夏詩くんの暴走 part2
結局、一日経っても犯人は分からなかった。
今はというと、学校の門にもたれかかって、大翔と翔を待っているのだ。
もう、部活が終わってから30分はたった。男子テニス部は終わるのが遅いのだ。読書の本を持っていて良かった。
「早くしてくれよ~」
本を読みながら心のままにつぶやいてみる。
「誰に言ってんの?」
思わず、肩をびくつかせる。声の方を向くまでもなく、その声は私の耳にしっかりと刻み込まれていた。ま、16年姉弟してるからね。
「大翔、翔。遅い。レディーをこんなに待たせるな」
「どこにレディーがいるんだよ」
「ひどいな、大翔」
軽口を叩く余裕がある。大丈夫。
「そうだぞ、大翔。こんな美羽でも、実は女なんだぞ」
翔がうるさい。
「知ってるし」
「うるせー」
っていうかなんだよ、その言い方は。
「もー、いーや。早く帰」
「美羽せんぱーい!!」
私の名前を大声で呼びながら、バカみたいに・・・。訂正します。可愛い子犬みたいに私に向かって走ってきたのは、皆さんご存じ、夏詩くんである。
「夏詩じゃん、美羽のこと知ってたんだ」
「らしいよ」
翔が不思議そうな顔をする。は、イケメン。
「っていうか何で美羽、夏詩のこと知ってんの?」
「え・・・」
何でと言われてもなあ。
「美羽先輩」
いつの間にか、私の近くに来ていた夏詩くんに名前を再度呼ばれる。
「はい」
「一緒に帰りましょ」
「いやいやいや、意味不なんですけど?」
「俺の彼女でしょ?」
「ほんとにそれやるの」
「うん。約束でしょ?」
小声でやりとりする。
「美羽」
顔を上げると、翔と目が合う。なんか知らんけどムッとしてるし。こんな顔してても、イケメンは得だよなぁ。
「早く帰ろ」
「うん」
私だって、夏詩くんさえ来なければ帰るつもりだった。っていうか、待たせてたのはそっちだけどね。
「美羽先輩は俺が送ってく!」
おいおい、夏詩くん。君は友達が怒っているということを感じ取れないのか。
「お前、家反対だろ」
「だって俺、美羽先輩の彼氏だもん」
この言葉には、スマホをいじっていた大翔も顔を上げた。翔なんかは、間の抜けた顔をしている。もう一度言っておく。イケメンは得だよなぁ。
それと、夏詩くんの言葉を心の中で訂正しておく。(仮)だけどね。
「は?」
翔が、不機嫌きわまりない声を出した。顔はいつの間にか、また怒った顔に戻っている。
「ね?美羽先輩!」
えーっと、これは“はい”とでも言っておけば良いのか?
「ね?」
うん、私は押しに弱い。
「はい」
「えーーーー!!!」
翔、うるさい。




