歩く主人公
私には既に、話す余裕なんてなかった。
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花火の音が辺り一面を包み込み、私を包み込む。
何故だか昔から花火の音が苦手で、大会がある度に布団にくるまってはわんわん泣いていた。
前世で何かあったんじゃないかなとは思っているのだが、それがあまりにも酷く、友達にも馬鹿にされている。
私、町田未来は病気だった。
幼い頃から軟弱は軟弱だったが大きな病になることもなかった。それが突然倒れて、吐血したもんだから、きっと家族は驚いたであろう。.........
「未来!?生きてる?」
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「彼女の名は栞奈。上の名前は佐伯...だった気がする。栞奈は黒縁眼鏡に三つ編み姿で、日々書道に励む俗に言う真面目だった。しっかりしているだけでなく、眼鏡を外した時のギャップや、その性格の良さに人が集まっていた。
栞奈が書道をするときには、決まって無言で一呼吸も乱さずに世界に入り込む様な感じがした。
....そんな所にも僕は惹かれていた、んだと思う。
中3で僕の通っていたK中に転校してきた栞奈は、僕の隣の席だったのだが、摩訶不思議な雰囲気で話しかけづらかった。敢えてわかり易く説明すると、紫のオーラが出ている感じ。
いや、全然わかり易くないけど。
そんな栞奈に異変が起きたのが今年。高2の春。
僕の進学先のM原高校は偏差値は低いわ民度も低いわいい所か一つもない所だったのだが、唯一、多分僕だけが好きな場所があった。それは屋上だった。
風が気持ちいいから、切り替えられるから。
そんな理由ではない。
この学校の生徒の民度の低さから、年に数人いる真面目な子が次々と自殺するからだ。
自殺名所────
いい響きだ。どんな気持ちで死んだのか想像するだけどもゾクゾクするよ。
....別に栞奈が自殺した訳じゃないよ?
栞奈は真面目だから自殺するかもとは思っていたが、栞奈は強い。それに栞奈が死んでもゾクゾクなんかしない。そんなに僕は変な奴じゃないよ。
ただ、そんなことを思い始めた頃だった。
栞奈が可笑しくなりだしたのは。