先生
昼休みが終わる頃に教室に戻ったら、凌くんが話しかけようとしてた。
なんなんすか、私の平穏の日々のために動こうとは思わないのか?
それをチャイムが遮った。
ま、ろくな事を話さないだろうからいいんすけどね。
授業が全く頭に入ってこない。
苦手な単元なのにやばいな。
いや、説明すれば分かってくれるはずだ。
言い訳を聞いてくれ。
まず、視線が痛いだろ?
そして精神的にきついだろ?
追い込みとしては・・・?
なんだろな。
うん、だるい。
体がだるい。
あぁ、熱があるな。
「熱い」
「・・・夏だからな」
あぁ、そうだったな。
「って誰だよ」
とかいって、顔を上げたら先生が目の前にいた。
みんなの視線も集まっている。
男子は、爆笑していた。
「いいつっこみだが、残念だったな。先生にその言葉遣いはいただけん」
おぉぅぅ。
化学の先生。
名前覚えてないけど、今の授業が確か化学だったからそうだろう。
なんか、白衣似合わなそう。・・・化学の先生なのに。
白衣を買って着て鏡の前に立ってみたらあら不思議。
・・・なんてことをしたことがあるに違いない。
「誰ですか・・・?」
「そうだ。だが、先生の名前くらい覚えておくんだな」
いや、友達の名前は覚えられても先生の名前まで覚えている人なんているのか?
「飛騨先生だよ」
前から小さな声がしたと思ったら・・・。
凌君、あなたは天才なの!?転入一日目で先生の名前覚えたの!?
とか思ってそんした。
そりゃ分かるよ。
だって名札が胸元に付いてるもん。
そこに、例の白衣の似合わない顔とでかでかとした文字で“飛騨大悟”って書かれているんだもん。
ありがたいことに、ふりがな付きで。
先生、いらない心配はしなくて良いと思うよ。
「あとで、ノートを集めて準備室に持ってこい」
「雑用を生徒に罰として押しつけるのはどうかと」
「先生に“誰だよ”っていうのはどうかと」
反論もむなしく。
この先生やるな。名前を覚えておこう。
みたいなノリかな。
あの、有名な漫画の剣を使う鷹の目のひとが腹巻きした男に言ってたのって。
「俺の名前は飛騨大悟だ。覚えておくと良い」
逆バージョンきた~。
「覚えておいて良いことあるんですか?」
「あぁ。化学の成績が悪かったら俺の顔を思い出して質問に来ると良い」
「成績が悪かったら行きます」
「じゃあ、今日の授業後も来るんだな」
「・・・はい」
なんてことだ。




