ストーカーくん
だいたい噂を流した人には目星がついている。それはきっと、私のストーカーくん。
回れ右をして今来た道を戻る。ストーカーくんは、階段にいた。私が戻ってきたことと、自分に向かってきていることにちょっと驚いているようだ。
「あの、」
声をかけると、ストーカーくんの目が前髪の下で見開かれた。
「・・・。」
なにも言わない。
「あなたですよね。私の噂、ながし う!っわ」
突然手を引かれた。階段をどんどん上っていく。立ち入り禁止のところまで入ってしまった。
私はちょっと息切れしてたのに、ストーカーくんは、全然息を切らしてなかった。
「なんですか?」
「用はなんでしょうか」
こいつ、分かってるくせに。っていうか
「あの、とりあえず手離してください」
びっくりしたように、手をすぐ引っ込めた。下を向いてしまったが耳が赤いので、顔もきっと赤いのだろう。
「あと、私のことストーカーするのやめてくださいね」
いきなり顔を上げた。あ、やっぱり赤い。
「あと、噂流したのあなたですよね」
「は!?」
私の“ね”とかぶった。さっきから、素早いな、いろいろ。
「違うんですか?」
「違う!」
スゲー勢いと声の大きさで、否定された。
「・・・本当で」(すか?)
「本当だよ!」
最後まで言わせてくれなかったし。
「じゃあ、いいです。もう私のことストーカーしないでくださいね。」
「・・・してねえ」
「は?」
「ストーカーなんてしてねえよ」
「いやいやいや、さっきだって私のこと、つけてたじゃん!」
「つけてない。教室から廊下を見ていたら、たまたま見かけたからどこ行くのかと思って、後ろを歩いてただけだ」
「同じじゃん」
「いや、全然違う」
「・・・じゃあ、家の近くまで来てたのは?」
「あれは、部活がなかったからキミの家を見に行ったんだ」
「完全にストーカーですから。・・・じゃあもう行きますから、そういうことやめてくださいね」
さっきから何回か、スマホがブルブル震えている。大翔や翔かも。
回れ右をして、階段を下りようとすると右手首をつかまれた。痛いんですけど。
「なんですか?」
「あのさ・・・」
早く行きたいのだが。
「好きなんだけど」
「は?」
この“は?”を大翔や翔が聞くこととなる。




