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第五話 再会

 私と鈴音のお父さま、望月金剛が失踪したのは十年前。

 この世界に、「預言者」望月金剛が現れたのも十年前。

 でも、まだだ!

 同姓同名の他人の可能性もある!


 「その預言者が戦場に出てきたことはあるの?」


 真剣な表情になったジリヤが答えてくれる。


 『私もリュボフィも、一度だけ戦場で見えた(まみえた)事があります。唐突に大爆発を起こしたり、軍勢ごと一瞬で遠くに移動するなど、伝承に伝わる源頼朝以上に、恐るべき力を持つ存在です』

 

 ジリヤの話を聞いて、鈴音が崩れ落ちる。


「そ、そんな……。お、お父さんが戦争してるなんて……」


 武蔵が、青ざめた表情の鈴音の肩を抱きながら。


 「おいおい、そんなとんでもないのが、金剛おじさんのわけじゃないかきっと人違いに違いないよ。あんなに優しかったおじさんが、戦争なんてするわけないだろ!」


 私は血がにじむほど強く両手を握りしめながら。


 「お母さま、望月マルレーネは吸血鬼。吸血鬼と普通の人間が結婚すると思って? 二人の結婚に反対するおじいさま、これはお母さまのお父さまなんだけど……。吸血鬼は年を経る程、強大な力を振るうようになる。四百年以上生きているおじいさまを、お父さまはその圧倒的な超能力で打倒して、結婚を認めさせたのよ? 同姓同名の凄い超能力者なんて他にいるはずがない。間違いなく、預言者はお父さまよ」


 武蔵は唖然として、つばを飲み込んでから。


 「ちょ、超能力者?! で、でも、鈴音には超能力なんてないだろ。響はダンピールだから、凄い力があるんじゃないのか?」


 私は(かぶり)を振りながら。


 「私の超能力はお父さまの血から受け継いだものよ。鈴音は、お父さまとお母さまの、普通の人間として暮らしたいという願いから、普通の人間の女の子として生まれたの。両親が持つ超常の力は、長女の私だけが受け継いだのよ」


 武蔵が血相を変えて。


 「響だけって! お前、そんなんでいいのかよ!」

 

 私は淡く微笑みながら。


 「いいのよ。両親の業は長女である私だけが背負えばいいの。鈴音は私にとっても、夢と希望を叶える大切な存在なのよ」


 鈴音は嗚咽の声を漏らして震えている。


 だけど、お父さまの事はどうしたらよいのか。

 私たちが日本に帰るにはどうしたらよいのか。

 自問自答しても仕方がない。

 考えるのはエルフたちを問い詰めてからにしよう。


 「源頼朝は倒されたって事は、源義経たちに殺されたのよね。預言者を殺害する以外に、戦争を終わらせる方法はないわけ? それと、私達が日本に帰るにはどうしたら良いのか教えて頂戴。まさかこのまま、この世界に骨を埋めろだなんて言わないわよね」


 ジリヤは腕を組み思案顔で。


 『託宣の巫女の話では、預言者が持つ預言書を燃やせば、唯一神と預言者の繋がりを断ち切ることが出来るそうです』


 預言書?

 ジリヤに視線で先を続けるように促し。


 『唯一神は、預言者に相応しい人物を探すため、この世界だけでなく異世界にも預言書をばら撒いているそうです。預言者に相応しい人間が預言書を手にした瞬間に洗脳することで、預言者に仕立て上げているとか』


 「つまり、預言者というのは預言書のせいで、唯一神の傀儡にされているわけ?」


 私の問いにジリヤは首肯を返し。


 『その通りです。預言書を預言者から取り上げることが出来れば、望月金剛も正気に戻るはずです。貴方たちを元の世界に戻す手段はありますが、戦争が終結するまでは勇者さまをお帰しするわけにはいきません」


 勝手な言い草に腹が立つけれど、口論しても帰してくれるはずもない。

 不毛な言い争いは止めておこう。


 「とりあえず、お父さまは取り戻したいから、暫くの間は付き合ってあげるわ。でも預言者を何とかした後は、貴方たちで戦争の後始末ぐらいつけなさいよ」


 渋面になったジリヤに代わり、リュボフィが口を開く。


 『響の姉ちゃんの言う通り、預言者をハライソから排除した後の始末ぐれえは俺たちでケツを拭かねえとな。いいだろう。族王さまには俺から進言申し上げる事を約束しよう』


 『リュボフィ、貴方はまた勝手な事を!』


 リュボフィはジリヤの肩を叩きながら。


 『そもそも、勝手なのは俺たちの方だろう? 族滅の危機にあるとはいえ、俺たちの戦争は、本来勇者さまたちには関係ねえ話じゃねえか。預言者さえどうにかしちまえば、天使どもは消えて残されるのは烏合の衆だ。残り物は俺たちが蹴散らしてやればいい』


 『……分かりました。私もリュボフィと一緒に、族王さまに進言申し上げる事を約束します』

 

 黙って話を聞いていた、武蔵が鈴音を抱き上げて立ち上がる。


 「話は分かった。金剛おじさんを日本に連れ戻すために、俺も戦うよ。鈴音は俺達がおじさんを連れ戻すまで、安全な場所で大人しくしていてくれ」


 鈴音は涙声を押し殺しながら。


 「だ、だめだよ。私のお父さんなんだから。お姉ちゃんと武蔵ちゃんが戦うなら、私も一緒に戦う!」


 「鈴音、お前が戦えるわけないだろ!」


 興奮する二人の肩をやさしく叩いてから。


 「二人とも、落ち着いて。肝心な事を見落としているわよ。この世界のエルフの敵は人間なのよ。貴方たちを人殺しにはしたくない。人間の相手は私が相手をするから。でも武蔵は男なんだから、魔族とだけ戦って頂戴。人間とは戦わずに済むように、私が援護するから。鈴音は戦場に立たない方がいい。でも万が一に備えて、この世界で生き延びるために必要な力だけは身につけなさい」


 鈴音が涙声になりながら。


 「そ、そんな……。お姉ちゃんだけ人殺しなんて」


 鈴音の頭を撫でながら。


 「いいのよ。全部、お姉ちゃんに任せておきなさい」

 

 武蔵が私の手を握りながら。


 「響、お前だけにそんな重いモノは背負わせない。響と鈴音を護る為に、俺も戦うよ」


 「カッコつけちゃって。でも無理はしないでいいのよ。武蔵は自分が出来ると思う範囲内で、頑張りなさい」


 私達の会話を黙って見守っていたエルフ達に向き直り。


 「勇者として鈴音と武蔵をわざわざ異世界から連れてきた以上、勇者が戦うための何かを用意してるんでしょ?勿体ぶらずに、そいつを寄越しなさい」


 ジリヤは私の問いに首肯を返して。


 『世界樹の根元から生える、特別な七本の枝。勇者様がこの枝を引き抜くと、各々の勇者様に相応しい形状の、神食かんじきの武器となります。勇者様が神食(かんじき)の武器を振るい、魔族や魔物、天使の血を武器に吸わせることで、神食(かんじき)の武器も、勇者さまご自身も、より強い力を帯びる事になります。武蔵さまと鈴音さまも、神食(かんじき)の武器で実戦経験を積めば、それだけ強くなることが出来ます』


 なるほど、勇者と一緒に成長する武器か。

 そんなものがあるのなら、荒事には素人の鈴音と武蔵も、魔族とは戦えるかもしれない。

 だけどそれだけでは足りない。

 

 「勇者たちが強くなる前に戦場に出た場合、すぐに戦死してしまうんじゃないの? 貴方たちは私から見ても十分に強いのに、わざわざ勇者を異世界から連れてくるなんて過酷な戦場なんでしょ」


 私の疑いの眼差しを受けて、今度はリュボフィが答える。


 『勿論、勇者さまと言えど戦場を知らない素人を、いきなり戦場に放り出したりはしねえよ。王都の北側の外れに、混沌を封印した洞窟、通称、混沌の洞窟がある。混沌からは無限に魔物が湧いてくるから、俺たちエルフも最初はこの洞窟で経験を積むのさ』


 ロールプレイングゲームのダンジョンみたいなものかしら?


 「その洞窟は入り口周辺の魔物は弱くて、下の階層に行くほど魔物が強くなるわけ?」


 リュボフィは破顔して私の肩をバンバン叩く。


 「流石、響の姉ちゃん! よく分かってるじゃねえか。魔物の強さは、混沌に近いほど強力になるのさ。そして強い魔物ほど混沌の傍から出来るだけ離れようとしねえ。洞窟の上層部をウロウロする魔物は弱くて、強い魔物ほど下層部で獲物を待ち構えてるってわけだ」

 

 やや青ざめた顔をしながら、武蔵も話に割って入る。


 「なんか、ゲームのダンジョンみたいだな。やっぱ、アレか。ダンジョンの中には宝箱が眠っているのか? はははっ」


 武蔵の虚ろな笑いに、ジリヤが取り繕った様な笑み浮かべ、補足説明をする。


 『武蔵さま、混沌と魔物を封印しているだけの洞窟ですから、宝箱などありませんよ。しいて宝物らしいものを挙げるとしたら魔物を倒すと得られる、魔物の力の源である魔晶石。後は毛皮や爪、牙などは道具や武具の素材として利用できますので、王都で売却するか、薬品店、鍛冶屋などで、薬品や道具、武具に加工することが出来ます」


 「いつも遊んでる狩猟ゲームみてえだな。魔物だけ相手していればいいなら、テンション上がるところなんだが……」


 鈴音と武蔵を背中から抱きしめながら。


 「怖いなら武蔵も、洞窟で魔物の相手だけしていてもいいのよ。鈴音も万が一に備えて、神食(かんじき)の武器だけは受け取って、できる範囲内だけでいいから強くなっておきなさい。自衛の為の力だけは身に着けておかないと、私と別行動している時が不安だわ」


 エルフ達を視線に怒気をこめて睨みつけ。


 「鍛錬を積むための洞窟があるのは結構だけど、十分な鍛錬を積むだけの時間は与えられるんでしょうね? それと鈴音と武蔵、できれば私にも言霊使いになる為の教育を受けさせて頂戴。ジリヤが怪我を治した時の言葉、あれが言霊なんでしょ」


 傷を受けても回復するダンピールである私と違い、人間の鈴音と武蔵にはあの力が絶対に必要だ。


 『魔族の貴方の扱いがどうなるのかは、族王さまのご判断次第です。しかし、勇者様たちには十分なお力を蓄えるまで、洞窟で鍛錬を積んでいただきますし、言霊使いとしての教育もご用意いたします』


 最低限の言質をとったかな。


 「大体の方針は決まったようね。では族王に合わせて頂戴」


 ジリヤはこめかみを押さえながら。


 『魔族の貴方に主導権を握られたようで不本意ですが、最初から族王さまの元に勇者様をお連れするつもりでした。貴方は……そうですね。暴れる気配はないようですし同行を許しましょう』


 上から目線で猛獣扱いされると気分が悪いが、ここでジリヤと不毛な喧嘩をしても仕方がない。

 リュボフィがニヤニヤしながら。


 『響の姉ちゃんの前には、ジリヤは形無しだな。族王様さまとの謁見の前に、リンマ達と森を抜けた広場前で合流しねえとな。あいつらはもう、勇者さまたちを連れて待ちぼうけなんじゃね?』


 「私の事は姉ちゃんじゃなくて、響と呼び捨てにして頂戴。それと勇者さまたちって、鈴音と武蔵以外にも誘拐してきてるわけ?」


 ジリヤが血相を変えて口を挟む。


『誘拐など! 本来なら、勇者さまには礼を尽くしたうえで、母なる大地にお招きするはずだったのです! 勇者さまと魔族が一緒に暮らしているなどという想定外の状況から、戦闘になってしまっただけです!』


 礼を尽くされて招かれても、真っ当な人間が異世界で戦争なんてしたがるかなあ。

 面倒なので反論しないでおこう。


 『おいおい、ジリヤ。そこまでにしておきな。これ以上リンマたちを待たせねえように、さっさと広場に行こうぜ』


 ジリヤも冷静になったのか。


 『では、武蔵さま、鈴音さま、広場までご案内します。足元に気を付けて、私たちについて来てください』


 二人のエルフに先導されて森林の間の小道を歩く。

 所々に小石が埋まっていたりするが、普段から人間、いや、エルフか。

 とにかく誰かが歩くために切り開かれた道らしく、ゆっくり歩く分には支障がない。

 森林に生える木々を見る限り、特に目を引くような変わった樹木は、生えているように見えないが、時々耳慣れない動物のモノらしき鳴き声が聞こえる辺り、やはり、ここは異世界なのだろう。

 鈴音は武蔵と手をつないで、不安そうに周囲を見渡しながら、ゆっくり歩いている。

 戦争は不安だが、武蔵と鈴音が一緒に洞窟に入る事で、吊り橋効果に期待できるかもしれない。

 鈴音の恋の進展の為に利用できるものは利用し尽くそう。


 やがて周囲の樹木の数が減って来て、前方に広場らしき空間が見えてくる。

 目を凝らすと、甲冑を着た4人のエルフと一緒に、すごく見覚えがある人影が見えてきた。

 人間を超える視力を持つ私と違い、武蔵と鈴音はまだ気が付いていない。


 四人の中で、最も視力が良いであろう、朱理はこちらに気が付いたようだ。

彼女が驚く顔が見える。


 やがて、武蔵と鈴音も四人の人影に気が付いたようだ。


 「おい、響! あれって、祐也たちじゃないか!」


 「え、え、あ、本当だっ! 朱理ちゃんたちだ! まさか、朱理ちゃんたちも勇者なのかな」


 この世界に連れてこられている以上、勇者であることは確定だろう。


 「おーい、響、鈴音!」


 「響さん、鈴音さん、それに、大和君?」


 「響ちゃーん、鈴音ちゃーん、愛してるぜっ!」


 「皆さん、少し落ち着きなさい。三人が来てから事情を聴きましょう」


 朱理が私達を呼ぶ声に反応し、残り三人もこちらに振り返り、口々に私達に声をかける。


 広場に到着すると、甲冑姿の四人のエルフの他には……。

 弓道着を着た最上朱理。

 剣道着を着た高雄泉。

 パンツスーツ姿の加賀彩先生。

 普段着のチャラ男の4人が出迎えてくれる。


 「朱理ちゃん!」


 「鈴音!」


 朱理と鈴音がお互いに走り寄って抱き合う。

私が朱理と話すのは、鈴音の後にしよう。


 「キマシ! キマシタワー!」


 よく分からない奇声を上げるチャラ男をスルーして、加賀先生と高雄さんのもとへ駆け寄る。


 「加賀先生、高雄さん、貴方たちも、エルフに拉致されたのですか?」


 『拉致などと! 騎士を愚弄する気か! おい、貴様! まさか、魔族か! 何故、魔族がここにいる!」


 激昂するドレッドヘアーのエルフと私の間に、リュボフィが割って入り。


 『リンマ、そんなに興奮するなって。彼女は、望月響。勇者、望月鈴音さまの姉ちゃんだよ。魔族なのは訳アリだから、処遇は族王さま次第だな」


 リンマと呼ばれたドレッドヘアーは、私への嫌悪感を剥き出しにして。


 『ぐぬう、確かに、王都に魔族を引き入れてしまった以上、我らが魔族を監視した上で、処遇は族王さまの判断を仰がねばならぬか」


 エルフ同士が話し合う間に、加賀先生が私に向き直り。


 「学生がこの騒動に巻き込まれていることを危惧して、エレオノーラさんに連れられてきたら。まさか、私の教え子が六人も関わっているなんて……。ここに来て正解だったわ。皆は私が日本に帰してあげるから、望月さんたちも大和君も、安心なさい」


 可能性だけで、加賀先生は異世界にやって来たのか。

 随分と思い切りがいいなあ。


 「大和君、貴方も日向君同様に、エルフの女の子に鼻の下を伸ばして、ヘラヘラとついてきちゃったんでしょ。響さんと鈴音さんまで巻き込んで! 本当に、貴方たちはどうしようもないバカね!」


 高雄さんの的外れな突っ込みに、流石の武蔵も、うんざりとした表情になり。


 「おいおい、俺を祐也と一緒にしないでくれ。鈴音が連れて行かれそうになったから、俺も一緒に来ただけだよ」


 高雄さんは私と視線を合わせて、武蔵の言葉に嘘が無い事を理解したのか。


 「大和君、ごめんなさい。言葉が過ぎたわ。鈴音さんと響さんの為に、この世界に来たのね。少し見直したわ」


 高雄さんの素直な謝罪に武蔵は破顔し。


 「まあ、いいよ。誤解さえ解けたならな。それより、高雄こそ、なんで来たんだ?」


 高雄さんは困り顔になり。


 「私は、その。リンマさんに泣いて土下座されてしまって、断り切れなくなってしまって」


 あのドレッドヘアーは、私には挑発的な態度をとって、高雄さんには泣き土下座なんてやらかしたのか!


 「高雄さん、そんな理由で戦争に参加してしまってよかったの? エルフが戦っているのは、この世界の人間なのよ。まさか、相手は天使だの、魔族だなんて、中途半端な説明を受けたわけじゃないでしょうね?」


 私は鈴音の幸せの為なら、この手を、あるいは牙を、血で濡らすことも躊躇しない。

 だけど、現代社会で生活する普通の人間が、ましてや、女性教師や高校生が、人殺しなんてできるんだろうか?


 高雄さんは血相を変えて。


 「な、なんですって! リンマさんからは邪悪な神と、その下僕と戦ってくれとしか、聞いてないわよ!」


 ドレッドヘアーは、詐欺師か!

 怒気を抑えるために、深呼吸をしてから。


 「リンマとやらは、嘘は吐いてないわね。問題はその下僕の中核は、この世界の人間なのよ」


 高雄さんは蒼白になって、ドレッドヘアーに詰め寄る。


 「リ、リンマさん。響さんが戦争の相手は、この世界の人間だなんて! 本当なの!」


 ドレッドヘアーは、胸を張り。


 「勿論です! 私たちエルフの敵は、唯一神の先兵たる人間どもです!」


 高雄さんは、切れ長な瞳に涙を浮かべ、ドレッドヘアーに平手打ちを入れる。


 「酷い、酷い、酷い! 私を騙したわね! 人殺しなんて! 人殺しなんて! 私に出来るわけがないじゃない!」


 世の中には騙される方が悪い詐欺師がいる。

 ドレッドヘアーはその類だろうが、心情的に私がドレッドヘアーの言い分を、支持する筋合いはない。


 高雄さんの涙交じりの絶叫を聞き、朱理が蒼い顔で私に駆け寄り。


 「ひ、響。高雄さんが言っていた事って本当なの? ひ、人殺しだなんて」


 朱理まで騙されて連れてこられたのか!

 あまりの怒りに目の前が真っ赤に染まる。

 大きく息を吐いてから朱理に話しかける。


 「本当よ。この世界のエルフと人間は、どうやら宗教戦争をしているの。人間が奉じるのは、唯一神。エルフ達は詳しく聞いてないけれど、名乗り方から想像すると、インディアンのようなトーテミズムとか……。あるいはアニミズムのような、自然宗教を信仰しているのでしょうね。朱理はエルフからどんな説明を受けて、この世界にやって来たの?」


 朱理の表情はは蒼白を通り越して、漂白されたように真っ白になる。


 「ウリヤーナさんからは、邪悪な存在との戦いで、エルフの子供たちも殺されていると聞いて。子供たちが殺されていて……。そんな状況を私の力で変えられるなら、と思って」


 「ウリヤーナとやらも嘘は言ってないのよ。問題はエルフたちにとって、この世界の人間は邪悪な存在らしいの」


 加賀先生がいつの間にか、私達の傍に来て、震える高雄さんと朱理の背中を順番に抱き寄せながら。


 「大丈夫、貴方たちは戦場になんか出なくていい。私が貴方たちの分も戦うから。相手が神だろうと人間だろうと、先生が全部やっつけてしまうから」


 先生の表情を見ると、完全に覚悟を決めている事がはっきりわかる。

 教え子の為に、そこまで……。


 雰囲気をぶち壊すように、チャラ男がしゃしゃり出てくる。


 「皆、そんな思いつめた顔するなって! 人間だろうがなんだろうが、俺がバッチリ決めてやるよ!」


 私はジト目になり、チャラ男の表情を窺う。


 「あんた、そんな調子に乗ってると、真っ先に戦死するわよ」


 チャラ男は歯を見せて笑いながら。


 「この俺が、聖凰学院(せいおうがくいん)のナンバーワンなんだぜ! 俺の可愛い女の子達が泣いてる時に、立ち上がらないなら、ナンバーワンに相応しくない! ドーンと、俺に任せておきな!」


 胸を叩きながら、ドヤ顔をするチャラ男。

 いや、日向君を初めて見直した。

早くも修羅場になってしまいました。

R15 残酷描写有の表示通り、

今後も笑えない展開もありますが、

あまり深刻になりすぎないように、

明るいエピソードも入れていきたいと考えてます。

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