迷い
「あの、どこまで行くんすか」
教室を出てから、校舎を出て今。体育館裏にいる。
「いやぁ」
そう言うと、芳須は俺の方を向いた。
「迷っちゃった」
あほか。
「ここどこ」
「体育館裏」
この人、実は天然馬鹿なんじゃないのか?
「あの、美羽とどういう関係なんですか」
この人の正体はまだ分かっていない。
「ん?そうだな。幼なじみ、かな」
幼なじみ?
「でも、転校してきたって」
「そうだけど?」
「じゃあ、昔ここに住んでたみたいな?」
「うん。そう」
「へー、大翔のことも知ってるんですか?」
「まあね」
「あの、何で美羽の前なんですか」
「ああ、席のこと?俺がそこがいいっていったから」
何て適当な担任なんだ。
「大丈夫。美羽ちゃんの教室でのことはちゃんと見張ってるから」
なんで、大丈夫に聞こえないのかが不思議なてんである。
「それよりさ、プライベートなこと聞いていい?」
何を聞く気だ、この人は。
「もしかしてさ、お母さんと二人暮らし?」
「は?」
なにを言い出すんだこの人は。しかも今に限って。
「再婚でもした?」
その質問に、むっとする。
「それがなにか?あと、俺は今美羽の家で一緒に暮らしてるんで三人暮らしですけど?」
なんなんだこのひとは。
人のことに首突っ込んで。
「いや、そんなに怒んなよ。俺の弟がさ、翔気って名前で。俺はお父さんに連れてかれたんだけど、弟はお母さんに連れてかれたらしいからもしかしたらって思ってね」
「だからなんだよ」
今更そんなこと言われても。
「もう、関係ないことなんで。じゃ、勝手に迷っててください」
後ろを向いて歩き出す。
「おーい、元気にやれよ」
なにを家族っぽいこと言ってんだあの人は。
そう思って一度立ち止まる。
「変な勘違いしないでくださいね、俺とあんたは関係ないんで」
それだけ言ってからまた歩き出した。
その話はもう、終わったことなんだ。




