お泊まり
そうか、そういうことか。
今日はやけに荷物多いし、ゆったりしてるなとか思ってたら・・・。
はめられた。
再度、敵認識。
「そろそろ帰んなくていいの?」
夜10時にまだ家にいたから何となく聞いた。
「ん?あー。今日から、泊まるから」
「ごめん。聞こえなかった」
っていうかなぜにだ。そんな短文聞いたことないぞ。っていうか主語はどこだよ。国語ほんとに勉強してんのか?文系だろ、お前。
現実逃避にはしる。
「おーい。美羽、聞いてる?」
いいえ、まったく。
「俺、どこで寝ればいいの?」
・・・床で。
ガチャ!リビングのドアが無造作に開け放れたあと、私は今までに無いほどに褒めたくなった。
そして、にやけた。(一応、自覚はある)
グッドタイミングだ、大翔!!
「キモい」と言われたが今は聞かなかった事にしてやる。
「なんで、翔いんの?」
そうそう。それだよ、我が弟。うんうん。
「お前、聞いてなかったのかよ」
そう!聞・・・?
「何を」何を?
「今日から泊まるって言っただろ」
はい?
「あー。そうだったな」
えーと。お姉ちゃん聞いてないけどな。
「おい、ねーちゃん。今日からこいつうちに泊まるから」
そう言い残して、大翔は2階へと階段を上っていった。
我が弟ながらなんて勝手な。涙が出てくるわ。
えーと。確か「今日から」って言ったよね。・・・意味知ってんのか?
「今日から」それはつまり、うちに毎日、泊まるということか?いや、違う。
きっと、大翔と翔が言い間違えたか、テレビの音がかぶったか、幻聴の類いか、私の耳が変になったか・・・
「美羽ー、部屋どこー?」
だめだ。
1つだけ分かったことがある。
現実逃避は意外と役に立たない実用性の薄いものだ。
確か、お父さんとお母さんのベッドがあったと思う。2階に見に行くがあいにく冬用の毛布だった。ちなみに2人は現在、海外で仕事中。
さすがに、翔とはいえソファで寝ろとは言えない。親しき仲にも礼儀ありだ。天才、私。
「翔、私の部屋で寝て」
「女子の部屋で寝ていいの?イヤーン。それとももしかして俺、男子って認識されてない?シクシク」
いちいち感情のこもっていない擬音をつけるな。あと、安心しろ。お前のことはちゃんと認識しているぞ。・・・敵として。
「早く」
「美羽は、どこで寝んの?・・・まさか俺と!?」
「なわけ。ソファで寝るよ。どうせ1晩だけだし」
明日は、お母さんたちのベッドを夏用に変えて寝てもらう予定だ。
「え。じゃあ、俺がソファで寝るよ」
「いいよ」
「いいの。俺が寝たいの」
なわけないでしょ。
「悪いよ」
「はい。いいから、いいから。おやすみ!美羽」
強引に階段前までいかされてしまった。やっぱ翔とはいえ、イケメンは違うなー。
そんなのんきなことを思っていたのは事実だが、翔のせいで数秒間そこを動けなかったのも事実だ。最後の笑顔は反則だと思う。