**フツカメ コクハク。
星高の文化祭は、2日間にわたって行われ、1日目に店を出して2日目に店を回る人とその逆に分かれる。
私たちは前者。なので今日……2日目に店を回る。
コスプレ係たちはコスプレのまま回る!? という杜和の提案が採用され、私はまた恥ずかしいゴスロリで学校を歩き回る。
「あの、一緒に写真撮ってくれませんか?」
「ほえ?」
後ろから女の子に声をかけられた。
「あたしから男性に写真撮ってっていうの初めてなんです。
恥ずかしいんですけど、彼氏とかもいたことなくって……」
「ん、そんな緊張しないでいいよー! ほらにっこり!」
私は緊張でがちがちになっている女の子のほっぺをつまみ、上にあげた。
気づくと、その子の頬はどんどん赤くなっている。
「ごめん! 痛かった?」
「だ、だいじょぶです……。あ、あの! 彼氏になってください!」
「……え!? ごめん、今俺は彼女とか作らないから」
「じゃあ、1日だけあたしの彼氏になってください。お願いします……」
そういうと彼女は、さらに顔を下に向け紅潮させ、目にはキラキラと光る涙が溢れんばかりに浮かんでいる。
私、女なんだけど。そう言えるわけもなく。
「泣かないで。わかった、1日だけ。名前と連絡先おしえて?」
「前野 みのりっていいます。すみません……」
お互いに連絡先を交換し、私はみのりを落ち着かせるために頭を撫でた。
あとでデートの日を伝えるといわれ、私たちは別れた。
私は杜和たちが待っているはずのオブジェ下に走って行った。少し遅れたかもしれない。
オブジェ下にいたのは、なぜか稜だけ。
「あれ、杜和たちは?」
「なんか……とにかく食ってくるっつってた。俺らで回ろーぜ」
言いづらく、みのりのことはまず言わないでおこうと思った。
校舎内を歩き回り、私は食べ物を買おうか悩みながらも決断できなかった。
それまでなににも興味を示さなかった稜がある店にだけ目を輝かせた。
その店は、
「なぁ、おばけ屋敷入んねぇー?」
「んーわ、かった……」
私はこの時言えなかった。おばけが大の苦手だということを。
今までおばけ屋敷入ったことはなく、その理由は怖いからだった。
中に入るともちろん真っ暗。
とある部屋に入ると、私の真横にあった樽からゾンビが出てきた。
その瞬間、私の心臓は大きく跳ね上がった。
「おわっ!?」
私は稜の上着の裾を全力で掴んでしまった。
彼は私の方を振り返り、
「もしかして衣良、おまえ……こういうのだめか?」
「ごめん……。ほんとにむり」
「早く言えよ。俺は入らなくても良かったのに」
その時私の腕を掴んだ稜は出口に向かってダッシュした。
やっと外の光が見えて明るいところに戻ってきた。
するといきなりまた走り出し、誰もいない真っ暗な空き教室に連れられた。
「どうしたの?」
私に体の正面を向けた稜は、私の着ているゴスロリの胸元にあるリボンをほどいた。
ボタンもなかった服はかなり胸元がのぞく。
「なんでこんなこと。ほんとにどうしたの?」
「おまえが可愛すぎるからいけないんだ……っ!
怖がって俺の服掴んだとき、はっきり気づいた」
私の目をまっすぐに見つめる彼の瞳に引き込まれてしまうようだ。
ちょっと赤いかもしれない。いや、ちょっとどころか耳まで真っ赤だ。
「俺、衣良のことが好きだ。おまえが俺をどう思っていようが好きだ」
「私も好き、だけど、多分稜の気持ちとは違うと思う……」
「今返事ほしいわけじゃないから。心が決まったら返事して」
いつもとは違う熱っぽい声で名前を呼ばれ、不思議な感覚。
私の手を上にあげて片手で押さえると、私の鎖骨に口づけた。
「好き」
そう何度も繰り返されながら私の鎖骨にキスをする稜を私は直視できなかった。




