**トワトノデアイ。
男装ってあれか、あの女が男の格好するっつーあれか。
え、あれを私がやるの? この高校で?
「まさか……聞いてないの!?
あなたの親御さんが安いからどうしても入れさせてくれって。
だから我が校初の処置、男装で入学許可したの。
そういうことだから、まず着替えてみて?」
そういうこと、って言われても全然脳内で整理がつかない。
とにかく男装して女ってことを隠して生活しろ、ってことなんだろう。
「ん? 私、寮に入るんですが……」
「ああ、知ってるわよ。
ルームメイト、男の子だけど大人しい子だから大丈夫」
なにが大丈夫だ、なんで親は私に言ってくれないんだという不満が爆発しそうだったが、この高校に来ないという道はなく、私には拒否権がないことがわかった。
たしかに、ママはすごくお金が好き。
ちょっとでも無駄遣いするととっても怖かった。
でも……普通娘が大切なら男子校に入れたりするか?
悪いことばっかり考えてしまい視界が少しぼやけた。
ネガティブな気持ちを消すように、男子の制服を着てみることにした。
「あらぁ似合ってる!
これからは私じゃなくて、俺って言ってね?」
似合ってるって言われてもあんまり嬉しくない。
とりあえずわた……いや俺は微笑んでおじぎした。いちおう、ね。
「じゃあ、寮の案内をします。
ルームメイトやお隣さんとかとも会うから、言葉遣い気をつけること!」
「はい、お願い、します……」
一番不安なこと、それはルームメイトだった。
これからずっと同じ部屋で暮らす男の人。
怖い人だったらどうしようとか考えながら、史織についていった。
……「ついた。ここがあなたの暮らす寮、七つ星荘」
上を見上げると、4階建ての寮。ここが私が3年間暮らす寮。
一つ星荘と比べるとだいぶ古く見えた。
中に入ると、そこには坊主頭のいかつい人が笑顔で迎えていた。
「こちら、ここの寮長の安藤先生。数学教師」
「どうも、安藤です。衣良くん? よろしく!」
怖そうだが、目尻を下げて笑う優しそうな人のようだ。
私があいさつしていると、史織が耳元でこう言った。
「安藤先生にだけはあなたが女だって言ってないの。気をつけて」
なんでこの先生だけ。ちょっとかわいそうなんだと思った。
安藤に連れられ、私の部屋に初めて入った。
初対面を果たした部屋は、トイレ、お風呂などの他に2部屋あった。
1つは電気のついた机やテレビ、キッチンがあるリビング。
もう1つは2つのベッドが並ぶ寝室だった。
そのベッドには、だれかが寝ている……?
「櫻井くん! ルームメイトが来るって言ったでしょ!」
「ううーん。なに……」
「ほら、起きる!」
史織が無理矢理布団を剥がすと、そこにはとても可愛らしい男の子がいた。
いきなり起こされ、ちょっと不機嫌。
のびをして、盛大にあくびをすると、目をこすりながら辺りを見回して私に気付く。
「あ! きみが僕のルームメイトの衣良くんっ? よろしく〜っ」
「雪代衣良です。よろしくおねが……」
「そんな固くなんないでよ〜。
僕は櫻井 杜和。杜和って呼んで?
きみは……衣良くんでいっか」
背は私よりちょっと高いくらいで色白でまつげが長い。
髪は肩につくぐらいで、ちょっと茶色に染まっている。
まん丸い目と人懐っこい笑顔。
前髪をピンで留めているので、とても可愛い女の子のようだ。
「じゃあ、私たちは仕事に戻るから。仲良くやるのよ?」
「はい、ありがとうございました!」
散らかさないでね〜と言いながら先生たちは去っていった。
今さらだが。
現在この広くはない部屋に男子と二人っきり。
なんかこの人……
「近く、ないですか?」
「ん〜? なにが〜?」
そういってにやっと笑うと、肩をくっつけるくらい近づいてこっちを見つめてきた。
「べつに男同士なんだし、気にせずいこ、ね?」
「はい……」
「けーごやめて? やめなきゃだめ」
だめだ、私この人のペースに乗せられてる!
そう気付いたが、抜け出すことができそうにない。
私……この人と上手くやっていけるのかな?
私はたぶん、杜和的男子がいちばん好きです。
茶髪で目くりくりしててぺたっとくっついて甘えてくる……みたいな。
私の妄想がいちばん出るのが杜和くんだと思う。