**トワノコウカイ。
今日も部屋に帰ると由佑の手作りご飯があって、レンジで温めて食べる。
でもいつもと違うことがひとつ。
それは、私が女の子の格好をしているということ。
なぜ私が女になっているかというと、杜和が女姿の私を見たいといったからだった。
白のパフスリーブブラウスにデニム生地のスカートに黒のハイソックス。
「こうして見ると、ふつーにかわいい女の子だね。
なんで気付かなかったんだろー?」
女だってわかったんだから、かわいいとか言わないでほしい。
だって……
「どうしたの? 顔が真っ赤だよ!? 熱でもあるんじゃ……」
恥ずかしいから。男の子にそんなこと言われてこなかったし。
少し私がうつむくと、杜和が私に顔を近づけて来た。
な、なに。そう問うても答えず、ただ潤んだ瞳を私に向けて来るだけ。
するとちょっと首を傾げて、
「また真っ赤になっちゃった。だいじょうぶ?」
と言いながら、また近づく顔と顔。
さらに赤くなっているのがわかった。なぜ急に彼はこんなこと……。
戸惑っていると、私の前髪をあげておでこ同士をくっつけた。
なんだ熱を測るだけか。そう思うも安心できなかった。
「顔……っ! 近いよ……」
「え? なに? とりあえず熱はないみたい。よかった!」
このかわいい悪魔は私のドキドキを微塵も分かってくれないらしい。
にこっと笑い、私の前髪を直しついでに頭をぽんぽんと撫でる。
「疲れちゃってるの? ここで寝なよ」
「たしかに最近色々あって疲れちゃったかも。ごめんね」
お言葉に甘えてリビングの床に寝転がる。
優しくかけてくれたブランケットの中に顔をうずめながら、私は深い深いあたたかさの中に沈んでいった……。
僕は衣良が寝たあと、あまったご飯を食べ、1人でチョコレートをつまみながらテレビを観る、というぐうたらモードに入っていた。
くるっと後ろを振り返ると、スカートを履いた女の子の寝顔。
衣良の前に寝転がって、彼女の顔をじっと眺める。
むにゃむにゃ言う衣良の顔をつついても、まったく起きる気配はない。
「ふふ、かわいい女の子だなぁ」
そうつぶやいた時、インターホンが連打された。
今衣良は深い眠りについているので音を立てないように、でも早くかぎを開けて顔を出した。
思った通りドアの前には夏帆がいた。
夏帆はふだん物静かで大人っぽいが、なぜかインターホンを連打するという遊びが好きらしい、というかクセになっているようだから予想できた。
「杜和さん、今日女性からチョコレートをいただいたんですがどうですか?
僕はチョコレート食べられないので」
「え、いいの!? ありがと〜」
「あと申し訳ないのですが、うちのテレビが壊れてしまったので少し観てもよろしいでしょうか? 好きなバイオリニストさんが出演されるんです!」
もちろんいいよ、そう言って扉を開けて迎える。
後ろに夏帆を引き連れながら、リビングに入る。
その瞬間、僕は大きな声で叫んだ。
「あ、衣良くん!……」
当たり前だがリビングには衣良が寝ていた。
それもスカートを履き、前髪をピンで留めている『彼女』が。
後ろから夏帆はリビングを覗き込む。
「ちょっと見るなっ」
そういうのも遅く、夏帆は口を大きく開けたまま止まっていた。
「衣良さん? あの格好は……?」
時すでに遅し。
もう隠しようもなく、逆に言い訳をしていると衣良は女装してる人、というイメージがついてしまうので正直に話した。
秘密にしていてね、と言われたばかりだというのにもう広めてしまった。
後悔が押し寄せてきてうなだれている時に衣良はぱちっと目を開いた。
眠そうながら夏帆を捉えると、一気に目を見開いて叫んだ。
「きゃあああぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!」




