退場
「美羽ー」
女子のひそひそと話したり、キャーと言ったりしている声で気づくのは、遅すぎたかもしれない。
なんでいるんだよ、翔。即刻退場だよ。ていうかなぜに来た。文明の利器を有効活用しようぜ。
「ごめん。ちょっと」
ていねいに断って行く。もちろん、走って。
人がいないところに即刻連行だ。
「何?」
なんで翔がムッとしてんだよ。
っていうか“何”って・・・。
あー、そうだった。翔はモテているという自覚がないんだった。
つまり、あれが普通。日常。なめとんのか、ワレィ。
「用は?」
「弁当、やっぱ今ちょーだい。昼練あって、取りに行けそうにないから」
「うん。・・・いいけど教室こなくてもメールしてくれればいいのに」
「え?だってどうせ取りに行くでしょ」
・・・だめだ。今回は無自覚に免じてゆるしてやるが、
「次からはメールして」
「りょーかい!」
ホントに分かってんのかい。
「えーと・・・ここで待ってて。大翔の分も届けてくれる?」
「やだよ。遠いもん」
私も嫌だ。周りがうるさいから。
まぁ、大翔なら16年も姉弟やってるからメールしてくれるだろう。
教室に戻るとさっきよりもうるさかった。そしてこう聞かれた。
「なんで翔気くんと大翔くんという1年生の2大イケメンがあんたに会いに来るのよ?」
残念。16年、姉弟やってても人の思いは届かないようだ。
っていうか怖いっすよ。あの優しい笑顔はどこ行ったんすか。
「まさか、どっちかと付き合ってる?」
ちなみにこの発言は男子。
弟と付き合えないけどね。まあ、姉弟だってこと黙ってるからそう思うか。
「しかも2人とも呼び捨てだったー!」
「ねー!いいなー」
大翔には、ばれないように学校では名前で呼んでもらっている。
私が頼んだんだけどね。
なんで?って、絶対周りが騒がしくなるから。ちなみに中学ではそのせいで最悪な時間を過ごした。
一時期だったけどね。
みんなに答えてると疲れそう。
いや、すでに疲れてきた。
・・・だからメールしてほしかったのに。そのための携帯だよね。
いつ、使うんだよ。
悩んでもしょうがないから大翔にメールした。
まさかとは思うが2回目の退場とかないよね?
嫌な予感しかしないんだけど。
・・・・・・あったし。