からまれた
女子Aの手の平が私の顔の真横で止まった。女子の腕には男子の手だとすぐに分かるような大きくて日に焼けた手があった。女子Aの顔がみるみるうちに赤く染まっていく。耳ってほんとに赤くなるんだね。新発見。
「うちのねーちゃんに手、出すなよ」
聞き慣れた大翔の声。
うん、でもお前らがこういう状況にしたんじゃなかったっけ?っていうか言っちゃったね。姉弟ってばれちゃったよ。めんどくさそうに仏頂面の大翔の後ろには翔がいた。まだ笑ってるし。お前1回死んどけ。
「おい。早く行くぞ。そんな手ふりほどけるだろ」
ふりほどくのは無理だけどね。止めていた足を再度動かす。すねを蹴るのは悪いので、膝かっくんにしておく。昔から男勝りだった私はこういうのには慣れっこだった。1人の手が外れると、ふりほどくのに時間はかからなかった。時計を見ると、昼休みはまだ30分も残っていた。さて、どこに逃げよう?
「美羽。早く行くよ」
翔に言われ無意識に横に並んだけど、これ以上一緒にいたら帰る頃にはアザだらけだな。それは嫌だ。
「知らない女子に手だしちゃだめでしょ」
翔がやんわりと注意してくる。
「手はだしてないから」
足は出したけどな。
「それよりさ、久しぶりに一緒にテニスしない?今から昼練するんだけど」
「やだ」即答。
この状況でよく言えたな。っていうか脅迫に耐えられる人、見つけたかも。
まあ、脅迫した本人だったけどな。
「いいじゃん。俺、美羽とやりたい」
「さようなら」
急いで、保健室に向かおうとすると腕をつかまれた。翔だった。
優しくつかんでいるが、やはり女子とは比べものにならない。ふりほどけない。
「やるよね?」
翔は怖いけどね、それ以上に女子が怖い。あの壁は、トラウマになりそう。いや、もうトラウマになっている。
「女子のみなさなが、私に絡まないようにしてくれたらね」
「分かった。コートに俺のラケットも、持ってっといて、大翔。よろしく」
まじで?
「何で俺なんだよ」
溜息をつきながらも大翔の足は男テニの部室へと向かっていた。
「まあいいや。今日、昼練まだだし。おい、早く部室、行くぞ」
本気ですか?
でも一人でいてもなー。翔に期待するしかないか。これ以上はあがいても仕方がないと悟った。小走りで大翔に追いつく。
大翔も背が高い。何で私の周りには長身の人が多いんだろう。いや、2人しかいないけど。
私の小ささが目立つ。