**オカイモノ。
とにかく私は荷物を出して、机の引き出しやタンスにしまった。
やっと気づいたけど……私、女物の服しか持ってきてない!?
歯ブラシとか文房具とか、世界一有名なネズミのしか持ってきてない。
こんなん男なんだから使えないよ〜!
私がどうしようと悩んでいるときに、
「まず私服に着替えよーよ。
制服っってネクタイとかベルトとかきつくない?」
なんで気づいちゃうの。
今『女物しか持ってきてないんだよね〜』とか言えるわけないし。
なんていおうか迷ってるうちに、杜和は荷物を覗き込んできた。
さっと隠し、平静を装う。
「お、俺、今日急に背伸びちゃったっていうか?
持ってきた服着られないから買ってくる」
我ながら、超ナイスないいわけだと思う!
「急にって……ふふ、おかしいね。衣良くん。
僕今ヒマだから一緒に服見に行く〜。いーよね?」
「う、う、うん」
あんまり今杜和と一緒にいたくない。
なぜなら、素=女が出てしまいそうだから。
でもここで断る理由が浮かぶほど頭の良い私じゃなかった。
徒歩15分くらいで着く距離にある店。
ちょっとの距離だけど、そんな間も緊張する。
「ねー衣良くんは勉強得意なほー?」
「まあまあ、かなぁ。中学で上位10位には入ってたってくらい?」
「まあまあ!? すっごい頭いーね! 僕なんていっつも100位以下だよ……」
「でも俺は運動がぜんぜん。50m10秒」
「あ、でもねぇ僕運動は得意だよ? 幼稚園時から剣道やってんの!」
そ、そうなんだー。
緊張で乾いた笑いしかできない。
でも、この人が剣道……すごく弱そうで守ってもらう側っぽいのに。
「杜和が剣道やってるとこ見てみたいなぁ、なんて」
「毎日7:00から道場で稽古してるから見に来なよ。
案内したいし、明日僕と一緒に学校いこーよ」
「あり……がと?」
会話しているうちに、店に着いた。
とりあえず会話が続いたことに安堵する。
店に入って初めての男物コーナーを眺める。
男子の今はやりの服とか分からないし、どうしよう。
「衣良くん! こんなんどー?」
そういって見せて来たのは、猫とネクタイがプリントされた白いYシャツと黒いスキニージーンズ。
地味だが、ちょっとおしゃれ。
杜和のセンスを感じるセレクトだった。
「ありがと。着てみる」
「良かった〜! 僕もうちょっと探してみるよ」
試着室でその服に着替えてみる。
ちょっと緩めだったが、ほぼ私にぴったりだった。
「どう?」
「すごいいい感じ! ほら!」
「ちょっとおっきい? でも似合ってる」
「でもだいじょうぶ。ほんとありがと」
似合ってるって男に対して言ってるのは分かるけど嬉しい。
レジでは、杜和が歓迎の気持ちと称してお金を払ってくれた。
普段から誰に対しても優しい人なんだと思った。
買った服を着て帰ることにした。
帰り道、行きよりは緊張せずに会話を楽しめた。
すると。
「あれ……雨!?」
周りが林しかないところでいきない大雨が降ってきた。
雨宿りもできず、先ほど買ったばかりの服は濡れてしまった。
透けないか不安だったが、杜和が着ていたパーカーを被せてくれたおかげで透けはしなかった。
通り雨だったようで、少し店に入って待っているとすぐに止んだ。
とはいえ、もうお互い服はびしょ濡れ。
髪はお風呂上がりのようで、靴の中までしみこんできている。
「まず帰ろう。それでお風呂入って、今着てる服はハンガーにかけて干す!」
風邪を引きそうだったので、走って寮へ戻った。