっていない。主に優秀な人間や子供などが攫われるが、今日もありきたりな誘拐事件が勃発した。


「小春ちゃん、好きな動物とかいるかな?」


「猫ちゃん!」


「そうなんだ。僕も猫ちゃんが好きなんだ! 見てよこのパーカーも耳があるんだよ」


 正明は小学生の女の子と明るくお話をしていた。

 黒い猫耳パーカーに、黒い尻尾を魔法で生やしている姿だ。その正明はまさに猫が人間に化けようとして失敗したような可愛らしい格好だ。

 女の子もそんな彼の姿に警戒心は無い。

 むしろ怪しい人間から守ってくれたヒーローだろう。質の悪い大人の男に絡まれてぐずっている所を正明に助けられ、それからお友達だ。


「お姉ちゃんって猫ちゃんみたいだね。可愛い!」


「嬉しいなぁ。でも、小春ちゃんだって可愛いよ? モチモチほっぺ、可愛いな」


 小春と言う少女のほっぺを軽く突く正明はニッコリと笑って、腰にホルスターを出現させる。

 

「ねぇ、小春ちゃん」


「なに? お姉ちゃん」


「僕のお家に来ない? お家にいても、お父さん帰ってこないんでしょ? 少しの間だけ、お姉ちゃんのお家で遊んでいかない?」


 正明は左目を起動して小春の心理状態を見る。

 動揺はしていない。コネクション作りから始まり、母親は離婚していて、無理矢理親権が父親に掻っ攫われた上に、ギルドでの重鎮である事が災いして彼女が家では一人でいる事も大きい。

 それに、何度か彼女はWETL・SO・HEILENへと招待している。


「うん! メイドさん達はいる⁉ みんなは⁉」


「いるよ。一杯遊んでもらおう! その前に宿題だけどね」


「えー! やだ!」


「八雲が教えてくれるよ?」


「行く!」


 目を輝かせる小春はそう叫ぶと正明の差し伸べた手を握る。

 その瞬間、一人の少女の誘拐事件が起きた。



 武装ギルド<ディミオス>の幹部である根元幸三は件の爆発攻撃で大幅の人員減少を回復するために多くの新人をギルドに迎えていた。

 毒の成分が特殊であり、被害は一〇〇にも近いギルドメンバーが死亡する大惨事と化したのだが、今やそのSPECTRE,sの死神の飼い猫をギルド長である佐島望が討伐したとなっていては心配が一つ減ったと言うべきだろう。

 死神の飼い猫が沈んで四日、WELT・SO・HEILENは静かになって今やギルドランキングは五位をディミオスが勝ち取っている。順風満帆、このままうまくいけばギルドも安定していくだろう。


「って、思ったよな? 根元幸三」


 彼のデバイスが突然謎の声を放った。

 飛び上がるほど仰天した幸三であったが、その声には覚えがない。


「誰だ? 悪戯か?」


「死神の飼い猫だ。安い台詞だが、お前の娘は預かった。無事に返してはしければ俺の操り人形になれ」


 思わず叫んでしまいそうになった。

 だが、指導中に新人の前で叫ぶわけには行かない。彼は新人に待機を命じると一人になれる場所に行きデバイスに耳を押し付ける。


「死神の飼い猫⁉ 殺されたんじゃ⁉」


「残念だったな、トリックだよ。お前のボスのお粗末な魔法で死んでやれるかよバァーカ」


 可愛らしい高い声が通信魔法の先から聞こえて来る。その声にはドス黒い悪意が塗りたくられ、その上からこちらの正常な視野を奪うかのような闇が込められているようだった。初めての声でもあるために相手が死神の飼い猫であるかも怪しいが、最悪なのはこの声の主が自身の娘を誘拐したという事だ。

 本人? 模倣犯? 新たな敵? 後継者?


「苦労する事の無い白兵戦で皆殺しに出来ると思ったんだが、やられたよ。こうなったら少し卑怯だけど、こんな手を使うしかなかったのだ・・・・・・わかってくれるかな? 言う事を聞かなかったら、娘を使って小遣い稼ぎでもするかな? 小学生でも、需要はあるだろう? この世の中は変態野郎が多い」


「ふ、ふざけるな! 子供は関係ないだろ! 悪魔め! 直ぐに、その子を解放しろ! 今のディミオスは大きな戦力を補給した。お前達を殺すなんて訳ないんだぞ!」


「悪魔? 違うな、俺は飼い猫だよ? 俺の主は気まぐれでね、子供でも簡単に殺しちまう。俺は、そんなのは可哀想だから経済的に利用してから殺そうとね。それより、どうする? ボスにも、仲間にも、誰にもこの事は言うなよ? もし言えば、どうなるか」


「くっ!」


 だが、そこで彼は冷静になる。

 コイツは本当に子供を攫ったのだろうか? 声も、姿も送られていない今の状況では証拠が不十分故に確実でない。

 そう考えると少しだけ心が軽くなった。


「ふん、俺はギルドは売らん! 死神の飼い猫は死んだ。お前は偽物だ!」


「はぁ、それこそ不確定だろ? 死体は回収したか? それに」


 直後に通信魔法の先から小さな女の子の叫び声が聞こえて来た。

 その声は何度も聞いた我が子と同じ声。


「待て! 死んだら元も子もないぞ! あぁ、済まない。良いだろ? 腕の一本ぐらいなくても」


「き、貴様! 小春を! 声を聞かせろ! 姿を見せろ!」


「今送ったよ。確認しろ」


 幸三は慌ててその画像を見る。

 そこには、血まみれで倒れる我が子の姿。顔は切り裂かれ、服もボロボロでその陰からは痛々しいアザが覗く。

 最悪だ。

 こいつらは人間じゃない。悪魔だ! 化け物だ! 性根が腐りきった怪物だ!


「小春! 貴様等、殺してやるっ! 絶対に! 皆殺しにしてやるからなぁ!」


「やれるかな? 言う通りにしろ、お前と娘は助かる。あんまり反抗的になられると、娘を回復魔法で元通りにしてもう一度遊ぶぞ? 痛めつけるだけ痛めつけて、嬲るだけ嬲って・・・・・・心をぶっ壊して、変態どもの慰み者にしてやろうか?」


「く、くそぉ!」


「言う事を聴けば、彼女はVIP扱いだ。乱暴なんかしないし、嫌な記憶は消して返してやる。やるか? やらないか? 選べよ、なぁ? お父さん?」


 幸三はデバイスを握りつぶさんばかりに持ち、泣き崩れながらも必死に思考を巡らす。娘は死ぬよりひどい目に合うだろう、連中はまだ小学生をあそこまで痛めつけても心が痛まない連中だ。言う事を聞いても良くて娘の即殺だ。

 何故こんな事に? 稼ぎの無い、魔法の才が無い無能な母親の元にいるよりもギルドを支えて稼ぎの良い自分の所にいた方が幸せだと考えた事が愚かだったのか? 


「答えは、ノーか・・・・・・娘の傷を治せ、次は火で炙るか?」


「や、やめろ! わかった道具になる! だから、娘を傷つけないで下さい! 何なりと! だから娘だけには!」


 何もない空間に土下座する幸三は荒い息でまくしたてる様に懇願する。

 想像もしたくない、娘が火で炙られて絶叫する様なんかを考えたくもない。そんな事になるなら、せめて痛みの無いように殺してほしい。


「いい返事だ。根元幸三、俺の操り人形のお前に命ずる。ギルドの金を、新人教育と人材補強に傾けろ。つまりだ、ギルドの金を使いまくれという事だ」


 幸三は首を傾げた。

 それは今から自分がやろうとしていた事だ。人を増やし、戦力の増強を図る事は今の課題でもある。

 要求としてその事を言われるとは思わなかったのだ。


「そ、それで娘は助けてくれるのか?」


「後、もう一つだけある。霧島勇樹に身の危険を知らせろ、無論この通信の事は言うな。例えば、(お前は本当に死神の飼い猫が死んだと考えているのか?)程度の事で良いから伝えろ、そして俺も鬼じゃない。人集めに金を使いたくなければ、身代金としてギルドの資金を献上しろ」


「それをすれば! 娘の命は⁉」


「保障する」


「元の生活には!」


「精神的ケアも行って返そう」


「約束しろ! その子だけは! どうか・・・・・・っ!」


「身代金は五〇億なんてどうかな? お前の道は二つ、金を払うか? 金を使うか? 返事は行動で示せ。金を払いたいなら、個人的に会いに来い。場所は娘がよく遊んでいる公園だ」


 通信魔法は一方的に切られた。

 逆探知も多分不可能だろう。そもそも、このギルドに通信魔法が届いた事自体がイレギュラーなのだ。何重にも情報系魔法の対策は行っているこのギルドは身内以外で通信が出来ない。

 なら、死神の飼い猫はこのギルドに居る事になる。

 しかし、そんな事は幸三には関係ない。今は娘を救い出す事が重要だ。

 涙を拭うと、部下の元へと向かった。



 正明はデバイスを切ると、背後の連中に溜息を吐く。

 

「まてぇ! 小春ゾンビ!」


「きゃあああ! 食べられたくないよ!」


「食べるのはそっちじゃない?」


 そこにいるのは頭から狼の耳を生やし、尻尾を伸ばした加々美とゾンビメイクではしゃぐ小春の姿だった。

 その他にも小春の他に同じくゾンビメイクをした男の子がアイリスと遊んでいる。


「子供をそんな酷い目にあわせられないよ。もう、あんなに可愛い者に暴力を振るうとか無理!」


 正明は二人の二人の男に同じような通信を行った。

 京子が作り上げた情報魔法防御壁をぶち抜く対防御壁用魔装<隠者ハーミット剣戟セイバー>のお陰で貫けたが、中々に面白そうだ。


「アイリス! 次は俺の番だからな!」


「ハイハイ、カモーン」


「喰らえ! 俺の魔法を!」


 気合十分で魔法を放とうとする男の子だが、出て来たのは蝋燭の火程度の火球だ。

 アイリスが一息吹きかけるだけでそれは消えてしまう。


「その程度かゾンビ、次はこっちの番」


 アイリスが男の子に魔法でなくデコピンを喰らわすと、男の子は大袈裟にひっくり返る。

 単純に彼女の力が強いのだろう、それでも男の子はアイリスに向かっていく。


「優君はアイリスが大好きなんですね」


「なっ! ち、ちげーよ! こんな兎に負けたくねーだけだ!」


「兎に負けた-やーい」


「この野郎!」


 男の子は朝倉優と言う名で、ディミオスの戦闘部隊でもトップであり事実上の指導者でもある人物の息子だ。

 優はアイリスに抱えられてジタバタと暴れているが、どこかまんざらでもない様子だ。


「そろそろ、そのメイク落としたら?」


「やー」


 正明の言葉を拒否する小春はまだ遊び足りない様子だ。

 だが、いつまでもこのゾンビの格好で要られても困ってしまう。だが、正明には秘策がある。と言うよりもこのWELT・SO・HEILENは下手なアミューズメント施設よりもバラエティーに富んだ場所が多い。

 仲間達が趣味全開で色々な物を作っているのだ。

 その中の浴場は自慢の出来が多い、特に子供には受けがいいだろう。軽い冒険気分で遊べるほど広い上に、全部の領域の浴場にはメイドやメンバーが同行すれば転移が出来るのだから。


「お風呂入ってきなよ。広くて楽しいよ?」


「お風呂ヤダ」


「むー、困ったなぁ。強制連行?」


「やぁー」


「わがまま言わないの」


 正明は小春のほっぺをムニッと摘まむと、志雄を呼んで小春を風呂場に連れて行くように頼む。


「志雄、この子頼める? お風呂で身体洗ってあげて」


「良いですよ。と、言うよりもメイドに任せては? 子供が来てからみんなが話しかけたくて仕方ない様子でしたので」


「でも、不安だな。外の事あまり知らないし・・・・・・何人か連れて行きなよ。いい経験になるかも、外の子供を知る事も勉強だよね」


「わかりました。小春ちゃん、行きましょう」


「メイドの人も来る?」


「来ますよ。みんなで入りましょう」


「うん!」


 元気な返事と彼女の笑顔に志雄が溶けたような優しい笑顔を浮かべると、彼女を抱えてメイドの元へと歩いて行った。


「志雄も子供好きだからな」


「私も入って来る!」


「加々美は教育上よろしくないからダメ」


 正明に止められて加々美はしょんぼりとして尻尾で正明の身体をペチペチと叩くが、彼はその尻尾を掴むと軽く引っ張って加々美を飛び上がらせた。

 優も同じくいつまでもボディペイントしたままではいけないだろう。


「優君もお風呂入ろうか?」


「え? ここお風呂あるの?」


「あるよ? アイリスと入る?」


「や、やめろよ! こんな兎!」


「顔真っ赤だよ?」


「意地悪すんなよ!」


 正明はニヤッと笑うと、彼の前にしゃがみ込んだ。


「じゃぁ、僕と入ろうか?」


「姉ちゃんも女だろうがよー!」


「ははは! やっぱりだ! この子も勘違いしているよ。僕は男の子だよ?」


「ウソだー! そんな可愛い男なんかいないし!」


 正明は満足したようにほくそ笑むと、八雲と執事長に御守りを頼む。

 その時にデバイスの画面にメッセージのマークが浮かんでいる事に気付く。どうやらアイリスからの様だ。


「アイリス?」


「あぁ、それね。連絡ミス・・・・・・華音のスキルは音のスキル、五感への干渉に魔法やスキルにも影響を与える事を教えようとしたんだけど」


「かなり早い段階で知っていたなら教えてよ・・・・・・ん?」


 メッセージの文の終わりにどこかの家系図の様な物が掛かれている。


「そして、華音はかなり特殊な家系・・・・・・兄弟達の一人の可能性が、ある」


 その言葉に正明は冷たい表情になると、左目を蒼く光らせる。

 兄弟達は唯一の敵だと認識している人々だ。スキルに覚醒し、その中でも瞳が紅く光り膨大な力を持つ者達。

 魔法使いの最強種、神の血族、魔装使いの天敵。

 あの紅い瞳を思い出すたびに正明の背筋に冷たいものが走る。敗北は何度も味わった、何度も地べたを舐めた、だがかつての兄弟達の一人に負けた時は普通の敗北ではなかった。

 魂の敗北だ。

 本気で負けを認めた。二度とコイツには挑むまいと、二度と戦いたくないと心の底からそう感じた。


「ふざけるな」


 正明は過去のその人物でも、華音にでもなく、自分にそう呟いていた。

 屈辱的だ、あの瞬間だけ正明の魂は、心は、命は、奴の物となった。全てを差し出しても生き残りたいと懇願した自分が許せない。


「華音・・・・・・まだ覚醒してはいない。間に合う、そのためにあの男は邪魔だ」


 正明はデバイスでハンゾーと言う京子の使い魔に学園で華音を見張れと指令を出すと、転移を使って街へと出た。

 フードを深く被り辺りを見渡して目撃者がいない事を確認すると、大通りに出ると左目を発動する。辺りを行く人々をスキャンすると、その中で武器を持つ人間を探す。

 当たり前だが、警察やオーダー以外には武器を持つ人間は見えない。

 警戒し過ぎたかと思うが、彼の性格上そんな事で警戒を解いたりしないだろう。屈辱と、絶望を与えて敵を葬り去るための下準備は完成しつつある。

 後は操り人形達が上手くやってくれることを祈りながら待つことだ。

 そして、影武者の活躍も必要だろう。



 朝倉将は憤りで頭の血管を浮かせていた。

 今は一人でギルドの自室にいるので周りに人は居ない。どれほど毒づいても聞く者はいないが、その部屋の防音能力すら煩わしい上にそれが彼のプライドを逆なでしますます傷つけていく。

 SPECTRE,s死神の飼い猫からの要求は、「息子を助けたくば、ギルド長を暗殺しろ。それが嫌なら金をよこせ」と言う内容だった。

 息子の事なんかどうでもいい。

 良い女であった妻に産ませてみたは良いものの、ロクな才能も持たなかった息子なんか必要ではない。妻は子供を可愛がっているが、才能の無い子供のためにギルドを裏切れない。

 殺されるなら好都合だ。

 妻には才能のある子供が生まれるまで何人でも産んでもらおう。

 産めないなら別の女に乗り換えればいいのだ。


「クソ、要求なんか飲むか! 殺してやる! あのクソ女、捕まえて死ぬまで犯してやるからな!」


 女とは死神の飼い猫を指しているが、朝倉はその死神の飼い猫に子を産ませるのも良いと考えている。相当な魔法の才能を持つ魔女である事は確かだ。今の妻も上等な魔女ではあるが、死神の飼い猫と比べればカスの様な物だ。

 憤りつつも、朝倉は考えを巡らせていた。

 通信がデバイスに直接会ったという事は死神の飼い猫はこのギルド内に居る事は確実であり決定事項だろう。

 外部からの通信魔法の侵入はギルド関係者のデバイス以外では不可能にしてある。

 SPECTRE,sの通信魔法では弾かれてしまうのだ。


「内部に、いるのか⁉ 死神の飼い猫! それか、奴の手下が紛れ込んでいる⁉」


 そのうち彼は一つの答えにも直面する。


「内通者? 裏切り者がいる可能性? そう言えば、幸三が新人を多く取り入れていたな・・・・・・一〇〇人近く死んだが、それでも急だし、入れる人数が多すぎやしないか? もしかしたらその中に? それにギルドの対情報魔法防壁は霧島の仕事だ! 何処だ? 誰だ⁉」


 朝倉は焦りつつも標的を絞る。

 野獣の様な表情を浮かべ、彼は部屋を勢いよく飛び出した。裏切り者を探し出し、粛清する。

 ギルドも、ギルド長も守る。

 彼の心はその感情一色に染まっていた。


「待っていろよ、死神の飼い猫! お前の仲間を、用意した裏切り者を殺して最後にはお前を道具にしてやるからな!」


 朝倉は部屋のを通りかかった女性と言うには幼い、高校生程度の女の子にぶつかるが無視して突き進んでいく。

 死神の飼い猫も高校生程だろう。幹部に事情を聴いたら真っ先に若い奴から粛清してやる。

 その時の彼の感情はそんなものだった。




「って、奴なら考えるんだろうな。単純で、単細胞、愚かで、プライドが高く、欲望の塊・・・・・・あははははは! バァーカ、僕のお気に入りのおもちゃだ。踊れ、同じ場所でクルクルと・・・・・・潰せ、自分たちの退路を・・・・・・編み込んでいけ、自分の首をくくる縄を! ねぇ、悪人ぽくない?」


「いえ、外道のそれかと。第一船長様、幸三と言う男、本当に動いておりましょうか?」


「心配しないで良いよハンゾー。通信では嘘の声を出していなかったし、それに小春ちゃんは中々の才能を持つ子だよ? 大切にされている確率は高いね。それに、要求を飲むと言ったし・・・・・・公園にもやって来たと言う報告も無い」


「ハッ、出過ぎた事を申しました。お許しを」


「怒ってないよ。ハンゾーの力は信頼しているし、様々な意見があれば気付かない部分まで見れるからね。今のハンゾーの意見も、再確認のいい機会になったよ」


 正明はトレライ・ズ・ヒカイントにある紅い塔で街を見下ろしながら、忍び装束の使い魔と話をしていた。

 三三三mの紅い塔はある程度見晴らしが良い。

 正明はここで街中から魔力を盗んでいた。ここは魔力塔と言い、様々な思念系魔法、情報系魔法を発信している場所だ。

 その魔法余波を分解し、自分の魔力にしているのだ。


「我々の一体が、敵の本拠地で二名の操り人形への精神操作に成功いたしました。成果はこの週には挙がるかと思われます」


 ハンゾーは変身魔法を組み立てて作った使い魔である。

 もちろん、京子の使い魔だ。正明には此処まで精巧な、言葉を発して実用的に動ける使い魔は召喚出来ない。雄たけびを上げて暴れるだけの乱暴なものが精一杯だ。


「いいね。幸三は殺させないでね・・・・・・小春ちゃんには良いお父さんらしいから。将は、殺す必要があるかもね」


 正明はそう注意を促すと、小瓶を大量に召喚する。

 彼の周りを衛星の様に飛び回る小瓶はその中に少しずつだが満たさて行く。

 この魔力はWELT・SO・HEILENへと運ばれ、魔装の製作へと回される。


流星シューティングスターの(オブ)双子ジェミニが壊れたから修理もしないと、流石に飛行魔法に魔力は避けないからね」


 この間の戦いで壊れたブースターを考える事で無理矢理思考を切り替える。

 敵とは言え、一人の子供から親を奪うのだから気分は悪い。

 それに、今回の敵は華音の幼馴染でもある。


「第一船長様、それでは私めはこれで失礼を。授業が近いので」


「うん、ありがとう。魔力切れ近かったらまた来なよ」


「ハッ」


 ハンゾーは転移魔法で操魔学園へと帰って行った。

 今のハンゾーは正明の代わりに学校で授業を受けている。便利ではあるが、やはり授業をサボるのは非効率的だし、何やら損をしている様な気分になってしまう。劣等生専用の一般的な生活魔法と言う地味な授業ではあるが、全く役に立たないという訳ではないからだ。

 正明は溜息をつくと、華音の事を考え始めていた。今の段階では誰に襲われると言うことは無いだろうが、監視は必要ではある。

 由希子の記憶も改竄しなければならないが、今の状態では無理だ。

 あの女は片手間で相手できるほど弱くない。一対一で戦うなら本気で戦わなくては負けるかもしれないのだから。

 デバイスの中に周辺ギルドからの情報が集まっている。

 映像にして展開するとどうやら、向こうは順調らしい。


「さてと、佐島望は動きが封じられたかな? 表ではオーダーが警戒を強めている。それにどうやら由希子は僕も守ってくれるらしいからね・・・・・・盾は作った、次は剣」


 正明は左目の輝きを深める。

 白兵戦は敵のミスで白紙になった。情報戦では勝利した。直接戦闘では敗北した。

 この戦況は、ギルドランキングから除外された点では立場としては劣勢。敵の内部崩壊は五割がた成功。全体的にはまだまだ劣勢だ。

 佐島望は一対一で相手するにはリスクが高すぎる。

 結局は最後の最後に殴り合いで勝つしか方法はない。リーダーの死亡はギルドの壊滅と同意。


「切り札は、華音」


 正明は情報を一通り読み終えると学園に転移した



 鳴神華音はオーダーのイメージキャラクターとしてアイドル活動を行っている。

 従って、組織内での彼女の扱いは中々に特別なものだ。彼女自体の能力も高いこともあり一部には華音を支えるべく結託したファンの集まりがある。

 だが、それを望まない者も中にはいる事も確かだ。

 北条美樹が率いるオーダー内派閥だ。

 この間の鳴神華音と北条美樹の決闘により、オーダー内のバランスが崩れつつあった。とは言うものの下らない学生同士の派閥争いの様な物だ。メールを無視した友人をイジメたり、陰口がばれた女の子がグループリーダーの粛清を受けたりなどの下らないもの。

 当然、華音はそんなものに興味はない。

 自身の派閥なんかを作ったつもりもないし、北条美樹に特別恨みや嫉みがあるわけでもない。

 しかし、周囲はそれを許さない。

 ライブを最近に控えた華音はまさに時の人だ。その彼女に明白な嫉みを抱える人物が北条美樹である。


「鳴神華音。いい気分でしょうね・・・・・・正義の歌姫なんて呼ばれて、オーダーのイメージキャラクターとして引っ張りだこ。この前なんか、私を打ち負かして」


 嫌味な口調で北条美樹が華音へと言葉をかける。

 休み時間とは言え、華音には暇な時間はない。スケジュールはギチギチに詰め込まれている、今からもマネージャーに話さなくてはいけないことがありゆっくり話してる暇などない。


「ごめんなさい北条さん、私少しマネージャーと話さないといけないからまた後でお願い」


 華音は焦ってデバイスを開きながら彼女のもとから離れようとする。


「えぇ、ごめんなさい。貴女のお友達の、伊達正明との関係を邪魔するつもりはないわ」


 その名に覚えの無い華音は首を傾げるが、彼女がその名前を口にすると何故かとでも腹立たしい気分になる。

 最近になって彼女の周りにその名前が多く聞かれるようになったが、彼女には全く理解できない。

 友達だったのか、何故かその人の事は思い出せないのだ。だが、その名前を聞くと落ち着くような気分になれる事もあり彼女は適当に周りにあわせているが時間が出来たらその人の事を探してみようと思う。


「スポンサーですよ」


 短く返すが、それでも彼女は前には進めなかった。

 同じ紅の優等生である女の子に足をかけられて転んでしまったからだ。


「北条さんの言葉を無視するなんて、よほど天狗になっているのね」


「な、なにするんですか!」


「鳴神華音、その顔・・・・・・どう直したのかはわからないけど、腹立つわね。生意気にも、あざといその顔で人気者気取りに磨きがかかって」


「人気を取りたくてアイドルをしているわけじゃないですから、それに私はあの人と」


 あの人って、誰? 


「伊達正明か、あんな雑魚に何を吹き込まれたのかわからないけど。私の立場を奪うようなことはしないで欲しいわね」


 伊達、正明? 誰? でも、知ってる? 何度か話したような?


「わからないです。貴女の立場なんか知りませんし、私は私の出来る事をしてオーダーに貢献するだけです」


「貢献するのは私なの、わかる? アンタの派閥がうざくてこっちは迷惑してんのよ。だからさ、ライブ失敗しないかな~なんて思ったりして」


 華音は頭に血が上る。

 目の前の女を殴り飛ばしたい衝動に駆られるが、この時期に問題を起こしてはいけない。彼女はこの自分の性格に嫌悪感を感じる。

 この、ふと顔をのぞかせる凶暴性。


「ファンの為にも、オーダーの為にも、失敗するわけにはいかないので」


 嘘はついていない。

 この北条美樹と言う人間をつい最近になって知った彼女にとって、この言葉は自分なりにプライドを込めて呟いた。

 華音は無視して電話に行こうとするが、既に自分が囲まれている事に気付く。

 大体の腹は読めた。

 決闘でもやるのかと身構えるが、この女がそんな事をするはずない。それにこの人数、確実に自分の邪魔をするために集められた北条美樹の手下であろう。


「ねぇ、華音ちゃん・・・・・・ライブしたくないって、隊長とかマネージャーに言って来てよ」


 滅多に他人を嫌悪する事の無い華音だが、その中でも悲しみと言う感情が彼女を満たしていた。

 優れている人間であるはずの北条美樹はこんな事をしなければいけない程に追い詰められているのだろうかと、もはや憐れんですらいた。


「嫌です。そんなに自分の立場が崩れるのが怖いなら自分の考え方から見直した方が良いですよ?」


「舐めた口きいてんじゃねぇよ。同期の中でお前だけが唯一私の邪魔なんだよ」


「退いてください。私は暇じゃないので」


 その一言の後に華音の顔面に火球が飛んできた。

 防御魔法で防ぐが、その火球は大怪我は免れない一撃だ。


「じゃぁ・・・・・・病院で寝ててもらおうかな? クソ野郎」


 華音は体の中で何かが目を覚ましたような感覚に襲われる。

 いつか同じような感覚となったが、どんな時だか思い出せない。しかし、その時の事は思い出したくない自分がいる。

 北条美樹とその手下が魔法を放つ準備を始めるが、華音は一言だけ呟いた。


「帰って下さい」


 その言葉で、北条美樹も含めた邪魔者は何処かへと消えて行った。

 歩きながら困惑の声をあげ、それでも逆らえない力によって彼女達は何処へともなく散って行ってしまった。

 まるで、命令を聴いた兵隊の様に。


「え? なに? これ」


 あの人に聞けば、解るかもしれない。

 だが、あの人がだれかわからない。


「その人の所為なの? 私、どうなってるの?」


 今の現象は確実にスキルによるものだ。

 だが、こんなスキルを自分は持っていない。考えられることは、スキルがもう一つ覚醒したという事だろうが、そんな事は在り得ない。


「ライブに・・・・・・その人は、来るかな? 何だろう・・・・・・怖いはずなのに、なんでかな? 気分が良い・・・・・・理屈無しに、あの人に会いたい」


 華音の瞳が紅く光り、心の中には清々しい気分と記憶にない「あの人」の事で満たされていた。



「兄弟達の覚醒条件は不明だが、主にある人物の家系である事に起因している。兄弟達に覚醒するとスキルの多彩化、強化が行われ、そこから・・・・・・精神汚染が始まる」


 正明はオーダーの隊長、由希子へとその話をしていた。話しても損はない、それどころか今は死神の飼い猫として彼女の前にいるのだ。

 信用されるかはわからないが、話しておく必要がある。

 いずれは貴重な駒になって貰うためだ。


「精神汚染の前兆は、覚醒後の爽快感と願望の増幅だ。そこから、覚醒時に抱いていた感情を増幅させていき・・・・・・精神が変質する。最悪な方面に、負の感情でも正の感情でも変わらん・・・・・・正義感ですら暴走する」


 仮面の奥からそう言葉を紡ぐ正明は鬼の様な形相の由希子に一枚の写真を投げる。

 そこに映っているのは、佐島望の姿だ。


「その男は鳴神華音と伊達正明を狙うギルドの頭目であり、兄弟達の一人だ。言っておくが、普通の魔法使いやスキル持ちとは訳が違う。スキル持ちでも魔法が主体で戦うだろ? こいつらはスキルで戦う。魔力消費が無いくせに、強力な力を放ってくる」


 由希子を始め、他の隊員達も武器を手に取っているが襲い掛かる様な雰囲気ではない。


「そして、鳴神華音も兄弟達かもしれない」


「何を証拠に! その連中の存在は知っていたが、犯罪者集団のメンバーの名称であると言われているぞ」


「くくくっ! あははははは! ふふふふっ、ははははは! 笑わせんなよ、バァーカ。兄弟達はな、覚醒すればその殆どが犯罪に手を染める! 勘違いしてんな、奴らは組織じゃない。血統だ」


「華音が⁉ その一人? それこそ笑わせるな!」


「竜崎由希子! なんなら、聞いてみろよ。そろそろ此処に来るぞ? 鳴神華音が、正気でいるか賭けて見るか?」


 そのタイミングで、華音が隊長室に勢いよく入って来た。

 今は授業中であり、此処にいるはずがない。それに隊長室の扉をいきなり開け放つなんて普段の華音じゃ考えられない行為だ。

 正明は笑っているが、内心は唇をかみしめていた。

 遅かった。


「隊長! 教えてください! 伊達正明って誰ですか? 教えて下さい!」


「蒼の劣等生に所属している生徒だ。名前は男らしいが、可愛らしい女の子だから間違えるな? って、なぜこんな事を? 何をした⁉ 教えるつもりは」


「何処にいますか⁉」


 正明は背筋に氷を当てられたような感覚を覚えるが、冷静になり彼女の新しい力を見抜く。

 言霊だ。


「寝ろ、鳴神華音」


「え?」


 正明は彼女に衝撃波を精製してぶつける。

 死ぬような威力ではないにしろ、不意打ちで魔法が直撃した彼女は部屋の壁に叩き付けられて意識を失う。

 ポーションの瓶のふたを開けて華音に投げて身体の傷を回復する。


「言霊か、由希子。目が紅く光ったら力を使っている証拠だ。気を付けろ? 後、こいつの記憶を奪ったのは俺だ。精神の中で重要なポジションにいる人間の記憶はスキルの引き金になるからな。伊達正明には会わせるな・・・・・・っち、精神汚染の初期症状は知ってるが」


 正明は小瓶の魔力を消費して魔法を発動する。

 だが、それよりも先に右薬指にはめていた指輪が発動された。高速でシールド状の魔法防壁を自動で発動させるものであっった。そのシールドは砕けるが、正明は二重で発動させた防御魔法で、放たれた攻撃魔法を防ぐ。

 攻撃の方向を見ると、華音が紅い瞳を輝かせながら笑っていた。


「流石は、化け物だ。気の持ちようで、アイドルも立派な強敵だ」


「邪魔だよ? 犯罪者」


「鳴神華音。なんて様だ、お前の会いたい人間も悲しむだろう。お前は最早・・・・・・怪物だ」


 正明は泣きそうになりながらも必死に挑発的な言葉を振るえないように吐く。

 ホルスターから小瓶を三本抜く、そして指を鳴らすとその場にアイリスと京子、そして加々美が現れた。全員が仮面を着けた姿だ。

 念のために待機させていたのが正解だったが、火力を補うメンツがいない。

 前衛で敵を抑えるのは志雄の役目だ。

 後衛での火力不足を補うのは宗次郎の役目。

 今は敵の撹乱かくらんに追撃と援護を行う加々美、使い魔の人海戦術や特殊戦法を担当する京子、回復と敵への弱体化デバフが得意なアイリス。

 火力が少ない上に、相手のスキルは言霊。


「耳を塞いでも無理だな」


「あの人は? そんな事で、私を見捨てないよ」


「何も知らないようだな? お前の様な化け物を誰が助けるか」


「し・・・・・・」


「術式発動! 転移魔法、範囲魔法化! 三重詠唱最上魔法化! この場から去れ皆の衆」


 部屋の中にいたオーダーの面々は紅の優等生専用校舎へ、自分達と華音は学校の校庭へと転移させて更に正明は魔装を発動していた。

 お守りとして華音に持たせていた物と同じものだ。


「死ね!」


「無駄だ」


 華音は元々あったスキルである歌を五感で他者に伝える力と言霊を同時に使っている。無意識下ではあるが、それでは耳を塞いでも効果はない。

 スキルの無効化は基本的には不可能だ。

 だが、WELT・SO・HEILENなら可能だ。

 スキルとは即ち、天然で覚醒する。正明達、人外化した人々の固有能力も同じである。正明の研究での応用がスキルを無効化させる事に成功していた。

 が、それは相手を錯覚に落としてスキルを「自分は使っているという一種の錯覚状態」とさせて使わせないと言うものだ。

 根本的な無効化ではない。


「第一船長、どうしよう! 華音ちゃんが!」


「彼女は今、正気じゃない。攻撃しろ! まだ手加減が効く・・・・・・押し包んで眠らせる」


 正明はさらに五本小瓶を引き抜くと、身体の周りに浮かせて魔法陣をドーム状に自分に展開する。

 これから正明は三人の回復と強化バフ、支持を同時に行うことで三人を前衛に出す。


「みんな、後衛は俺が務める! 無力化しろ!」


「り、了解」


「ごめんね、華音ちゃん」


「怪我は、治す」


 加々美は軍用ナイフ型魔装を二本、京子は鉄扇型魔装、アイリスは大鎌型魔装で華音に突進する。


「行けるだろうが・・・・・・まずは、口を塞ぐ」


 正明は三人に防御魔法、筋力増強魔法、魔法耐性、属性無効を施してそう呟くと近くに二体の使い魔を召喚する。

 大きな盾を持つ騎士だ。


「我を守れ」


「「御意に」」


 騎士は正明の両隣で盾を構える。

 正明は慎重に魔力を操り、限りのある力をやり繰りして華音を追い詰めていく。


「宗次郎・・・・・・居なくてよかったな!」


 正明は通信魔法で三人を繋いで確認を取ると彼女達の聴覚を切る。

 言霊自体は聴こえなければ良い。

 だが、華音の場合は身体に歌を聴かせるスキルで逃げ場がない力になっている。

 なので正明は言霊は発動できるように魔装の制限を甘くする。この魔装は魔力を充填しなければならない代物ではあるが、これで節約になる上に、華音を混乱せられる。

 正明は体中を流れる冷や汗に、震えを必死に抑え込み魔法と魔装を操る。

 思わぬ敵だが、この場でもう一度記憶を改ざんしてスキルを忘れさせる事で時間稼ぎに出る事が最善だろう。力は強大だが使えなければ無いも同じだ。

 正明は過去の残像を振り払い、音を奏でる。



 宗次郎は二体のハンゾーを横目で見る。

 頷くハンゾーは命令の成功を伝えると、元の持ち場に戻って行った。


「さて、炙り出しが始まるぞーってな」


 ニヤッと笑う宗次郎は武装ギルド<ディミオス>の施設内、ここは周りに魔具の製作に必要な魔導型術式操作機器が並んでいる所を見るにこの中は工場なのだろう。

 そこで作業服に身を包みデバイスを閉じる。


「おい新人! こっち手伝え! タダでさえ今のギルド人手が足りねぇーんだ! サボんじゃねー!」


「は、はい! すみません! 今行きます! テメェらを潰しに、な」


 最後の一言を口の中で呟き、宗次郎は上司の元へと走る。

 トレライ・ズ・ヒカイントでも名の知れた企業<ネメシス>その本社ビルが、ギルドだったなんて早々に解る事は出来なかった。

 派手に動く割には拠点を知るには時間が掛かった。

 だが、加々美とアイリスが引き起こした爆発事故で割り出すことが出来た。宗次郎が此処に来たのは、固有能力が千里眼だったからだ。

 正明の代わりとして送り込んだ二体のハンゾー。

 その指導と、施設内の監視が容易だからだ。

 いざと言う時は幹部の暗殺も兼ねている。

 一羽の鴉が、深い笑みと共に弓を絞って行く。


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